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60、具視の師
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前方のモニターに資料が映され、マイクを持った男が登壇した。短く刈り込まれた髪に、角張ったメガネをつけている。
「霧対策課の田代です。資料の1ページを御覧ください……」
最初は東京23区内における霧事件発生件数の報告で、田代は資料に記された件数を読み上げていく。みんな、真剣な表情で渡された資料に目を通している。話は年間の発生件数と23区ごとの発生割合に移り、モニターの画像も切り替わった。
「御覧の通り、発生件数は都心に近いほど増加傾向にあります。23区内で一番発生件数が多い千代田区では62件、6%。前年比150%となっています。千代田座長の与雀さん、近況の報告をお願いします」
具視の前に座っていた与雀は立ち上がると登壇してマイクを取った。
「千代田区の与雀です。ご指摘の通り、当区では年々霧事件の発生件数が増加傾向にあり、3年連続ワースト1位という不名誉な肩書をいただくこととなりました。払霧師の増員を元老委に申請中ですが、新宿、港、中央、文京区周辺でも頻発しているため、該当区としては比較的件数の少ない練馬、足立、北、大田区を予定しています。後ほど元老委から連絡がありますので、各座長の皆さんよろしくお願いします」
与雀はマイクを田代に戻し自分の席に戻った。短い内容ではあるが、要点がしっかりまとまっていて聞きやすかった。大勢の前で理路整然と話す様は、さっきまで人をおちょくるような態度とは別人のように思えた。
その後も何人かの座長たちが登壇し、与雀のように近況報告をした。龍太郎は世田谷区の座長として数分間話し、大田区の青藍は10分ほど話した。かれこれ1時間はたったところで、御三家の頭首から今後の方針に関する話があり、最後に南薺が閉会の言葉を述べた。会議は終了……と思いきや、彼はマイクを持ったまま話を続けた。
「ここで、新しい研修生の紹介を行う」
安心しきっていた具視はその一言でギクッとした。
(……俺のことだよな)
そうらしい。南薺と目が合った。
「波江具視、起立を」
この場にいる全員の視線が具視1点に集まる。具視は呼吸を整えて静かに起立した。
「4月19日付で払霧師大学に入学した。研修生としても協会に所属し、今後は実務にも同行させる予定だ。仮所属の流派は米沢流。先日行われた元老委師弟選考委員会の指名推選により、波江具視の師が決まった。名前を呼ばれた者は起立をして、前へ」
(龍太郎さんが言ってた師の発表か)
具視はその時を待った。
「魚ノ神寿(うおのしんことぶき)」
南薺の口から出た言葉に、座席中央に座っていた男が立ち上がった。脚がすらりと長く、艶のある黒髪を後ろで束ねている。黒い外套の背には”一座”と大きな金の字が刺しゅうされている。南薺と魚ノ神は握手した。南薺が彼の耳元に近づき何か話した。
「頼みましたよ」
この言葉は2人以外の耳には届いていなかった。まばらな拍手が起こり、魚ノ神は全員の前で一礼すると、一直線に具視を見つめた。なぜか彼の目から視線を外せなかった。どこかシャイっぽい笑顔に、キラキラした少年のような瞳。魚ノ神はそのまま具視の前に歩み寄ると大きな手を差し出した。
「こんにちは。僕がきょうから君の師となる魚ノ神寿だ」
具視は勢いよく立ち上がった。
「よろしくお願いします」
具視は彼の手を握り返した。魚ノ神はそれ以上のことを言わず元の席へ戻った。
「波江具視は師の指示を仰ぐように」南薺は言った。「解散」
「霧対策課の田代です。資料の1ページを御覧ください……」
最初は東京23区内における霧事件発生件数の報告で、田代は資料に記された件数を読み上げていく。みんな、真剣な表情で渡された資料に目を通している。話は年間の発生件数と23区ごとの発生割合に移り、モニターの画像も切り替わった。
「御覧の通り、発生件数は都心に近いほど増加傾向にあります。23区内で一番発生件数が多い千代田区では62件、6%。前年比150%となっています。千代田座長の与雀さん、近況の報告をお願いします」
具視の前に座っていた与雀は立ち上がると登壇してマイクを取った。
「千代田区の与雀です。ご指摘の通り、当区では年々霧事件の発生件数が増加傾向にあり、3年連続ワースト1位という不名誉な肩書をいただくこととなりました。払霧師の増員を元老委に申請中ですが、新宿、港、中央、文京区周辺でも頻発しているため、該当区としては比較的件数の少ない練馬、足立、北、大田区を予定しています。後ほど元老委から連絡がありますので、各座長の皆さんよろしくお願いします」
与雀はマイクを田代に戻し自分の席に戻った。短い内容ではあるが、要点がしっかりまとまっていて聞きやすかった。大勢の前で理路整然と話す様は、さっきまで人をおちょくるような態度とは別人のように思えた。
その後も何人かの座長たちが登壇し、与雀のように近況報告をした。龍太郎は世田谷区の座長として数分間話し、大田区の青藍は10分ほど話した。かれこれ1時間はたったところで、御三家の頭首から今後の方針に関する話があり、最後に南薺が閉会の言葉を述べた。会議は終了……と思いきや、彼はマイクを持ったまま話を続けた。
「ここで、新しい研修生の紹介を行う」
安心しきっていた具視はその一言でギクッとした。
(……俺のことだよな)
そうらしい。南薺と目が合った。
「波江具視、起立を」
この場にいる全員の視線が具視1点に集まる。具視は呼吸を整えて静かに起立した。
「4月19日付で払霧師大学に入学した。研修生としても協会に所属し、今後は実務にも同行させる予定だ。仮所属の流派は米沢流。先日行われた元老委師弟選考委員会の指名推選により、波江具視の師が決まった。名前を呼ばれた者は起立をして、前へ」
(龍太郎さんが言ってた師の発表か)
具視はその時を待った。
「魚ノ神寿(うおのしんことぶき)」
南薺の口から出た言葉に、座席中央に座っていた男が立ち上がった。脚がすらりと長く、艶のある黒髪を後ろで束ねている。黒い外套の背には”一座”と大きな金の字が刺しゅうされている。南薺と魚ノ神は握手した。南薺が彼の耳元に近づき何か話した。
「頼みましたよ」
この言葉は2人以外の耳には届いていなかった。まばらな拍手が起こり、魚ノ神は全員の前で一礼すると、一直線に具視を見つめた。なぜか彼の目から視線を外せなかった。どこかシャイっぽい笑顔に、キラキラした少年のような瞳。魚ノ神はそのまま具視の前に歩み寄ると大きな手を差し出した。
「こんにちは。僕がきょうから君の師となる魚ノ神寿だ」
具視は勢いよく立ち上がった。
「よろしくお願いします」
具視は彼の手を握り返した。魚ノ神はそれ以上のことを言わず元の席へ戻った。
「波江具視は師の指示を仰ぐように」南薺は言った。「解散」
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