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10、友人からの手紙
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〔祖母宅:2022年6月24日〕
時計の針が午前4時22分を回った。
カチ、カチ、カチ……
静寂の中、秒針の音だけが時を刻んでいく。
仏間に上がっている、父、母、聴具(さとも)の写真。誕生日で記念に撮った家族写真が遺影になるなんて、当時10歳だった具視は知る由もなかっただろう。
世田谷区の保護マンションが霧の襲撃を受けて丸3年がたち、具視は13歳になっていた。あどけなかった10歳の男の子らしい顔はりりしい少年の顔立ちへと変わり、背はとっくに母と聴具を超える160センチ。肩はゴツゴツと角張り、顔には少々の吹き出物がある。
具視は静かに目を開け、大好きな両親と姉の写真に見入った。姉の写真の前には、果物の盛り合わせにお菓子を、父と母には、お団子と温かいお茶を供えた。
具視は今、母の実家である祖母宅にいる。霧に襲われた後、救急車で病院に搬送され、駆け付けた祖母と再会した。理由は分からないが、父方の祖父母は面会にすら訪れず、形ばかりの葬儀を行い、地方の村にある祖母宅に引っ越した。人口2300人程度の小さな村で、具視は地元の小学校に転校した。世田谷区時代に通っていた小学校は全校児童が500人もいるにぎやかな所だった。だが、今通っている中学校は人数が少ないため、全校児童生徒数は50人未満。小、中一貫校だ。
村人は波江一家が都内で霧に襲われ、具視だけが生き残ったことを知っていた。
化け物。
気持ち悪い。
霧を持ち込まないで。
村から出て行け。
転校初日からひどいいじめに遭い、村ぐるみで嫌がらせを受けた。具視の家だけ町内行事に呼ばれないことは当たり前で、悪口を書かれた張り紙が家の前に張られることもしばしばだった。
そもそも村うんぬん以前に、3年前の事件は全国的に有名な事件として知れ渡っていた。未成年で名前こそ上げられてはいないが、具視は”危険人物”として認識されていた。
そんなわけで、現行友達0人。当然いじめがなくなるということもない。先生も助けてはくれないので、勉強のためだけに通う日々を送っていた。
今まで具視が信じてきた常識は、ただのはりぼてにすぎなかった。指定霧防衛区に定められた東京23区に出没する、霧を吐く化け物”紫奇霧人(しきむじん)”。それを殺す、国に雇われた払霧師という特殊な人たち。後に祖母が教えてくれたことは、具視たちは壁に守られた世田谷区の保護区に暮らしていたということだ。そこでは霧の情報も流通しておらず、まさにかごの中の鳥という状態だったという。父は母の持病のために、大きな病院がある都内で暮らすことを選んだ。
「具視ちゃん。お手紙届いているよ」
朝ご飯の支度をしているところに祖母がやってきた。
「ありがとうございます」
具視はさっそく手紙を受け取った。送り主は藤原也草。彼は、具視を助けてくれた也信の弟だ。一度も会ったことはないが、なんとか警察を頼りに彼の兄に託されたバッジを渡してもらった関係で、手紙をやりとりする仲になった。
彼は都内にある払霧師大学と呼ばれる払霧師を育成する大学に通う16歳の学生だ。手紙の文面を見る限り、彼は真面目一辺倒な男で、面白味こそないが丁寧で誠実な人柄だ。村八分に遭っている具視たちのことを心配する内容や、この間は実戦で紫奇霧人を倒したとの報告が記されていた。今回の内容は、次の通りだ。
今年もあっという間に折り返し地点となったが、元気に過ごしているだろうか。都内は週末にかけて雨模様が続いているが、うだるような暑さよりはマシだと思える。
俺は最近、払霧師協会の実務にかり出されることが多く、研修生とはいえ命を懸けた現場での対応に四苦八苦している。実は先日、協会御三家の米沢流頭首と話す機会があった。その際に、お前の名前が挙がった。頭首いわく、払霧師としての資質があるとのこと。
こんなことを勧めるのは酷なことかと思うが、頭首直々に目をかけてもらえるというのはめったにないことだ。だからぜひ、一度都内に来て払霧師の通過儀礼、守護影(しゅごえい)審査を受けてみてはどうか。村では居場所がないと以前つづっていたから、こちらに来れば龍太郎の部屋を間借りして、一緒に暮らしてもいい。
何度も話したことだが、お前は5時間以上も霧を吸って溶けなかった奇跡に等しい生存者だ。以前、その理由が気になると話してくれたな。審査に誘ったのはそれが理由でもある。大学で霧について学んでみれば、何か分かるかもしれない。
今通っている中学校での勉強について不安に思うだろうが、これには二つ方法がある。一つ目は、都内の中学校へ転校し、そこで学びながら審査に通うという方法。二つ目は、中学校卒業程度認定試験(合格すれば中卒と同等の資格)の勉強と並行して、審査に通うという方法。
俗に言う飛び級制度だ。守護影審査は個人差があるため、1回で合格する人もいれば、何十回とかかる場合もある。そのため、この二つが義務教育課程を修了し、審査にも通えるプロセスとなる。いずれも試験対策は龍太郎か俺が教えるし、転校に関してもこちらで紹介しよう。
払霧師大学は払霧師協会も併設しているため、来てくれれば龍太郎や頭首も紹介しよう。まずは見学というのでも構わない。君がいいと言うのであれば、その旨伝えてくれればうれしい。その際は、往復の新幹線チケットを同封する。
藤原 也草
時計の針が午前4時22分を回った。
カチ、カチ、カチ……
静寂の中、秒針の音だけが時を刻んでいく。
仏間に上がっている、父、母、聴具(さとも)の写真。誕生日で記念に撮った家族写真が遺影になるなんて、当時10歳だった具視は知る由もなかっただろう。
世田谷区の保護マンションが霧の襲撃を受けて丸3年がたち、具視は13歳になっていた。あどけなかった10歳の男の子らしい顔はりりしい少年の顔立ちへと変わり、背はとっくに母と聴具を超える160センチ。肩はゴツゴツと角張り、顔には少々の吹き出物がある。
具視は静かに目を開け、大好きな両親と姉の写真に見入った。姉の写真の前には、果物の盛り合わせにお菓子を、父と母には、お団子と温かいお茶を供えた。
具視は今、母の実家である祖母宅にいる。霧に襲われた後、救急車で病院に搬送され、駆け付けた祖母と再会した。理由は分からないが、父方の祖父母は面会にすら訪れず、形ばかりの葬儀を行い、地方の村にある祖母宅に引っ越した。人口2300人程度の小さな村で、具視は地元の小学校に転校した。世田谷区時代に通っていた小学校は全校児童が500人もいるにぎやかな所だった。だが、今通っている中学校は人数が少ないため、全校児童生徒数は50人未満。小、中一貫校だ。
村人は波江一家が都内で霧に襲われ、具視だけが生き残ったことを知っていた。
化け物。
気持ち悪い。
霧を持ち込まないで。
村から出て行け。
転校初日からひどいいじめに遭い、村ぐるみで嫌がらせを受けた。具視の家だけ町内行事に呼ばれないことは当たり前で、悪口を書かれた張り紙が家の前に張られることもしばしばだった。
そもそも村うんぬん以前に、3年前の事件は全国的に有名な事件として知れ渡っていた。未成年で名前こそ上げられてはいないが、具視は”危険人物”として認識されていた。
そんなわけで、現行友達0人。当然いじめがなくなるということもない。先生も助けてはくれないので、勉強のためだけに通う日々を送っていた。
今まで具視が信じてきた常識は、ただのはりぼてにすぎなかった。指定霧防衛区に定められた東京23区に出没する、霧を吐く化け物”紫奇霧人(しきむじん)”。それを殺す、国に雇われた払霧師という特殊な人たち。後に祖母が教えてくれたことは、具視たちは壁に守られた世田谷区の保護区に暮らしていたということだ。そこでは霧の情報も流通しておらず、まさにかごの中の鳥という状態だったという。父は母の持病のために、大きな病院がある都内で暮らすことを選んだ。
「具視ちゃん。お手紙届いているよ」
朝ご飯の支度をしているところに祖母がやってきた。
「ありがとうございます」
具視はさっそく手紙を受け取った。送り主は藤原也草。彼は、具視を助けてくれた也信の弟だ。一度も会ったことはないが、なんとか警察を頼りに彼の兄に託されたバッジを渡してもらった関係で、手紙をやりとりする仲になった。
彼は都内にある払霧師大学と呼ばれる払霧師を育成する大学に通う16歳の学生だ。手紙の文面を見る限り、彼は真面目一辺倒な男で、面白味こそないが丁寧で誠実な人柄だ。村八分に遭っている具視たちのことを心配する内容や、この間は実戦で紫奇霧人を倒したとの報告が記されていた。今回の内容は、次の通りだ。
今年もあっという間に折り返し地点となったが、元気に過ごしているだろうか。都内は週末にかけて雨模様が続いているが、うだるような暑さよりはマシだと思える。
俺は最近、払霧師協会の実務にかり出されることが多く、研修生とはいえ命を懸けた現場での対応に四苦八苦している。実は先日、協会御三家の米沢流頭首と話す機会があった。その際に、お前の名前が挙がった。頭首いわく、払霧師としての資質があるとのこと。
こんなことを勧めるのは酷なことかと思うが、頭首直々に目をかけてもらえるというのはめったにないことだ。だからぜひ、一度都内に来て払霧師の通過儀礼、守護影(しゅごえい)審査を受けてみてはどうか。村では居場所がないと以前つづっていたから、こちらに来れば龍太郎の部屋を間借りして、一緒に暮らしてもいい。
何度も話したことだが、お前は5時間以上も霧を吸って溶けなかった奇跡に等しい生存者だ。以前、その理由が気になると話してくれたな。審査に誘ったのはそれが理由でもある。大学で霧について学んでみれば、何か分かるかもしれない。
今通っている中学校での勉強について不安に思うだろうが、これには二つ方法がある。一つ目は、都内の中学校へ転校し、そこで学びながら審査に通うという方法。二つ目は、中学校卒業程度認定試験(合格すれば中卒と同等の資格)の勉強と並行して、審査に通うという方法。
俗に言う飛び級制度だ。守護影審査は個人差があるため、1回で合格する人もいれば、何十回とかかる場合もある。そのため、この二つが義務教育課程を修了し、審査にも通えるプロセスとなる。いずれも試験対策は龍太郎か俺が教えるし、転校に関してもこちらで紹介しよう。
払霧師大学は払霧師協会も併設しているため、来てくれれば龍太郎や頭首も紹介しよう。まずは見学というのでも構わない。君がいいと言うのであれば、その旨伝えてくれればうれしい。その際は、往復の新幹線チケットを同封する。
藤原 也草
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