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第4章 星宝
13、ダイワン|ヨヴェンフッド
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「君が朝見せてくれた写真なんだけど」
エシルバは思わずむせ返ってしまい、慌てて隣に座るジグのことを見た。
「あれはダイワン|ヨヴェンフッドだ」
「誰なの?」
「昔、ゴドランを陰で支える二人の男がいた」
ジグはどこか遠い目で語った。
「二人?」
「知る人ぞ知る二人組。英雄の右手と呼ばれたダイワン|ヨヴェンフッド。英雄の左手と呼ばれたヴィーラ|アリュード。二人は表立って名を残したシブーではないけれど、多忙なゴドランのサポート役として活躍していた。ヴィーラは確かな剣の腕を買われてゴドランのボディーガードになった」
「でも、あの写真がダイワンなんてどういうこと?」
「ダイワンは影武者なんだ」
エシルバはもう一度例の写真を見返した。
「似過ぎだよ」
「双子みたいだろう? でも、面白いことに二人は赤の他人なんだ。世界には似た顔の人が三人存在すると言われているけど、ここまで似ているとは私も驚きだったよ」
「彼はもう使節団の人ではないんでしょう?」
ふとジグの顔が曇った。
「彼は反乱を境に姿を消してしまった。ヴィーラも同様にいなくなったが、彼とは違うんだ。ダイワンは、ジリー軍の中でも恐ろしい集団ビエイダの一員になってしまった」
「彼も裏切ったってこと?」
エシルバは目に力を込めて聞いた。
「そういうことさ」
ジグは近くで警戒を怠らないアムレイたちを見つめながら言った。
「写真はロッフルタフの堂下町。あまりにも近過ぎる距離だ」
「どうしてわざわざ来るんだろう? もしかして、ナジーンを連れ戻しにきたのかな? それとも、口封じに……」
「目的は分からないが、この件は慎重に調査を進めなければならない」
エシルバは不安げにうなずいた。
「ヴィーラって人は敵なの?」
「敵ではないと、僕は信じている」
エシルバはホテルに戻ってからも二人のことが頭の中から離れず、モヤモヤとした気持ちが晴れることはなかった。父親とものすごく近い距離で仕事をしていた二人の存在は、エシルバにとって完全に予期せぬものだった。
急にジグのゴイヤ=テブロが鳴った。彼は話し終えるとエシルバのことを見てニコッと笑った。「無事に可決だ。今日は安心して眠れるね」
今日はもう仕事でヘトヘトに疲れていたせいか気を失うかのごとく眠りについてしまった。
翌朝、いよいよ博覧会での仕事も最終日となった。午後三時、機械館で催されるマンホベータⅡのお披露目会に参加するため、エシルバたちは余裕をもってホテルを出発した。
なんでもマンホベータⅡは機械館の目玉らしく、その日の発表のために世界各国から報道陣が押し寄せるのだそうだ。会場につくと、確かに一日目の時より人が桁違いに多かった。カメラやマイクを持った報道陣のスタッフや、企業の制服を着た関係者、一般客――会場は熱気に包まれていた。
会場の表に出る前、ルバーグがエシルバの所にやってきた。
「緊張しているだろうね」
「はい」
「初めは皆そうだ。ただ、アマクの国旗を背負っていることを忘れてはいけない。大使の仕事は国を代表する覚悟がなければ務まるものではないのだから。重責を誇りに思えるようになれば、一人前の大使として認められるようになる」
「本日は、アマクよりシクワ=ロゲン使節団の団員にお越しいただいています」
司会者がマイクで会場に呼び掛け、エシルバたちは用意されたイスの前まで歩いていった。ルバーグ、シィーダーと名前を順に呼ばれ、最後にエシルバの名前が読まれた。いつかテレビの前で見ていた使節団員のように、自分がテレビに映っているなんて信じられない気分だった。元気に、立派にやっているとカリィパム叔母さんに伝えられることを何よりうれしく思った。
館長のクポーティンによる長いあいさつが始まり、最初の緊張がいい具合に緩和されてきた。いよいよ幕が下ろされ、大衆へマンホベータⅡがお披露目された。またたく間にフラッシュがたかれ、奇妙な円盤の姿を目にした人々は驚きの声を上げた。クポーティンは製品の特長や従来製品との比較資料を見せながら、楽しそうに「ここが素晴らしい!」と講釈を垂れていた。
「このたびアマクで開かれた遠隔議会により、このマンホベータⅡは正式採用されることが決まりました。アマク使節団のルバーグより、ロッフルタフ女王からの証書を館長のクポーティンへ贈呈願います」
司会者の言葉とともにルバーグは立ち上がり、証書をクポーティンに手渡した。惜しみのない拍手が送られ、ルバーグはそのまま代表挨拶として演壇に立った。エシルバたち使節団員は彼の丁寧な言葉に耳を澄ましていた。お披露目会の式典が無事に終わり、会場では正式なマンホベータⅡの観覧と試乗体験会が行われた。
「はぁ、緊張したな」
会場裏でウルベータが膝に手をつきながらため息を漏らした。エシルバも初めての外務をやり終えたという実感が徐々に湧いてきて、どっと疲れが襲い掛かってきた。
「エシルバ」
珍しくルバーグが話し掛けてきたので、エシルバはドキッとした。
「初めての外務にしては堂々としていたじゃないか。よく頑張った」
その瞬間、認められたような気がしてエシルバは心の中が温かくなるのが分かった。
エシルバは思わずむせ返ってしまい、慌てて隣に座るジグのことを見た。
「あれはダイワン|ヨヴェンフッドだ」
「誰なの?」
「昔、ゴドランを陰で支える二人の男がいた」
ジグはどこか遠い目で語った。
「二人?」
「知る人ぞ知る二人組。英雄の右手と呼ばれたダイワン|ヨヴェンフッド。英雄の左手と呼ばれたヴィーラ|アリュード。二人は表立って名を残したシブーではないけれど、多忙なゴドランのサポート役として活躍していた。ヴィーラは確かな剣の腕を買われてゴドランのボディーガードになった」
「でも、あの写真がダイワンなんてどういうこと?」
「ダイワンは影武者なんだ」
エシルバはもう一度例の写真を見返した。
「似過ぎだよ」
「双子みたいだろう? でも、面白いことに二人は赤の他人なんだ。世界には似た顔の人が三人存在すると言われているけど、ここまで似ているとは私も驚きだったよ」
「彼はもう使節団の人ではないんでしょう?」
ふとジグの顔が曇った。
「彼は反乱を境に姿を消してしまった。ヴィーラも同様にいなくなったが、彼とは違うんだ。ダイワンは、ジリー軍の中でも恐ろしい集団ビエイダの一員になってしまった」
「彼も裏切ったってこと?」
エシルバは目に力を込めて聞いた。
「そういうことさ」
ジグは近くで警戒を怠らないアムレイたちを見つめながら言った。
「写真はロッフルタフの堂下町。あまりにも近過ぎる距離だ」
「どうしてわざわざ来るんだろう? もしかして、ナジーンを連れ戻しにきたのかな? それとも、口封じに……」
「目的は分からないが、この件は慎重に調査を進めなければならない」
エシルバは不安げにうなずいた。
「ヴィーラって人は敵なの?」
「敵ではないと、僕は信じている」
エシルバはホテルに戻ってからも二人のことが頭の中から離れず、モヤモヤとした気持ちが晴れることはなかった。父親とものすごく近い距離で仕事をしていた二人の存在は、エシルバにとって完全に予期せぬものだった。
急にジグのゴイヤ=テブロが鳴った。彼は話し終えるとエシルバのことを見てニコッと笑った。「無事に可決だ。今日は安心して眠れるね」
今日はもう仕事でヘトヘトに疲れていたせいか気を失うかのごとく眠りについてしまった。
翌朝、いよいよ博覧会での仕事も最終日となった。午後三時、機械館で催されるマンホベータⅡのお披露目会に参加するため、エシルバたちは余裕をもってホテルを出発した。
なんでもマンホベータⅡは機械館の目玉らしく、その日の発表のために世界各国から報道陣が押し寄せるのだそうだ。会場につくと、確かに一日目の時より人が桁違いに多かった。カメラやマイクを持った報道陣のスタッフや、企業の制服を着た関係者、一般客――会場は熱気に包まれていた。
会場の表に出る前、ルバーグがエシルバの所にやってきた。
「緊張しているだろうね」
「はい」
「初めは皆そうだ。ただ、アマクの国旗を背負っていることを忘れてはいけない。大使の仕事は国を代表する覚悟がなければ務まるものではないのだから。重責を誇りに思えるようになれば、一人前の大使として認められるようになる」
「本日は、アマクよりシクワ=ロゲン使節団の団員にお越しいただいています」
司会者がマイクで会場に呼び掛け、エシルバたちは用意されたイスの前まで歩いていった。ルバーグ、シィーダーと名前を順に呼ばれ、最後にエシルバの名前が読まれた。いつかテレビの前で見ていた使節団員のように、自分がテレビに映っているなんて信じられない気分だった。元気に、立派にやっているとカリィパム叔母さんに伝えられることを何よりうれしく思った。
館長のクポーティンによる長いあいさつが始まり、最初の緊張がいい具合に緩和されてきた。いよいよ幕が下ろされ、大衆へマンホベータⅡがお披露目された。またたく間にフラッシュがたかれ、奇妙な円盤の姿を目にした人々は驚きの声を上げた。クポーティンは製品の特長や従来製品との比較資料を見せながら、楽しそうに「ここが素晴らしい!」と講釈を垂れていた。
「このたびアマクで開かれた遠隔議会により、このマンホベータⅡは正式採用されることが決まりました。アマク使節団のルバーグより、ロッフルタフ女王からの証書を館長のクポーティンへ贈呈願います」
司会者の言葉とともにルバーグは立ち上がり、証書をクポーティンに手渡した。惜しみのない拍手が送られ、ルバーグはそのまま代表挨拶として演壇に立った。エシルバたち使節団員は彼の丁寧な言葉に耳を澄ましていた。お披露目会の式典が無事に終わり、会場では正式なマンホベータⅡの観覧と試乗体験会が行われた。
「はぁ、緊張したな」
会場裏でウルベータが膝に手をつきながらため息を漏らした。エシルバも初めての外務をやり終えたという実感が徐々に湧いてきて、どっと疲れが襲い掛かってきた。
「エシルバ」
珍しくルバーグが話し掛けてきたので、エシルバはドキッとした。
「初めての外務にしては堂々としていたじゃないか。よく頑張った」
その瞬間、認められたような気がしてエシルバは心の中が温かくなるのが分かった。
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