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80、託されたもの
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〔千代田区内の病院〕
翌日、麻美と名乗った紫奇霧人の襲撃によって、払霧師大学の学生3人と一般の中学生1人が被害にあったとの記事が大々的に報じられた。昨晩の事件があってすぐ、具視は千代田区内にある病院に搬送された。身近に人の姿をしてひそんでいる紫奇霧人。しかも、あの麻美という女は3年前、具視のマンションを襲撃した紫奇霧人の一人。マンションから、突き落とした張本人だった。
こうして無事生還できたのも――聴具のおかげだ。
舌をかみ、血を流すことで影の領域にアクションを起こせるかもしれない、その判断が功を奏した。聴具がそれに応え、力を貸してくれなければ、今頃どうなっていたか分からない。それに――
具視はそばに置いている紺碧双紅剣を見た。どんなに頑張っても鞘から抜くことさえできなかった野田連太郎の古刀の刀身をこの目で見ることができた。鞘が光の糸となってほつれ、そこから現れた青と赤の刃。もう一度刀を抜いてみようと何度も試したが、紺碧双紅剣は抜けなかった。
突然隣のカーテンがめくれ、仏頂面をした連次が現れた。そりゃあそうか。目が覚めたら全てが済んだ後だったのだから。ここは病院だし、そんな顔をしたくもなるだろう。
「れ、連次さん……お隣だったんですね」
「不甲斐ない」
「え?」
「何もできなかった」
連次は手から力を抜いた。
「あんなにも簡単に敵の手に落ちて……姉上さえ助けられなかった」
具視はてっきり理不尽なことを言われるのかと思っていたので、今の言葉には驚いた。彼も彼なりに責任を感じていたということだろう。
「あんなの、不可抗力ですよ。俺だって、お姉ちゃんが力を貸してくれなければあの危機は脱せませんでしたから」
「紺碧双紅剣が抜けたのも……姉の力なのか」
「抜けたというのには語弊が――」
「抜けたも同然だ」
どうやら連次は事件の話を聞いているらしい。どこか物知り顔だった。
「結界とか、術式とか、よく分かりません。けど、俺は姉のおかげだと思ってます」
当初、具視が野田連太郎の刀を選んだことを認めないと言っていた連次。しかし、今の彼は違う。真っ向から否定していたかつての疑心暗鬼な目をしてはいない。
「誰にも抜くことができなかった父上の剣を抜いた。守護影の術式というのは数式のようなものだ。必ず答えとなる数は決まっている。それを解いた。意味が分からなくとも、守護影の力によって」
連次は顔を上げるとかすかに笑んで具視を見た。
「俺には無理だった」
彼が笑うのを初めて見た。いつも仏頂面で、笑ったことなんてないんじゃないかとすら思っていた。だけど、こうして見るとちゃんと10代の少年なのだ、と思えるほど幼さの残る表情だ。かつて陽が言っていた”親のエゴ”という言葉。彼女自身はそれが払霧師を目指す理由なのだと話していたが、一方で
”連次は私と違う。本気で、お父さんを超えたいと思ってる”
とも。
だからこそ連次は父親の剣にこだわった。具視が武器選定で選んだ払霧具が、紺碧双紅剣だったことを、認めはしないと。
彼は今言った。俺には無理だったと。息子として父を超えたいと、そう本気で思っていた。だからこそ、この剣に一種の執着を見せていた。だが、新しい持ち主である具視の存在を認めたかのように、今の連次は穏やかな表情をしていた。
「大事に使ってくれ」
「そう言ってもらえて光栄です。三平連次さん。この剣、大事に使います」
連次が父親を超えて先へ行きたいという気持ちは、具視にとって共感できるものではない。具視は今の自分を超えて強くなりたいという気持ちの方が高いからだ。憧れならある。圧倒的強さを持つ、払霧師界トップの橋本南薺、明るくて前向きな地獄谷龍太郎、心強い友人の藤原也草、命を救ってくれた也信――
確かに違う。
だけど、それは彼も同じはずだ。父親を超えるということは、今の自分をも超えて先にいくことと同義なのだから。同時にこうも思う。野田連太郎に一度会ってみたかったと。彼はどんな人だったのか。どうして彼がかけた守護影の術式を、何の縁もない具視が解けたのか……
翌日、麻美と名乗った紫奇霧人の襲撃によって、払霧師大学の学生3人と一般の中学生1人が被害にあったとの記事が大々的に報じられた。昨晩の事件があってすぐ、具視は千代田区内にある病院に搬送された。身近に人の姿をしてひそんでいる紫奇霧人。しかも、あの麻美という女は3年前、具視のマンションを襲撃した紫奇霧人の一人。マンションから、突き落とした張本人だった。
こうして無事生還できたのも――聴具のおかげだ。
舌をかみ、血を流すことで影の領域にアクションを起こせるかもしれない、その判断が功を奏した。聴具がそれに応え、力を貸してくれなければ、今頃どうなっていたか分からない。それに――
具視はそばに置いている紺碧双紅剣を見た。どんなに頑張っても鞘から抜くことさえできなかった野田連太郎の古刀の刀身をこの目で見ることができた。鞘が光の糸となってほつれ、そこから現れた青と赤の刃。もう一度刀を抜いてみようと何度も試したが、紺碧双紅剣は抜けなかった。
突然隣のカーテンがめくれ、仏頂面をした連次が現れた。そりゃあそうか。目が覚めたら全てが済んだ後だったのだから。ここは病院だし、そんな顔をしたくもなるだろう。
「れ、連次さん……お隣だったんですね」
「不甲斐ない」
「え?」
「何もできなかった」
連次は手から力を抜いた。
「あんなにも簡単に敵の手に落ちて……姉上さえ助けられなかった」
具視はてっきり理不尽なことを言われるのかと思っていたので、今の言葉には驚いた。彼も彼なりに責任を感じていたということだろう。
「あんなの、不可抗力ですよ。俺だって、お姉ちゃんが力を貸してくれなければあの危機は脱せませんでしたから」
「紺碧双紅剣が抜けたのも……姉の力なのか」
「抜けたというのには語弊が――」
「抜けたも同然だ」
どうやら連次は事件の話を聞いているらしい。どこか物知り顔だった。
「結界とか、術式とか、よく分かりません。けど、俺は姉のおかげだと思ってます」
当初、具視が野田連太郎の刀を選んだことを認めないと言っていた連次。しかし、今の彼は違う。真っ向から否定していたかつての疑心暗鬼な目をしてはいない。
「誰にも抜くことができなかった父上の剣を抜いた。守護影の術式というのは数式のようなものだ。必ず答えとなる数は決まっている。それを解いた。意味が分からなくとも、守護影の力によって」
連次は顔を上げるとかすかに笑んで具視を見た。
「俺には無理だった」
彼が笑うのを初めて見た。いつも仏頂面で、笑ったことなんてないんじゃないかとすら思っていた。だけど、こうして見るとちゃんと10代の少年なのだ、と思えるほど幼さの残る表情だ。かつて陽が言っていた”親のエゴ”という言葉。彼女自身はそれが払霧師を目指す理由なのだと話していたが、一方で
”連次は私と違う。本気で、お父さんを超えたいと思ってる”
とも。
だからこそ連次は父親の剣にこだわった。具視が武器選定で選んだ払霧具が、紺碧双紅剣だったことを、認めはしないと。
彼は今言った。俺には無理だったと。息子として父を超えたいと、そう本気で思っていた。だからこそ、この剣に一種の執着を見せていた。だが、新しい持ち主である具視の存在を認めたかのように、今の連次は穏やかな表情をしていた。
「大事に使ってくれ」
「そう言ってもらえて光栄です。三平連次さん。この剣、大事に使います」
連次が父親を超えて先へ行きたいという気持ちは、具視にとって共感できるものではない。具視は今の自分を超えて強くなりたいという気持ちの方が高いからだ。憧れならある。圧倒的強さを持つ、払霧師界トップの橋本南薺、明るくて前向きな地獄谷龍太郎、心強い友人の藤原也草、命を救ってくれた也信――
確かに違う。
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注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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