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真面目で優しくて
しおりを挟む外に出ることを制限される、ということはけっこうな不便だ。
あれから数日はおとなしくしていたけど、家にばかりいると気分まで滅入ってくる。
「外に出たい」
お昼過ぎ、リビングでそうぼやくと、
「お前ここ数日ずっとそれだな」
と禾牙魅さんに突っ込まれた。
「だってせっかくの夏休みなのに、家の中ばっかりじゃつまんないでしょ? それに、外に出たいって言っても出してくれないし……三人のうち誰かと一緒に行動してればいいんじゃなかったの?」
そう、わたしの行動はかなり制限されていた。
「この前一人で出かけた罰でしょ」
そこらへんの雑誌を読みながら、架鞍くん。
「う、それを言われると……」
二の句もつげなくなる。
霞がいつもの笑顔で、キッチンの掃除をする手を止めて言った。
「そろそろいいんじゃないか? 苺ちゃんも反省したようだしさ。苺ちゃん、誰か選んで一緒に外出してこいよ」
その言葉に、わたしの心が明るくなる。
「本当!? ……でも三人全員と一緒じゃ、いけないの?」
「最低二人は残ってないと、家の中に【鬼精鬼】に結界とか罠でも張られる可能性があるからなあ」
「それだけ【鬼精鬼】の力は強大だということだ」
霞と禾牙魅さんが教えてくれる。
「そうか……それじゃあ……」
誰と一緒に行こう、と考えた瞬間に禾牙魅さんの姿に視線が行く。
この三人の中なら、絶対的に禾牙魅さんかな。
「禾牙魅さん、つきあってくれる?」
「ああ。別に構わない」
禾牙魅さんは特別表情を変えもせず、うなずいてくれた。
そしてわたしと禾牙魅さんは連れだって、街中に出た。
といってもデートってわけでもないし、映画館もなんだかな…と思ったので、ウィンドウショッピングだけ。
それでも好きな服や化粧品を見つけては喜ぶわたしに、禾牙魅さんは嫌な顔ひとつせずつきあってくれた。
気づけば、もう夕方。
「ウィンドウショッピングも楽しんだし、最後に行きたいところあるんだけどいい?」
わたしはそう提案してみる。
「いいが、そんなにはしゃいで明日疲れないか?」
「平気平気!」
わたしが禾牙魅さんを連れて行ったのは、クレープ屋さん。
ここはお気に入りのクレープ屋さんで、街に出たら必ず寄るところだった。
「すみませーん、チョコバナナクレープくださーい」
わたしの注文に、「少々お待ち下さいませ」とバイトのお姉さんが愛想よく準備をしてくれる。
「随分甘い匂いだな」
「あ、ゴメン、禾牙魅さん甘い匂い苦手?」
「いや。気にするな」
そういえば禾牙魅さんて、甘いものそんなに好きじゃなさそうなイメージ。
あくまで見た目や雰囲気から、だけれど。
わたしがそう判断していると、バイトのお姉さんが、美味しそうなクレープを差し出してくれた。
「お待たせしました。彼氏さんのほうも如何ですか?」
「!」
わたしは危うくクレープを取り落としそうになる。
「あ、い、いえいいです」
彼氏さんだなんて……! やっぱりこういうところに男女でくると、そう見えるのかな? うわー恥ずかしい!
そろそろと顔を上げると、真っ赤になっている禾牙魅さんを発見した。
「禾牙魅さん……? 顔、すごく赤いよ……?」
「馬鹿、見るな」
「あ、ご、ごめんなさい」
「…………」
禾牙魅さん、もしかして照れてる……?
禾牙魅さんでも、照れることってあるんだ……。
ドキドキが止まらなくて、帰り道で食べながらのクレープの味も分からなかった。
◇
そんなことがあった、次の日。
4人でリビングにいると、インターホンが鳴った。
「誰だろ? 近所の人かもしれないから、あんたたちは隠れてて」
三人に言い置き、玄関に出てガチャッとドアを開ける。すると、ずいっと身体を押し込むようにしてガラの悪そうな男が入ってきた。
「いい品物持ってきたんだけど、ネェちゃんひとつどうだ? 化粧品専門だからちょうどいいんじゃないか?」
う……ガラ悪そう……ドア、迂闊に開けるんじゃなかった……! 早く追い返しちゃおう。
「い、いえ、わたし化粧品に興味ないので、けっこうです」
男は「へーぇ」と言ってわたしの身体を素早く値踏みするように観察してから、
「一人?」
と聞いてきた。
ちゃっちゃと答えて、ちゃっちゃと帰ってもらおう。
「はい、一人ですけど……あのすみませんけど、……きゃぁっ!」
途端、男が両肩をつかんで迫ってきた。どういうつもりなの!?
「今日ひとつも売れなかったんだよねェ。ネェちゃんの身体で慰めてくれよ」
やだやだやだっ、つかまれてるの肩だけだけど気持ち悪いっ鳥肌が立つ!
必死に逃れようと身をよじっているところへ、低音の声が響き渡った。
「では俺の憤りも貴様の身体で慰めてもらおうか」
振り向くと、禾牙魅さんが怒りの表情で立っている。いつの間に、来てくれていたんだろう。禾牙魅さんはそして、目にもとまらぬ速さで男の手をねじり上げた。
「いてっ! 憤りとかなんだよ!? 俺はこのネェちゃんにだけしか用は、っぎゃぁ!!」
骨の折れるような、鈍い音がする。
「あ、折れた♪」
ひょこっと顔を出していた霞が、笑顔で楽しそうに言う。男は悲鳴を上げながら、すたこらと去って行った。
「あ、りがとう禾牙魅さん」
まだ恐さに震えるわたしに禾牙魅さんは、真顔で口を開く。
「お礼はいらない。それより苺、次からはちゃんと相手を確認してから出るように」
「う、うん……でも、今まであんな人来たことなかったし想像もしてなくて……」
「俺がいなかったらお前はどうなっていたか想像してみろ」
いつになく厳しい口調の禾牙魅さんの言うとおり、想像してみる。禾牙魅さんがいなかったら……今頃わたしは……。
「コワいよ、禾牙魅さん」
男に迫られたショックとで、涙があふれてくる。
「そんなの、想像したくないよ」
「……すまない。だけど……お前にも分かってほしかったんだ、少しは自分を護る気持ちを持つことを」
わたしの涙を、禾牙魅さんが指で拭ってくれる。禾牙魅さんは、わたしのために言ってくれてるんだ……。今までこんなに頼りがいのある男の人に出逢ったこと、なかったな。
「……うん、分かった……ありがとう、禾牙魅さん」
そう言うと、禾牙魅さんはぽんぽんと頭を撫でてくれた。禾牙魅さんは真面目で優しい。胸が甘くときめくのは、きっと……気のせいじゃない……。
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