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41、なら泣くなよ
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「そ、それは――そうですけど。姉には生前の記憶がないんです。仕方ないでしょう」
「顔、似てるな」
(うれしい)
具視はポリポリ頭をかいた。どうやったら懐いて――いや、どうやったら警戒心を解いてあげられるだろうか。覚えのない名前で呼ばれても、なじみはないのだろうし。ここはやっぱり……
「お嬢さん」
女の子でこれを言われてうれしくない子はいないだろう。そんな偏見にまみれた考えで呼んでみたが、やっぱり聴具(さとも)は身動き一つしなかった。何度も呼んでいるのに、見向きさえしてくれないなんて、こっちのメンタルもすり減りそうだ。
「時間がかかりそうだな」
也草はやれやれといった感じであぐらをかいて、頬づえをついた。これじゃあ一向に距離は縮まらない。これから先、いい関係を築いていくためには、歩み寄りが大切だというのに。具視が撃沈していると、聴具は小さな歩幅で歩きだし、具視の前にやってきた。
(あ、来てくれた)
思わず顔がほころぶ。
やっぱりそうだよな。双子の姉弟なんだから、記憶を忘れていたとしても、きっとどこかで心は通じ合っているはずだ。いろいろ誤解もあったけど、今、ここから新しい関係が始まるんだ。具視は聴具を迎え入れようとして両手を広げた。
しかし、聴具はそんな具視を素通りし、也草の膝の上にチョコンとのった。
「ん?」
也草は目の前に座る小さな女の子の頭を見下ろしてまぬけな声を上げた。頭の先からつま先まで雷に打たれたような衝撃が襲い、具視はむなしい両手を宙に掲げたまま固まった。
(へ?)
なんで?
なんで?
頭の中が混乱して、弟としてのプライドが崩れ落ちる。
也草の膝の上に座ったまま、聴具はさらに彼の胸によりかかり、べったり安心したメス猫のように伸びていた。
「どういうことだ」
(こっちが聞きたい)
具視は無念にも打ち砕かれた理想に心を痛め、布団を頭からかぶりブツブツ独り言に終始した。
「ショックだ。弟である俺のところに来ますよね、普通。双子の姉弟なんですよ? 俺は2歳の時の聴具も知ってるし、5歳の時の聴具だって知ってる。毎年誕生日パーティーを開いてプレゼントだって交換するくらい仲良しだったし!」
「聞こえてるぞ」
しまった。心の声が現実世界に!
具視はウジウジした陰湿な芋虫のようになっていた。
「わ、分かりました」
具視は顔を真っ赤にして振り返った。
「聴具、也草さんはお兄さんでも弟でもありませんよ。弟はこの俺……」
「也草さんがいい」
ガラスのハートが崩れる音がした。しかし、こんなことでへこたれるほど弱い環境で育った人間ではない。具視はそれでもめげずに現在の置かれている現状の原因を考えた。
・嫌われるようなことをした&言った
・単純にコイツ嫌いと思われた
・しつこかった
・最初からなれなれしかった
・也草がかっこよかった
・ロリコンみたいできもかった
確かに、記憶のない状況でお前は死んでいるなど言ってくる男は気持ち悪く見えるだろう。いや、それでも具視は最善を尽くして誠実に対応したつもりだった。
「聴具」
具視は不安になって名前を呼んだ。
(うそだろ、返事もしてくれない)
「じゃ、じゃあ、どんな名前で呼んでほしいですか? なんでもいいですよ。聴具って名前にこだわらなくても、好きな言葉とか……」
聴具は人差し指を顎にあててうーんと考え込んだ。
「お姉ちゃん」
「それじゃあ!」
具視はズダダっと駆け寄って姉の手を取った。
「俺のこと、弟だって認めてくれているんですね!」
あまりにも近いので、グギギと也草が手で具視の顔を押さえる。
朗報だ。弟とも思ってくれていないようなら救いもなかったが、少なくともそうじゃない。聴具は具視の話を信じ、自分がこのでかい弟の姉であることを認めてくれたということだ。
具視は夜になる前、居間に行った。
部屋着で猫のミケンズとくつろぐ龍太郎は、具視が差し出した合格通知書を見て笑顔になった。
「そうか、合格したか」
「俺……」
うじうじする具視の腕を引き寄せ、龍太郎はポンポン背中をたたいた。
「受かったんだろ?」
「はい」
「なら泣くなよ」
「顔、似てるな」
(うれしい)
具視はポリポリ頭をかいた。どうやったら懐いて――いや、どうやったら警戒心を解いてあげられるだろうか。覚えのない名前で呼ばれても、なじみはないのだろうし。ここはやっぱり……
「お嬢さん」
女の子でこれを言われてうれしくない子はいないだろう。そんな偏見にまみれた考えで呼んでみたが、やっぱり聴具(さとも)は身動き一つしなかった。何度も呼んでいるのに、見向きさえしてくれないなんて、こっちのメンタルもすり減りそうだ。
「時間がかかりそうだな」
也草はやれやれといった感じであぐらをかいて、頬づえをついた。これじゃあ一向に距離は縮まらない。これから先、いい関係を築いていくためには、歩み寄りが大切だというのに。具視が撃沈していると、聴具は小さな歩幅で歩きだし、具視の前にやってきた。
(あ、来てくれた)
思わず顔がほころぶ。
やっぱりそうだよな。双子の姉弟なんだから、記憶を忘れていたとしても、きっとどこかで心は通じ合っているはずだ。いろいろ誤解もあったけど、今、ここから新しい関係が始まるんだ。具視は聴具を迎え入れようとして両手を広げた。
しかし、聴具はそんな具視を素通りし、也草の膝の上にチョコンとのった。
「ん?」
也草は目の前に座る小さな女の子の頭を見下ろしてまぬけな声を上げた。頭の先からつま先まで雷に打たれたような衝撃が襲い、具視はむなしい両手を宙に掲げたまま固まった。
(へ?)
なんで?
なんで?
頭の中が混乱して、弟としてのプライドが崩れ落ちる。
也草の膝の上に座ったまま、聴具はさらに彼の胸によりかかり、べったり安心したメス猫のように伸びていた。
「どういうことだ」
(こっちが聞きたい)
具視は無念にも打ち砕かれた理想に心を痛め、布団を頭からかぶりブツブツ独り言に終始した。
「ショックだ。弟である俺のところに来ますよね、普通。双子の姉弟なんですよ? 俺は2歳の時の聴具も知ってるし、5歳の時の聴具だって知ってる。毎年誕生日パーティーを開いてプレゼントだって交換するくらい仲良しだったし!」
「聞こえてるぞ」
しまった。心の声が現実世界に!
具視はウジウジした陰湿な芋虫のようになっていた。
「わ、分かりました」
具視は顔を真っ赤にして振り返った。
「聴具、也草さんはお兄さんでも弟でもありませんよ。弟はこの俺……」
「也草さんがいい」
ガラスのハートが崩れる音がした。しかし、こんなことでへこたれるほど弱い環境で育った人間ではない。具視はそれでもめげずに現在の置かれている現状の原因を考えた。
・嫌われるようなことをした&言った
・単純にコイツ嫌いと思われた
・しつこかった
・最初からなれなれしかった
・也草がかっこよかった
・ロリコンみたいできもかった
確かに、記憶のない状況でお前は死んでいるなど言ってくる男は気持ち悪く見えるだろう。いや、それでも具視は最善を尽くして誠実に対応したつもりだった。
「聴具」
具視は不安になって名前を呼んだ。
(うそだろ、返事もしてくれない)
「じゃ、じゃあ、どんな名前で呼んでほしいですか? なんでもいいですよ。聴具って名前にこだわらなくても、好きな言葉とか……」
聴具は人差し指を顎にあててうーんと考え込んだ。
「お姉ちゃん」
「それじゃあ!」
具視はズダダっと駆け寄って姉の手を取った。
「俺のこと、弟だって認めてくれているんですね!」
あまりにも近いので、グギギと也草が手で具視の顔を押さえる。
朗報だ。弟とも思ってくれていないようなら救いもなかったが、少なくともそうじゃない。聴具は具視の話を信じ、自分がこのでかい弟の姉であることを認めてくれたということだ。
具視は夜になる前、居間に行った。
部屋着で猫のミケンズとくつろぐ龍太郎は、具視が差し出した合格通知書を見て笑顔になった。
「そうか、合格したか」
「俺……」
うじうじする具視の腕を引き寄せ、龍太郎はポンポン背中をたたいた。
「受かったんだろ?」
「はい」
「なら泣くなよ」
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