視聴の払霧師

秋長 豊

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63、黄金色の光

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 遊びつくして外に出るころには、午後4時だった。魚ノ神は具視をお台場の海浜公園まで連れて行った。ここからは、港区や中央区のビル群を背景にレインボーブリッチが見えた。 

「ここから望む東京が僕は好きなんだ」

 潮風を浴びながら魚ノ神は言った。

「これが、僕らの守る23区」

 具視ははっとした。なんとなく見ていた景色が、セピア色に見えた気がした。そうだ、彼は払霧師の一座なのだ。今の具視には想像もできないほど多くのことを経験し、戦ってきた男だ。でも、彼の横顔を見ると、ちっともそんなふうには見えなかった。ほほ笑みをたたえたその顔は、どこか子どをものようで明るい光に満ちていたからだ。

 具視は東京を見つめた。今も、この大都市では1千万人以上もの人たちが生活し、それぞれの人生を生きている。具視の人生はこの都市で終わり、始まった。

「すごいですね、魚ノ神さんたちは。こんなに大きな都市を、限られた少ない人数で守っているなんて」

 魚ノ神は笑んだ。

「守り切れてはいない」
 魚ノ神は真っすぐ前を見て言った。

「救えた命もあったけど、救えなかった命もあった。君なら、きっとそのことをよく理解していると思う」

「それでも、すごいなって思います。自分の身を守れない人にとって、払霧師は希望なんです。絶対にいなくなったらいけない存在。地球上、全ての人を助けられる英雄なんていません。目の前で起こっていることに立ち向かって、目の前で困っている人のこと助ける。立派じゃないですか。例え助けられなかった人がいたとしても、誰が払霧師を責めるでしょうか。命を懸けて戦ってくれた人のことを、誰が侮辱するでしょうか」

 具視は自分の手をグッと握りしめた。

 バイクの排気音とともに龍太郎の家に帰るころには、既に日が暮れていた。魚ノ神がおなかが空いたと言うので、夕ご飯を家で一緒に食べた。龍太郎はすでに仕事に出ていておらず、也草と具視で簡単なご飯を作った。

「いやぁ、ごちそうさま」

「もう行くんですか?」

 立ち上がった魚ノ神を見て具視は言った。

「その前に、ちょっと触りだけやってみないか」
「触り?」

 やる気に満ちた笑みを浮かべ魚ノ神は目を細めた。
「払霧師の払霧三技さ」

 なんのことだろう。具視は唐突に現れた言葉に思考停止した。

「払霧師になる上で、最も基本的な三つの技だ」

「技、ですか」
「影技(えいぎ)、剣技、体技」

 魚ノ神は指折り数えながら言った。

「影技は影の技と書く。残り二つは言わずもがな、だね。まぁ、想像がつかないと思うから、まずはその目で見て実際にやって見た方が早い」

「つまりこれは師弟の鍛錬?」

「そうそう、そういうこと! 基本はこの三つ。今日はそれぞれ触りの部分だけやって慣れる練習をしてみようと思う」

 てっきりバイクで遊びにきただけかと思いきや、まさか直接教えてもらえることになるとは。2人は家の広い庭に移った。

「具視の払霧具は、その刀かい?」

 具視は持ってきた紺碧双紅剣を手にうなずいた。

「だけどこの刀、抜けないんです」

「ちょっと見せて」

 魚ノ神はひょいと刀を持ち上げて観察した。

「確かに、影の術式がかけられていて簡単には抜けないね」

「分かるんですか?」

「見ただけで分かるよ」

(そういうものなのか。ぜんぜん分からない)

「払霧具が使えないんじゃ話にならないから、きょうはこれを使うといい。いつも僕が持ち歩いているスペアの銃刀だ。基本的には刀と変わらないけど、閃光弾も放てる一石二鳥の武器さ」

 魚ノ神はバイクに備え付けられていた刀の一つを抜き取り具視に渡した。

「それじゃあ、さっそくだけど銃刀を抜いてくれるかい?」

 言われた通り銃刀を手に取り、具視は鞘からすっと刀を抜き取った。不均一な黄金色の光がメラメラとあふれ出し視界を明るく染めた。

(すごい)

 具視は勢いの衰えない光に目を細めた。そういえば、也信が霧を払った時も、似たような光がこぼれていた。講義でも習ったが、この光は光反影リズムという守護影のメカニズムらしい。霧をはじくことができる。

「黄金色か」

 魚ノ神はまじまじと見つめて言った。

(色?)

「習ったかどうか分からないけど、光反影リズムが生み出す光にはいくつか色の種類があるんだ。守護影の属性によって光の種類が決まる」

「魚ノ神さん、このままで大丈夫なんですか? 光が、あちこちに拡散しているように見えるんですが」

「大丈夫、まだ慣れていないだけだから」
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