鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
上 下
9 / 59

架鞍の異変

しおりを挟む


なんだかこの生活にも、いつの間にか慣れてきた。

朝も昼も夜も、それぞれの時間の時以外は、リビングで霞と禾牙魅さんと話をして、架鞍くんはすぐそばで雑誌を読んでいる。


この夜も、そうだった。

最初よりも三人と仲良くなった気がして、わたしは霞とかなりきわどい話もしていた。


「それにしてもすっかり馴染んじゃったよなあ苺ちゃん。ここら辺で一晩俺と大人の世界を体験してみない?」

「あんな痛いのはもう絶対イヤ」

「相手の男がヘタすぎたんだろ?」

「へー、霞ってスゴイ自信があるんだね」


ソファに座ってテレビのチャンネルを変えていた禾牙魅さんが、口を挟む。


「霞は【鬼精界】でもかなりのワザ師だからな」


わ、ワザ師って。


「霞はやめておけ」

「どうして?」


尋ねるわたしに、禾牙魅さんのかわりに霞が悪戯っぽく笑いながら答えた。


「自分が食っちゃいたいからに決まってんじゃん」

「俺は……」


禾牙魅さんが言いかけたとき、ふいと架鞍くんがリビングを出て行った。

今まで三人で話している間に席を立つなんてことはなかったのに。


「架鞍くん……どうしたんだろう?」


こういう話題、嫌いだったのかな? それとも何かイヤなことでも思い出させたのかも……。


「ガキの考えてることはわかんねえなあ」


霞は呑気にそんなことを言い、禾牙魅さんは無言だ。


「わたし、ちょっと見てくるね」


心配になったわたしは、ソファから立ち上がってリビングを出た。


【鬼精王Side】



苺が去った後。


「気づいてるか?」


いつもよりも真顔で、霞が禾牙魅に問いかける。禾牙魅はうなずいて答えた。


「ああ。苺の中でだいぶ【鬼精虫】が成長しているのが気配で分かる」

「気配でも分かるほどだぜ……成長しきるまであと半分ってとこか……」





【苺Side】



架鞍くんは、どこにもいなかった。

部屋の外から呼んでも返事がなかったし、またお風呂かとも思ったけれど、今まで【鬼精王】達は三人一緒でひとりで急に離れるなんてことはなかったのに。


そうして自分の部屋に戻った時。

突然わたしの身体中を、引っ掻くような痛みが襲った。前の街中での比ではない、あれ以上だ。


「は、っ……!」


たまらずに倒れ込むわたしの視界に、誰かが入ってきて電気を消し、部屋の扉を閉める音がする。

──架鞍くんだった。


「架鞍くん、また……また、わたしの中で……」


架鞍くんは静かにわたしを見下ろしている。


「【鬼精虫】が半分くらいまで成長してくるとね、そうやって勝手に暴れ出したりするようになるんだよ」

「助けて……くれに、きたの……?」


また前のように、助けてくれるのだろうか。

架鞍くんは黙って、倒れているわたしの上に覆いかぶさった。


「そうだよ」


そう言って架鞍くんは、わたしの服をぐっと掴み、胸元を引き裂いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,722pt お気に入り:3,809

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,566pt お気に入り:2,188

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,452pt お気に入り:16,126

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:3,569

処理中です...