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50、禁忌保管庫
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「具視さん」
渋咲に呼ばれてはっとした。
「今話したことは、どうかここだけの話に」
議会にこの学長が含まれていたかどうかは、分からない。それを今聞いたところで、どの道期待に沿うものではないことぐらい分かっていた。含まれていたとしたら、確実に反対派だからだ。ただ、中立的な話し方を見る限り、敵でも味方でもない感じがした。
「分かりました」
具視は静かに答えた。
「話を元に戻しますが、これからお姉様にあなたの武器を選んでもらいます。この武器保管庫内にある武器から一つだけ、一番力にそぐうものを」
渋咲は真剣に聴具のことを見た。
「守護影の聴具さん、私の言っている意味が分かりますね」
聴具は怖気づくこともせず、うなずいた。
「棚の引き出しには番号が振られています。その中から選んでください。私と具視さんは見守っていますから、これだと思う番号を言ってください。それから具視さん、あなたは選んでいる間、決して口を出さないように」
こうして守護影による武器選定が始まった。具視は言われた通り、渋咲の1歩後ろで何も言わずに立っていた。
「渋咲学長」
「はい」
具視は棚を見渡す聴具の後ろ姿を見守りながら言った。
「いくらなんでも、棚の引き出しを開けてもらわなければ、中にどんな武器が入っているのか分からないじゃありませんか」
言ってから具視は愚問だったと反省することになった。だって、この人は最初に言っていたじゃないか。守護影が見ている世界は、人間とはまったく違うのだと。自分の力を納める器を探すことなんて、造作もないことなんだと。
しかし、渋咲は「何も問題はありません」と言うだけだった。
具視は小さな後ろ姿を見ながら、どうしようもない病気染みた感傷に浸ることになった。これが悪い癖だとは分かりつつも、脳裏に生前の姉がちらつくのだ。
――もぅ! 具視ったら。
――あははっ、まったくしょうがないんだから。
――お姉ちゃんに任せなさい。
――具視が先に死んじゃったら、私さみしいもん。
具視は天井を見上げた。
「……大丈夫ですか?」
渋咲が心配そうに見ていた。
頬に涙がこぼれていた。
(なんで――)
具視は目をこすって目を背けた。
「こんなだから、情けない弟だって言われるんです、俺は」
具視はかすれた声で笑った。
それから10分たったころ、目の前を歩いていた聴具が棚の中間でピタリと足を止めた。
「ここには、ない」
確かに聴具はそう言った。
隣を見ると、渋咲はまばたきもせずに固まっていた。
「渋咲学長?」
声を掛けるとやっとわれに返った。
「どうしまし――」
「失礼ですが”ない”とはどういうことでしょう、聴具さん」
渋咲は穏やかな口調で尋ねたが、明らかに顔は動揺していた。
「ここに私が欲しいものはない」
具視の脳内は完全に思考停止した。
(ないって、そんなことあるのか)
1万種もの武器が保管してある武器保管庫の中で、ただの一つも選べなかったというのだろうか。
「聴具さん、ここには多種多様な武器が保管されています。必ずあなたの力を納める器はあるはずです。もう一度よく探してください」
しかし、聴具はかたくなに首を振った。一瞬、単なるわがままにも見えたが、次に移した行動に2人は目が奪われた。聴具は真っすぐ通路を歩いて行き、行き止まりとなる壁の向こうへ消えた。
「お姉ちゃん?」
具視は壁をたたいて呼び掛けた。
「この先は?」
「禁忌保管庫です」
なじみのない言葉に具視は眉をひそめた。
「ここで保管されている物とは異なり、何かしらわけのある武器を保管しておく部屋です」
さすがに壁は通り抜けられなかったので、具視は渋咲の案内で裏口から禁忌保管庫に向かった。2重にロックされた扉を開けて中に入ると、古めかしい棚が数列並んでおり、聴具は部屋の角にある棚の前に立って指をさしていた。指は、棚の一点を示していた。
「お待ちください」
渋咲は腰に下げた鍵をジャラジャラといじり、その中からすっかりさびついた小さな鍵を取り出した。鍵を手にした渋咲は、どこか緊張した面持ちで棚の前に立った。逡巡してから鍵を差し込み回した。開かれた棚の中には、それぞれ青と赤のべっこう色をした柄に納まる二つの刀が置かれていた。青の刀は長く、赤の刀はそれより20センチも短い。二つは銀色のひもでつながれていた。
渋咲に呼ばれてはっとした。
「今話したことは、どうかここだけの話に」
議会にこの学長が含まれていたかどうかは、分からない。それを今聞いたところで、どの道期待に沿うものではないことぐらい分かっていた。含まれていたとしたら、確実に反対派だからだ。ただ、中立的な話し方を見る限り、敵でも味方でもない感じがした。
「分かりました」
具視は静かに答えた。
「話を元に戻しますが、これからお姉様にあなたの武器を選んでもらいます。この武器保管庫内にある武器から一つだけ、一番力にそぐうものを」
渋咲は真剣に聴具のことを見た。
「守護影の聴具さん、私の言っている意味が分かりますね」
聴具は怖気づくこともせず、うなずいた。
「棚の引き出しには番号が振られています。その中から選んでください。私と具視さんは見守っていますから、これだと思う番号を言ってください。それから具視さん、あなたは選んでいる間、決して口を出さないように」
こうして守護影による武器選定が始まった。具視は言われた通り、渋咲の1歩後ろで何も言わずに立っていた。
「渋咲学長」
「はい」
具視は棚を見渡す聴具の後ろ姿を見守りながら言った。
「いくらなんでも、棚の引き出しを開けてもらわなければ、中にどんな武器が入っているのか分からないじゃありませんか」
言ってから具視は愚問だったと反省することになった。だって、この人は最初に言っていたじゃないか。守護影が見ている世界は、人間とはまったく違うのだと。自分の力を納める器を探すことなんて、造作もないことなんだと。
しかし、渋咲は「何も問題はありません」と言うだけだった。
具視は小さな後ろ姿を見ながら、どうしようもない病気染みた感傷に浸ることになった。これが悪い癖だとは分かりつつも、脳裏に生前の姉がちらつくのだ。
――もぅ! 具視ったら。
――あははっ、まったくしょうがないんだから。
――お姉ちゃんに任せなさい。
――具視が先に死んじゃったら、私さみしいもん。
具視は天井を見上げた。
「……大丈夫ですか?」
渋咲が心配そうに見ていた。
頬に涙がこぼれていた。
(なんで――)
具視は目をこすって目を背けた。
「こんなだから、情けない弟だって言われるんです、俺は」
具視はかすれた声で笑った。
それから10分たったころ、目の前を歩いていた聴具が棚の中間でピタリと足を止めた。
「ここには、ない」
確かに聴具はそう言った。
隣を見ると、渋咲はまばたきもせずに固まっていた。
「渋咲学長?」
声を掛けるとやっとわれに返った。
「どうしまし――」
「失礼ですが”ない”とはどういうことでしょう、聴具さん」
渋咲は穏やかな口調で尋ねたが、明らかに顔は動揺していた。
「ここに私が欲しいものはない」
具視の脳内は完全に思考停止した。
(ないって、そんなことあるのか)
1万種もの武器が保管してある武器保管庫の中で、ただの一つも選べなかったというのだろうか。
「聴具さん、ここには多種多様な武器が保管されています。必ずあなたの力を納める器はあるはずです。もう一度よく探してください」
しかし、聴具はかたくなに首を振った。一瞬、単なるわがままにも見えたが、次に移した行動に2人は目が奪われた。聴具は真っすぐ通路を歩いて行き、行き止まりとなる壁の向こうへ消えた。
「お姉ちゃん?」
具視は壁をたたいて呼び掛けた。
「この先は?」
「禁忌保管庫です」
なじみのない言葉に具視は眉をひそめた。
「ここで保管されている物とは異なり、何かしらわけのある武器を保管しておく部屋です」
さすがに壁は通り抜けられなかったので、具視は渋咲の案内で裏口から禁忌保管庫に向かった。2重にロックされた扉を開けて中に入ると、古めかしい棚が数列並んでおり、聴具は部屋の角にある棚の前に立って指をさしていた。指は、棚の一点を示していた。
「お待ちください」
渋咲は腰に下げた鍵をジャラジャラといじり、その中からすっかりさびついた小さな鍵を取り出した。鍵を手にした渋咲は、どこか緊張した面持ちで棚の前に立った。逡巡してから鍵を差し込み回した。開かれた棚の中には、それぞれ青と赤のべっこう色をした柄に納まる二つの刀が置かれていた。青の刀は長く、赤の刀はそれより20センチも短い。二つは銀色のひもでつながれていた。
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