鬼精王

希彗まゆ

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だって、年下

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「う……ん、いい匂い……」


漂ってきたいい香りにいい気持ちになって寝返りを打った拍子に、ソファから落っこちる。


「いたた……」


腰を押さえているわたしに、


「大丈夫か」


青髪の美青年が、近寄ってくる。

夢じゃなかったのか……ちょっと期待してたのに。

ぐったりとしたわたしに、霞が呼びかける。


「苺ちゃん、お腹空いてるだろ? もう昼過ぎだからな。今、食事そっち持ってくからな~」

「え、昼過ぎ!? って食事!? あんた料理出来るの!?」


立ち上がって見てみれば、霞はいそいそとキッチンからリビングのテーブルへと食事を運んできた。


「【鬼精王】に出来ないことはないぜ。ほら、苺ちゃんの大好物の鰹節かけ納豆と雷豆腐の味噌汁と炊き込みご飯だよ。夜は素麺とバンバンジーでいい?」

「わあスゴイ! ありがとう! いただきまーす!」


雷豆腐の味噌汁をすする。うーん、美味しい!

我ながら状況に慣れるのが早いなとは思うけど、悩んでたって仕方ないもんね。

食べながら、じっとこちらを見つめている三人に気づく。


「あの……あんた達は食べないの?」

「俺達は特に食事を摂らなくても生きていけるから」


禾牙魅さんが言うと、霞が意味ありげに微笑んだ。


「でもそうだな~、強いて食事と言うならば女の子の……いてっ、禾牙魅殴んなよ」


途中で拳を上げた禾牙魅さんに文句を言う霞を、


「警戒されたら元も子もないんじゃない?」


と宥める架鞍くん。


なんだろう?


「? なに? 女の子の?」


ハテナマークでいっぱいのわたしに、


「知りたかったら俺の」


と言いかけて禾牙魅さんに口を塞がれる霞。


もがもが言う霞におかまいなしに、禾牙魅さんはわたしに言った。


「気にするな。それより早く食べてしまえ」

「う……うん」


止まっていた手を動かしてごはんを口に入れながら、わたしはなおも考えていた。


今夜俺の? 部屋に行けば分かるのかな?





夜までだらだらと自分の部屋で過ごして。

夜になって、わたしは架鞍くんが使っている部屋に行った。

やっぱり霞の言うことが気になるし、でも霞は軽そうだったから架鞍くんなら年下だし身の危険もないだろうと思ったから。


だけど、ノックしても返事がない。

寝たのかな? でも意地悪そうだったからわざと返事してくれないのかも……。


──次の機会でも、いいか。


「お風呂入ってこようっと」


いったん部屋に戻ってお風呂の準備をして、脱衣所兼洗面所に行く。


「まったく、とんでもないことになっちゃったなあ……。霞って人も架鞍って子も意地悪そうだし」


服を脱ぎながらつぶやく。お風呂場の扉を開けながら、ため息をついた。


「唯一まともで優しそうなのは禾牙魅さんだけ……」


あんまりに気配がないから、お風呂場に入ってからようやく気づいた。

──架鞍くんが、裸でそこに立っている。

や、お風呂場なんだから裸なのは当たり前なんだけど。


一瞬固まったわたしは、


「ご、ごめん!」


となぜか謝ってしまいつつ慌ててタオルで身体を隠してお風呂場の扉を開けようとするが、開かない。


実に楽しそうな霞の声が、外からする。


「お前ら一番仲悪そうだから、親睦深めるまで出してやらねえからそう思えよ~!」

「その声はナンパ男ねっ!? 開けなさいよ!」


ムカついたので名前なんて呼んでやらない。
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