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第6章 導き出された答え
22、真実のコイン
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一方で、エシルバはブユの石板を見るたびに焦りを感じるようになっていた。扉を開きアバロンを阻止するまでの道のりはあまりにも遠く、三つの鍵でさえどこにあるのかも分からない。
大きな心配事がないままに時は過ぎ、ルバラーと出会ってから二カ月が過ぎた。エシルバはついに休みを返上して地下にこもるようになったが、やはり何の成果も得られなかった。
成果があったと言えば、相変わらず継続中の署名活動だ。初日に千を超える署名が集まって以来、順調に数を伸ばし続けている。この調子でいけば一万を超える署名が集まるのも時間の問題だ。
「ベケツの中にミセレベリーヨ光る……なぁ、バケツの中にある洞窟ってどういう意味だろう。俺、もう頭がおかしくなっちゃったみたいなんだ。これ、チェックつけていいかな」
ある日の仕事帰り。隣を歩いていたリフが困り果てた様子で言った。
「バケツなんてものはなんのヒントにもならない」
エシルバも歩きながらリストを見て言った。
「それより、ウルベータからは何の音さたもなしかい?」
エシルバは足を止めてリフを見た。「まだ有力な情報も得られていないよ」
「分かってる。気長にやるしかないんだ。このリストのこともね」
そう言ってリフはまた歩き続けた。二人が元気なさそうに広場を歩いているところに、人ごみをかき分けてカヒィが叫んだ。
「おーい! 二人とも、すごいことが起こったんだ! 僕らはやったんだ!」
息を切らして走ってきたカヒィは、興奮冷めやまぬまま二人に一部のデータを見せた。
「これって……」
エシルバが目を凝らしてよく見ると、カヒィのチェックリストに表示されたある一文にしっかりとマークがつけらてていた。
「銀のつるぎは真実のコインによりミセレベリーヨでよみがえる」
エシルバは静かに読み上げた。
「これが、唯一まともに読める文章だった。きっとこの文字をトロレル語で書いているのは、多言語による目くらましをするためだったんだ。これが本当の意味なんじゃない?」
「でかしたぞ! カヒィ」リフがでかい声で言った。
「コインってなんだろう? 深い意味はともかく、これで新しいヒントが手に入った。ありがとう」
大樹堂に戻って歩き出したエシルバを見て、二人も追い掛けてきた。
「どこにいくの? エシルバ」カヒィが聞いた。
「ルバラーの所! 二人も一緒に行こう」
こうして三人はかけっこしながら地下の広間に急いだ。ぜいはぁ息を切らしながらたどり着くと、リフが見覚えのある後ろ姿を指さしながら叫んだ。
「ポリンチェロ! なんだ、もうここに来てたのか!」
楽しそうにルバラーとおしゃべりしていた彼女は、振り返って息遣いの荒い三人をみて「まぁ」とのんきな声を上げた。
エシルバはさっそくカヒィが見つけた一文をポリンチェロに見せた。するとどうだろう、エム=ビィの翻訳が誤訳なんてケチをつけていた彼女の顔に驚きと喜びがみるみるうちに浮かび上がった。
「ヒントは真実のコイン、この言葉ね! カヒィ、見つけてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
「つまり、古代トロレル語で書かれた原文をカチフ語で訳すと、太陽の部分がコイン、すなわち硬貨……という意味になるのだけれど」
ポリンチェロが興奮から一転自信をみるみる失っていった。
「カチフ語は主に北トロレルで使われていた言語だ。今は使われていないがね」
話を聞いていたのか、ルバラーがつえをつきながらやってきた。
「しかし、君たちはなぜそんな難解な言語を訳すことができたのかい? カチフ語の辞書はおろか、翻訳できるソフトも開発されていないというのに」
四人が顔を見合わせていると、カヒィがおずおずとこう繰り出した。
「エム=ビィという世界一の人工知能が僕らに教えてくれたんです」
「エム=ビィ?」ルバラーは考えるしぐさをした。
「五二歳の紳士ですよ」
エシルバがそう言うと、周りは思わず笑った。
「随分と博学な人工知能なんだね。私もその紳士にぜひお会いしたい。しかし、君たちはなぜ、そんな難しい言葉を調べているんだい?」
「ルバラー教授!」エシルバは身を乗り出して言った。「あなたが教えてくれた言葉ですよ! 銀のつるぎは真実の太陽にてミセレベリーヨによみがえる。カチフ語で訳すとこうなります。――銀のつるぎは真実のコインによりミセレベリーヨでよみがえる。真実のコイン、これこそが重要なヒントなんだ」
ルバラーは最初圧倒されていた。やがて瞬きを増やし、驚きに満ちた含み笑いをした。
「ちょっと待ってくれ」
ルバラーはイスを手繰り寄せて座ると、コンピューターで電子辞書とデータベースを起動させた。素早くログインするち、索引をかけ、膨大な量の史料から【カチフ語】の項目を指で押した。情熱のこもった目で索引リストを追い掛け、彼はメモを取り始めた。
「私としたことがとんだ盲点を突かれたよ!」
ルバラーは額に手を添えながら天井に顔を向け、放心状態で目を閉じた。
「こんな単純な組み合わせに今まで気が付かなかったなんて。ご名答だ。君たちは大きな謎の一つを解き明かしたんだよ」
ルバラーは上機嫌にそう言うと、四人の目の前にある一覧を提示した。そこに連なっていたのはこんな項目だった。
■ブユの暴走伝説にまつわる十二の星宝
・アマクの鍵
・トロレルの鍵
・ブルワスタックの鍵
・銀のたまご
・銀のつるぎ
・太陽の石台
・ブユの石板
・死の水面鏡
・真紅の眼
・金のコンパス
・銀のコンパス
大きな心配事がないままに時は過ぎ、ルバラーと出会ってから二カ月が過ぎた。エシルバはついに休みを返上して地下にこもるようになったが、やはり何の成果も得られなかった。
成果があったと言えば、相変わらず継続中の署名活動だ。初日に千を超える署名が集まって以来、順調に数を伸ばし続けている。この調子でいけば一万を超える署名が集まるのも時間の問題だ。
「ベケツの中にミセレベリーヨ光る……なぁ、バケツの中にある洞窟ってどういう意味だろう。俺、もう頭がおかしくなっちゃったみたいなんだ。これ、チェックつけていいかな」
ある日の仕事帰り。隣を歩いていたリフが困り果てた様子で言った。
「バケツなんてものはなんのヒントにもならない」
エシルバも歩きながらリストを見て言った。
「それより、ウルベータからは何の音さたもなしかい?」
エシルバは足を止めてリフを見た。「まだ有力な情報も得られていないよ」
「分かってる。気長にやるしかないんだ。このリストのこともね」
そう言ってリフはまた歩き続けた。二人が元気なさそうに広場を歩いているところに、人ごみをかき分けてカヒィが叫んだ。
「おーい! 二人とも、すごいことが起こったんだ! 僕らはやったんだ!」
息を切らして走ってきたカヒィは、興奮冷めやまぬまま二人に一部のデータを見せた。
「これって……」
エシルバが目を凝らしてよく見ると、カヒィのチェックリストに表示されたある一文にしっかりとマークがつけらてていた。
「銀のつるぎは真実のコインによりミセレベリーヨでよみがえる」
エシルバは静かに読み上げた。
「これが、唯一まともに読める文章だった。きっとこの文字をトロレル語で書いているのは、多言語による目くらましをするためだったんだ。これが本当の意味なんじゃない?」
「でかしたぞ! カヒィ」リフがでかい声で言った。
「コインってなんだろう? 深い意味はともかく、これで新しいヒントが手に入った。ありがとう」
大樹堂に戻って歩き出したエシルバを見て、二人も追い掛けてきた。
「どこにいくの? エシルバ」カヒィが聞いた。
「ルバラーの所! 二人も一緒に行こう」
こうして三人はかけっこしながら地下の広間に急いだ。ぜいはぁ息を切らしながらたどり着くと、リフが見覚えのある後ろ姿を指さしながら叫んだ。
「ポリンチェロ! なんだ、もうここに来てたのか!」
楽しそうにルバラーとおしゃべりしていた彼女は、振り返って息遣いの荒い三人をみて「まぁ」とのんきな声を上げた。
エシルバはさっそくカヒィが見つけた一文をポリンチェロに見せた。するとどうだろう、エム=ビィの翻訳が誤訳なんてケチをつけていた彼女の顔に驚きと喜びがみるみるうちに浮かび上がった。
「ヒントは真実のコイン、この言葉ね! カヒィ、見つけてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
「つまり、古代トロレル語で書かれた原文をカチフ語で訳すと、太陽の部分がコイン、すなわち硬貨……という意味になるのだけれど」
ポリンチェロが興奮から一転自信をみるみる失っていった。
「カチフ語は主に北トロレルで使われていた言語だ。今は使われていないがね」
話を聞いていたのか、ルバラーがつえをつきながらやってきた。
「しかし、君たちはなぜそんな難解な言語を訳すことができたのかい? カチフ語の辞書はおろか、翻訳できるソフトも開発されていないというのに」
四人が顔を見合わせていると、カヒィがおずおずとこう繰り出した。
「エム=ビィという世界一の人工知能が僕らに教えてくれたんです」
「エム=ビィ?」ルバラーは考えるしぐさをした。
「五二歳の紳士ですよ」
エシルバがそう言うと、周りは思わず笑った。
「随分と博学な人工知能なんだね。私もその紳士にぜひお会いしたい。しかし、君たちはなぜ、そんな難しい言葉を調べているんだい?」
「ルバラー教授!」エシルバは身を乗り出して言った。「あなたが教えてくれた言葉ですよ! 銀のつるぎは真実の太陽にてミセレベリーヨによみがえる。カチフ語で訳すとこうなります。――銀のつるぎは真実のコインによりミセレベリーヨでよみがえる。真実のコイン、これこそが重要なヒントなんだ」
ルバラーは最初圧倒されていた。やがて瞬きを増やし、驚きに満ちた含み笑いをした。
「ちょっと待ってくれ」
ルバラーはイスを手繰り寄せて座ると、コンピューターで電子辞書とデータベースを起動させた。素早くログインするち、索引をかけ、膨大な量の史料から【カチフ語】の項目を指で押した。情熱のこもった目で索引リストを追い掛け、彼はメモを取り始めた。
「私としたことがとんだ盲点を突かれたよ!」
ルバラーは額に手を添えながら天井に顔を向け、放心状態で目を閉じた。
「こんな単純な組み合わせに今まで気が付かなかったなんて。ご名答だ。君たちは大きな謎の一つを解き明かしたんだよ」
ルバラーは上機嫌にそう言うと、四人の目の前にある一覧を提示した。そこに連なっていたのはこんな項目だった。
■ブユの暴走伝説にまつわる十二の星宝
・アマクの鍵
・トロレルの鍵
・ブルワスタックの鍵
・銀のたまご
・銀のつるぎ
・太陽の石台
・ブユの石板
・死の水面鏡
・真紅の眼
・金のコンパス
・銀のコンパス
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