視聴の払霧師

秋長 豊

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22、23人の座長

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 帰り際、2人は具視の日用品を買いに総合スーパーまで付き合ってくれた。ハブラシ、歯磨き粉、コップ、スリッパ、下着類、ごみ袋、ティッシュ……現地調達しようと思っていたものをかごの中に詰めていく。電化製品の特売コーナーを通りかかると、「霧防護マスク 激安! 2万9900円」とでかく書かれた赤字が目に飛び込んできた。

「龍太郎さん、龍太郎さん」

 具視は扇風機コーナーの前で風を浴びていた龍太郎を呼んだ。

「こんなの売ってるんですか?」

「こいつは一般用だ」

 龍太郎は山積みになった小箱の一つを手に取り、商品説明を読み上げた。「使い方は簡単。口元にワンタッチで装着し、毒の霧から身を守ります。内蔵フィルターによって有毒の霧を無害な空気にしてお届け。最大で3時間持続します……最近の製品は性能がいいねぇ。こりゃあ払霧師もびっくり」

「こんなのが一般で流通しているなんて」

「23区にいったい何人が住んでいると思う。1千万人だ。それに対して払霧師の数はたったの165人。もちろん、警察と軍のバックアップもあるからそれ以上の勢力ではある。政府は都民に1人一つの霧防護マスクを持つよう推奨している。結構高いけどな、自己防衛だと思えば安いもんさ」

 具視は銀色の防護マスクを見てうつむいた。今初めて知ったということは、これまで家のどこにもこのマスクを見たことがなかったということだ。両親は霧の存在を知っていたはずだ。でも、なかった。

「保護区の住人は、マスクを持っていなかったんでしょうか」

「持っていた家庭もあったさ」

「ならどうして」

「マスクは万能じゃない。時として、これさえも役に立たない時がある。紫奇霧人の霧は個体によって濃度が違う。強ければ強いほど、毒素も増していく。あのマンションを襲ったのは、少なくとも市販のマスクじゃ限界のあるものだった」

 例えマスクを持っていたとしても、誰も助からなかったというのか?

 そんなものに、勝ち目があるというのか。払霧師に、人間に――

「その点、払霧師が使う特殊マスクは高性能だ。専用の装備と合わせれば10億円以上もする」

 桁外れの金額に夏の暑さなんて吹っ飛んだ。

「じゅっ……10億?」

「特殊マスクに払霧具、抵抗具、対重力用スーツとブーツ、挙げればきりがないが、どれも特注品だからな」

「そんなお金、ありませんよ」

 なんだ、そんなことかと龍太郎は笑った。

「国家予算から出ている金だ。それより聞いて驚け、払霧師の給料ってのは年俸制なんだが、新米でだいたい4千万円。役職に就けばさらに高額契約になる」

「そ、そんなに……龍太郎さんは役職者なんですか?」

「俺は六座だ」

「座?」

「払霧師協会の役職は座で数える。座長っていうのはな、東京23区にそれぞれ1人配置されて区の管轄を任される役職者だ。だから総勢23人の座長がいる。下から順に、23座から一座。その上には御三家上位三座の頭首3人。この3人は、それぞれ光派っていう伝統的な光の流派を持っていて、米沢流、北島流、尾崎流ってのがある。
 協会所属の払霧師はいずれかの光派に所属する仕組みだ。武道にも流派ってもんがあるだろ。簡単に言えばそういうもんだ。まっ、うちはわりかし自由な組織だけど。今のは予備知識と思って覚えておけ。そんじゃあ、そろそろ行こうか」

 具視は自分のお金を使うと言ったのに、龍太郎は「いいのいいの」と押し切って聞かず、結局夕食代もスーパー代も彼が払ってくれた。彼の年俸を考えれば、数万円なんて数えるに足らないものなのだろうか。あの話を聞いた後では、そう考えたくもなる。新米で4千万円ってことは、龍太郎は六座だからもっともらっているだろう。まさか、1億円以上……?
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