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65、守護影と赤印
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「具視、君が行きたい場所に狙いを定めて見てごらん。そうすれば意思は伝わる」
そんなやり方で聴具に連絡を取ることができるのだろうか? またしても不安な思いにとらわれたが、やってみるしか方法はなかった。具視は意識を集中させ、遠くの壁に穴が開くんじゃないかというくらいじっと見つめ続けた。そんなことを1時間も続けるうちに集中力が切れて瞬きの回数も多くなってきた。
「そろそろ頃合いかな」
魚ノ神は意味ありげな笑みを浮かべて言った。
影の世界では異変が起こっていた。聴具の目の前にある灰色の影が、一番奥の一部だけ突如として真っ赤に染まったのだ。同時に具視の目にも奥にある壁が真っ赤に染まって見えた。
目でもおかしくなったのかと思った時。
「踏み出せ!」
具視は魚ノ神に背中を押され一歩前に足を踏み出していた。それからのことは、交通事故に遭ったみたいに覚えていなかった。気が付いたら鼻血を流しながら天井をぼんやりと見つめていたのだ。
「あれ? 俺は……」
魚ノ神はタオルで具視の鼻を押さえながら笑った。
「成功だよ。初めてでこんなに早く走れるのは上出来だ。赤い目印みたいなのが見えただろ? あれが連絡を取れた証、赤印だよ」
のっそり身を起こして後ろを振り返ると、さっきまで自分が立っていた場所が遠くに見えた。反対側を振り返ると、赤く染まって見えた目標の壁が手に届く位置にあった。なんだろう、この変な感じは。体はここにあるのに心は置いてきたような気さえする。
「うっ」
急にこみあげてきた吐き気に具視は口元を押さえうずくまった。
「今日はちょっと頑張り過ぎたね」
魚ノ神はひょいと具視をかかえ縁側に寝かした。具視は止まらない鼻血の止血に休む暇もなかった。
「それじゃあ、またね。僕はこの辺で帰るよ」
「はい」
「そうだ。最初の課題を提示しておこう。ある程度は自主練習できると思うし。まず一つ、光を安定させること。二つ、移動が制御できるようになること。大学構内にオリバスの箱っていう練習施設があるから、そこを使うといい。予約制だから、使用の2日前には事務局に連絡しておいてね。初めてだろうし、也草くんに案内してもらうといい」
「オリバスの箱?」
施設にしては奇抜な名前だ。
「オリバスの箱は、大学が海外の研究チームと連携して3年前に完成させた払霧師専用の最先端練習施設のことだよ。3から100面体まで壁を変更可能で、面数が多ければ多いほど難易度は上がる。影技である移動の強化が主な目的で、瞬発力、判断力の向上に役立つ。僕らが学生の頃はこんな便利な施設はなかったから、広い体育館の壁を利用したものだよ」
ちょっと想像力が追いつかない。最先端とは言っているが、3から100面体の壁を変更可能というのは……
「開発者はアメリカ人のマイケル・J・オリバスさんというK大学の教授だ」
「アメリカと連携しているんですか?」
「30年以上前からK大学とは連携協定を結んでいる。東京23区内で発生した紫奇霧人に関して共同研究をしたいとの申し出があったからだ。そのおかげで対霧スーツとマスクの性能は各段に上がった。オリバスさんは半年に1度来日して大学に来るから、今度紹介しようか」
「いや、俺なんてただの学生ですし……」
「この間彼と電話して君のことを話したら、ぜひ会ってみたいと言っていたよ。それじゃあきょうはこの辺で帰るね。何かあれば電話してくれれば出るから」
なんだかとんでもない話になった。やっぱり一座長ともなると人脈の幅が違う。具視はティッシュで鼻血を拭きながら手を振った。破裂音を出しながらバイクははるかかなたへ消えた。もうすっかり月が高く昇っていて、ぼーっとしていたらふと影から聴具が現れた。
「お姉ちゃん?」
両鼻にティッシュを突っ込んだ状態だったので変な声が出た。
「私のせいだね、具視」
「違いまっ」
弁解しようとしたところで喉が詰まった。
「まさか移動があんな速いなんて……」
「移動?」
「見るのとやるのとじゃ全然違う。移動していた間の記憶がまったくないんです。気付いたら壁にぶつかってて。そういえば壁が赤っぽく見えたような。もしかしてあれが……」
「本当に?」
聴具の驚いた顔を見て具視は目を丸めた。
「お姉ちゃんも見えたんですか?」
「うん……」
「でも、どうやって」
「いつもはね、具視の影の世界は真っ暗でなにも見えない。唯一、外につながる出口だけが光り輝いて見える。だけど、さっき、目の前に灰色の影が見えるようになって。きっとあれは、あなたが見ている物の影。ずっと具視が同じ方向を見ているから、どうしたんだろうって、思っていたら、奥が赤色に見えたの」
「それですよ!」
「えっ?」
具視はうれしくて飛び上がった。
「魚ノ神さんが言っていた赤印! 守護影と連絡を取るってこと! 俺が見ている世界がお姉ちゃんに伝わったんですよ。俺が行きたい場所を意識すればお姉ちゃんに伝わって、その場所まで移動できる。そうだ、なんともありませんでしたか? 具合悪くなったり」
「私は平気。それより具視が……」
「すぐ治りますよ、こんなの。魚ノ神さんは、あまりの速さに気分が悪くなったり、普通の動体視力では追いつかないから、同時に鍛える体技を習得する必要があるって言ってました。俺の場合、まだ速さに慣れていないだけですよ」
1人合点がいってやる気をみなぎらせていると、聴具はちょこんと隣に座ってよりかかってきた。
そんなやり方で聴具に連絡を取ることができるのだろうか? またしても不安な思いにとらわれたが、やってみるしか方法はなかった。具視は意識を集中させ、遠くの壁に穴が開くんじゃないかというくらいじっと見つめ続けた。そんなことを1時間も続けるうちに集中力が切れて瞬きの回数も多くなってきた。
「そろそろ頃合いかな」
魚ノ神は意味ありげな笑みを浮かべて言った。
影の世界では異変が起こっていた。聴具の目の前にある灰色の影が、一番奥の一部だけ突如として真っ赤に染まったのだ。同時に具視の目にも奥にある壁が真っ赤に染まって見えた。
目でもおかしくなったのかと思った時。
「踏み出せ!」
具視は魚ノ神に背中を押され一歩前に足を踏み出していた。それからのことは、交通事故に遭ったみたいに覚えていなかった。気が付いたら鼻血を流しながら天井をぼんやりと見つめていたのだ。
「あれ? 俺は……」
魚ノ神はタオルで具視の鼻を押さえながら笑った。
「成功だよ。初めてでこんなに早く走れるのは上出来だ。赤い目印みたいなのが見えただろ? あれが連絡を取れた証、赤印だよ」
のっそり身を起こして後ろを振り返ると、さっきまで自分が立っていた場所が遠くに見えた。反対側を振り返ると、赤く染まって見えた目標の壁が手に届く位置にあった。なんだろう、この変な感じは。体はここにあるのに心は置いてきたような気さえする。
「うっ」
急にこみあげてきた吐き気に具視は口元を押さえうずくまった。
「今日はちょっと頑張り過ぎたね」
魚ノ神はひょいと具視をかかえ縁側に寝かした。具視は止まらない鼻血の止血に休む暇もなかった。
「それじゃあ、またね。僕はこの辺で帰るよ」
「はい」
「そうだ。最初の課題を提示しておこう。ある程度は自主練習できると思うし。まず一つ、光を安定させること。二つ、移動が制御できるようになること。大学構内にオリバスの箱っていう練習施設があるから、そこを使うといい。予約制だから、使用の2日前には事務局に連絡しておいてね。初めてだろうし、也草くんに案内してもらうといい」
「オリバスの箱?」
施設にしては奇抜な名前だ。
「オリバスの箱は、大学が海外の研究チームと連携して3年前に完成させた払霧師専用の最先端練習施設のことだよ。3から100面体まで壁を変更可能で、面数が多ければ多いほど難易度は上がる。影技である移動の強化が主な目的で、瞬発力、判断力の向上に役立つ。僕らが学生の頃はこんな便利な施設はなかったから、広い体育館の壁を利用したものだよ」
ちょっと想像力が追いつかない。最先端とは言っているが、3から100面体の壁を変更可能というのは……
「開発者はアメリカ人のマイケル・J・オリバスさんというK大学の教授だ」
「アメリカと連携しているんですか?」
「30年以上前からK大学とは連携協定を結んでいる。東京23区内で発生した紫奇霧人に関して共同研究をしたいとの申し出があったからだ。そのおかげで対霧スーツとマスクの性能は各段に上がった。オリバスさんは半年に1度来日して大学に来るから、今度紹介しようか」
「いや、俺なんてただの学生ですし……」
「この間彼と電話して君のことを話したら、ぜひ会ってみたいと言っていたよ。それじゃあきょうはこの辺で帰るね。何かあれば電話してくれれば出るから」
なんだかとんでもない話になった。やっぱり一座長ともなると人脈の幅が違う。具視はティッシュで鼻血を拭きながら手を振った。破裂音を出しながらバイクははるかかなたへ消えた。もうすっかり月が高く昇っていて、ぼーっとしていたらふと影から聴具が現れた。
「お姉ちゃん?」
両鼻にティッシュを突っ込んだ状態だったので変な声が出た。
「私のせいだね、具視」
「違いまっ」
弁解しようとしたところで喉が詰まった。
「まさか移動があんな速いなんて……」
「移動?」
「見るのとやるのとじゃ全然違う。移動していた間の記憶がまったくないんです。気付いたら壁にぶつかってて。そういえば壁が赤っぽく見えたような。もしかしてあれが……」
「本当に?」
聴具の驚いた顔を見て具視は目を丸めた。
「お姉ちゃんも見えたんですか?」
「うん……」
「でも、どうやって」
「いつもはね、具視の影の世界は真っ暗でなにも見えない。唯一、外につながる出口だけが光り輝いて見える。だけど、さっき、目の前に灰色の影が見えるようになって。きっとあれは、あなたが見ている物の影。ずっと具視が同じ方向を見ているから、どうしたんだろうって、思っていたら、奥が赤色に見えたの」
「それですよ!」
「えっ?」
具視はうれしくて飛び上がった。
「魚ノ神さんが言っていた赤印! 守護影と連絡を取るってこと! 俺が見ている世界がお姉ちゃんに伝わったんですよ。俺が行きたい場所を意識すればお姉ちゃんに伝わって、その場所まで移動できる。そうだ、なんともありませんでしたか? 具合悪くなったり」
「私は平気。それより具視が……」
「すぐ治りますよ、こんなの。魚ノ神さんは、あまりの速さに気分が悪くなったり、普通の動体視力では追いつかないから、同時に鍛える体技を習得する必要があるって言ってました。俺の場合、まだ速さに慣れていないだけですよ」
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勿論二世だ。
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