時の情景

琉斗六

文字の大きさ
2 / 31

1-2

しおりを挟む
「先生、さよ~なら~」

 子供たちが手を振りながら散っていく。

「ああ、気を付けて帰れよ~」
「かれしさんもさよ~なら~」

 意味を分かって言ってるのかどうかも怪しいが、思わずガクッとなった。

「いや、違うから!」

 友達同士で走り出した子供たちに、俺の弁解が聞こえたかどうか……。

「ところで、ちょっと離れてくれないか?」
「せっかく再会出来たのに……」

 俺の背中にべったり張り付いていた超絶美青年は、名残惜しそうに離れてくれた。
 全く、意味が分からない。

「それで……えっと、どちらさまでしたっけ?」

 俺の問いに、超絶美青年はなんだかしょんぼりした顔になった。

「お別れした時より背が伸びましたから、覚えてないのかもしれませんが。セオドア・アシュワースです」
「ええっ! テオか?」
「はい、僕です!」

 俺が名を思い出したのがさもさも嬉しいみたいに、テオの背景に幻覚の花が咲き乱れて見える。
 花粉症が再発して鼻がモゾモゾしそうな、満面の笑みだった。

「そのテオが、どうして……」

 と言いかけて、ふと周囲から微妙な視線が集まっていることに気付いた。

「ねえセンセ、それセンセのイイヒト?」

 ニヤニヤしながら、雑貨屋のおばちゃんが言った。

「違うから」
「あら~、違うの! 残念ねぇ!」
「センセのイイヒトなら、村に住んでくれると思ったのに!」
「いーい目の保養になったのにねぇ!」

 どんどん、おばちゃんの数が増えてくる。

「ちょ、ちょ、ちょっと! 勝手なこと言わない! 勝手な憶測はしない! 勝手な流言は禁止!」

 と、俺が必死に訂正をしている横で、なぜかテオが「僕、トキオミさんのイイヒトに見えますか?」などと火に油を注いでいる。

 慌ててテオの手を掴んで、俺は逃げるようにその場を去った──が。

「きゃーーーー!」

 テオの手を掴んで小走りに移動を始めた途端に、おばちゃんの黄色い悲鳴が上がった。

「センセにも春が来たわ~」
「赤くなってるわよ、センセ~!」

 ああ、もう、おばちゃんってのは、どうしてこうもノリが強引なんだ。

「ここを見つけるの、とても大変でしたよ」
「大変というか……。それ以前に、なんで俺を……?」
「もちろん、お慕いしているからです」
「おひたしがどうしたって?」
「お慕いです。フフフ、相変わらずトキオミさんは面白いですね」

 にこりと笑うテオに、俺は引きつった笑みを返す。
 初対面の時からピッカピカの美少年だと思っていたが、今のテオは完全に "こぼれるような色気" をまとった美青年だ。
 優しげな目元はアラン・ドロンかジェラール・フィリップかってぐらいの二枚目っぷりで、にこりと微笑めばおばちゃんじゃなくたって黄色い悲鳴の一つも上げたくなる。

──異世界の美形って、破壊力ありすぎだろ……。

 正面から見ると、その気がない俺ですらぞわぞわしてくる。
 村のおかみさんたちがキャーキャー言うのも道理ってもんだ。

──しかし "お慕い" って、なんだよ……?

 俺は、自我もないただの能力である "翻訳" スキルに向かって問いかけていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

トリップしてきた元賢者は推し活に忙しい〜魔法提供は我が最推しへの貢物也〜

櫛田こころ
BL
身体が弱い理由で残りの余生を『終活』にしようとしていた、最高位の魔法賢者 ユーディアス=ミンファ。 ある日、魔法召喚で精霊を召喚しようとしたが……出てきたのは扉。どこかの倉庫に通じるそこにはたくさんのぬいぐるみが押し込められていた。 一個一個の手作りに、『魂宿(たまやど)』がきちんと施されているのにも驚いたが……またぬいぐるみを入れてきた男性と遭遇。 ぬいぐるみに精霊との結びつきを繋いだことで、ぬいぐるみたちのいくつかがイケメンや美少女に大変身。実は極度のオタクだった制作者の『江野篤嗣』の長年の夢だった、実写版ジオラマの夢が叶い、衣食住を約束する代わりに……と契約を結んだ。 四十手前のパートナーと言うことで同棲が始まったが、どこまでも互いは『オタク』なんだと認識が多い。 打ち込む姿は眩しいと思っていたが、いつしか推し活以上に気にかける相手となるかどうか。むしろ、推しが人間ではなくとも相応の生命体となってCP率上がってく!? 世界の垣根を越え、いざゆるりと推し活へ!!

取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない

二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者 12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。 「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。 だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。 好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。 しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく―― 大事だから傷つけたくない。 けれど、好きだから選べない。 「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。 「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、 一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

専属バフ師は相棒一人しか強化できません

BL
異世界転生した零理(レイリ)の転生特典は仲間にバフをかけられるというもの。 でもその対象は一人だけ!? 特に需要もないので地元の村で大人しく農業補佐をしていたら幼馴染みの無口無表情な相方(唯一の同年代)が上京する!? 一緒に来て欲しいとお願いされて渋々パーティを組むことに! すると相方強すぎない? え、バフが強いの? いや相方以外にはかけられんが!? 最強バフと魔法剣士がおくるBL異世界譚、始まります!

処理中です...