マエストロ神楽坂 de リサイタル

琉斗六

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2.ピアノの帝王のそのまた上の女帝

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 マエストロ神楽坂のストリートピアノは、思いの外、好評だった。
 というのも、置かれたピアノがベルゼブブ? だかケルベロス? だかいう、ピアノ弾きには垂涎のマトだったらしい。
 その情報は、ひやかしに見に来たキャンパスチームの学友繋がりの音楽学生達から聞いた。
 俺はピアノを習った事は無く、ついでに言えばロック畑の人間なので、クラシックにはとんと疎い。
 バンドをやっていた当時の俺の担当はギターだから、ギターのメーカーならそれなりに知っているが、ピアノとなると五里霧中だ。
 だから彼らの浮かれっぷりが、最初は良く判らなかった。
 だけどその学生達が言うには、ピアノ弾きというのは、他の楽器奏者と違って〝専用器〟を持てない、ちょっと境遇がムズカシイ状況なのだという。
 言われてみれば、あんなバカでかい楽器を持ち歩くワケにはいかないので、当然の話だ。
 特にストリートピアノの場合、箸にも棒にもかからない楽器が出るか、愛を囁いても飽き足らない楽器が出るか、ロシアンルーレットのようなモノ…らしい。
 で、くだんのベルゼブブは、ピアノメーカーの中でも一流と呼ばれるところの製品なんだそうだ。
 演奏者が楽器にこだわりたい気持ちは、俺にも解る。
 前述の通り、口コミが広がって店に来たヤツが俺に向かって「ピアノいいですか?」などと声を掛けられる回数も増えた。
 とはいえ、大学生とか高校生ぐらいの若者の演奏だから、まだまだいろいろと青い。
 そんな事をツラツラと考えながら、俺がいつものポジションでグラスを磨いていると、扉のチャイムが爽やかな音を立てて開いた。

「こんにちわ」
「いらっしゃいませ」

 俺は定型句な挨拶を自動応答みたいに声に出して、店内に入ってきた面々の顔を見る。
 声を掛けてきた人物を先頭に、三人が入口のところで立ち止まっていた。

「すみません。こちらでピアノを自由に使わせていただけるって、聞いてきたんですけど」

 声変わりはとうに済ませましたって感じだけど、敬一クンより遥かに若くみえる青年団だ。
 とはいえ、敬一クンは大学生とは思えぬほど〝落ち着きすぎのハイティーン〟で、エビセンと並んでいても同い年に見えない。
 そしてエビセンといえば、いまだに高校生のバイトに間違われる事もある〝永遠の美青年〟みたいな男だから、この場合は敬一クンでもエビセンでもなく、ホクト辺りを基準に考えるべきか。
 とすると、たぶん高校生っぽいけど、大学生の可能性も捨てちゃダメ…ぐらいの年齢だ。
 彼らは、店内をグルグル見回して、ちょっと怖じけているようだった。

「ピアノは店の奥ですよ」
「えっと……あの……。なんか注文しなくても大丈夫ですか?」

 恐る恐るといった様子で、彼は俺に訊ねた。
 確かにマエストロ神楽坂はおしゃれカフェの佇まいをしているから、そこで飲食をせずにピアノだけ弾くのは大丈夫かどうか? と思ったらしい。

「はい、大丈夫ですよ。ピアノのある辺りはアナログレコードの展示コーナーですし」
「アナログレコード?」
「なんだよ高貴、レコードも知らないの?」
「うっせ、レコードぐらいわかってるよっ!」

 ちょっと緊張がほぐれたところで、急に子供っぽい様子になり、彼らは店の奥に進んでいった。
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