アトリエ「ファルム」、開業いたします

希彗まゆ

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ざくざくクッキーチーズケーキ その2

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 ひとしきりキャンディの味を楽しむと、リーシアはさっそく依頼の品の作成に取りかかった。

「えっと、作り方はっと……」

 ●ざくざくクッキーチーズケーキ(ワンホール)

 ※食材1(クッキー生地)
 ・小麦粉──50g
 ・バター──10g
 ・砂糖──10g
 ・塩──1g
 ・卵黄──1個ぶん

 ※食材2(チーズケーキ)
 ・クリームチーズ──200g
 ・とろとろチーズ──10g
 ・砂糖──40g
 ・たまご──1個
 ・卵黄──2個ぶん
 ・生クリーム──60g
 ・バター──35g
 ・はちみつレモン酒──大さじ一杯
 ・ブランデー──小さじ半分

 ※作り方
  ①食材1をすべてボウルに入れ、よく練り混ぜ、手で捏ねる。
  ②壺に入れ、一息に焼き上げる。
  ③焼きあがった②(クッキー生地)をビニール袋に入れ、ざくざくにつぶす。
  ④食材2をすべてボウルに入れ、よく練り混ぜる。
  ⑤クッキー生地と④を型に流し込み、天板に載せる。
  ⑥出来上がったら貯蔵庫などで少し冷やして完成。

 ☆お好みでフルーツソースなどをかけてもおいしく召し上がれます。

「うーん、なんだか一気に複雑になったな」

 チョコの実ジュースのときより、ハイレベルな感じがする。
 だが今回もチョコの実ジュースのとき同様、レシピ本には細かく書き込みや図が載っているので、わかりにくいということはない。
 このとおりに丁寧に作ればおそらく間違いはないだろう。

「今回は壺を二回にわけて使うんだね」
「そういうことになるわね」

 リーシアの独り言に、ノーラが相槌を打つ。
 二回にわけて壺を使うということは、集中力もいつもの二倍必要だということだ。
 これは心してかからねばならない。

「リーシア。どんな難しい場合も、リラックスすることが必要よ。肩の力は抜くのよ」
「うん……そうだね。緊張して力が入ったら、いいものが作れないよね」

 ノーラのさりげない助言がありがたい。
 リーシアはひとつ深呼吸し、食材を広いキッチンテーブルの上に広げた。

 まずはクッキー生地のぶんの食材1だ。
 ボウルにバターを入れ、溶かし棒と呼ばれるもので混ぜて溶かす。
 普通に泡だて器で混ぜても溶けるのだが、溶かし棒で溶かすと溶かし棒の特徴として適温に発熱し、バターなどが格段に溶けやすくなるのだ。

 溶かし棒はこの国では一般的な調理器具で、雑貨屋さんなどでも手に入る。
 卵は卵黄と白身とにわけておいたものを使用する。
 白身の部分はいまは使わないので、これは昼食か夕食を作るときになにかの料理で使用することにする。

 卵一個分の卵黄、そして塩と砂糖をボウルに入れ、溶かしたバターとよく混ぜ合わせる。
 さらに小麦粉を加え、ひとまとめになるまで手で捏ねる。
 キッチンテーブルの上に生地を置き、厚さを整える。

 このとき、厚さはどれくらいでもいい。
 だがあとでざくざくに砕くため、砕きやすいように1.5センチから2センチほどがベストなようだ。
 この生地をいざ壺に入れようとして、リーシアはとあることに気がついた。

「この生地、お姉ちゃんの壺に入らない」
「あら、ほんとね」

 ノーラ壺はノーラが携帯用に持っていた壺で、ちいさめにできている。
 けれど、ノーラはそれを依頼された品物によって、自分の魔法でさまざまなサイズに変えて使っていた。

「もしかしたらわたしが念じれば、違うサイズに変えられるかもしれないわ。やってみるわね」
「うん、頼むね、お姉ちゃん!」

 ノーラはしばし黙り込んでいたが、間もなくしてぼんっと音がして壺が白い煙に包まれた。

「お姉ちゃん!?」

 もしや爆発してしまったのではあるまいか。
 慌てて手で煙を払ったリーシアは、ほっと息をついた。
 壺はさっきよりも三倍ほどの大きさのサイズになって無事でいた。

「うん、サイズ変更も自由自在みたいね! リーシア、これで作ってみて!」
「はーい!」

 クッキー生地を入れるにもたっぷりと余裕のある、じゅうぶんの大きさの壺だ。
 クッキー生地を台のまま壺の中に入れて、しばし待つ。
 もちろんこの間も、「よく眠れるものになりますように」と念じることは忘れない。
 やがてチン、と音がし、リーシアはパーラーを持って中央部分が開いた壺の中を覗き込んだ。

 クッキーがいい感じに焼けたいいにおいが漂ってくる。
 焦げたにおいではない。
 台ごとパーラーにうまく載せて取り出してみると、クッキー生地は見事にこんがりときつね色に焼けていた。

 次はチーズケーキ本体に取りかかる。
 本体というかクッキー生地は下の底部分だけなので、今度はチーズケーキの上の部分、メイン部分の番である。
 クッキー生地を作っているあいだにクリームチーズとバターは常温に戻しておいた。

 次に用意するのはとろとろチーズである。
 とろとろチーズなどの乳製品は食料品店に行けば売っているが、高くつくのでアトリエ「ファルム」ではできる限り自分の手で作ることにしている。
 錬金術は、「できる限りてづくり」が基本でもあるのだ。

 とろとろチーズはクリームチーズにククレの実、その蜜を混ぜたものからできる。
 アトリエ「ファルム」の裏手の畑には、もちろんククレの木も何本も植えられていた。
 とろとろチーズの作り置きがなかったので、いまから作ることにする。
 軍手と長靴を装備して、リーシアは畑に向かった。

 ククレの木のスペースまで行くと、はちみつの香りがいい感じに漂ってくる。
 ククレの木自体は、それほど背が高くはない。
 せいぜい一メートルほどで、花が枯れたあとに三つずつ、直径三センチの球体の蜜が成る。
 それがククレの実である。
 これは蜜の実とも呼ばれる。

 ククレの実もいまが収穫時だったのでちょうどいい。
 蜜は少しかための木の皮で包まれているので、いくつか必要なぶんだけもぎ取った。

 工房に戻ると、手を洗ってククレの実、その皮を剥いていく。
 ちょっと力を入れてずらすようにするだけできれいに剥けるので、まったく苦労はない。
 むしろきれいに剥けるのでストレスなどがたまっているときなどリーシアはよくやっていて、慣れているしこの工程が好きだった。

 器を下に置いて剥くのだが、上半分の皮がつるりと剥けると、用意していた器に蜜がぽたりと落ちる。
 三つ分の蜜がすべて落ちきると、今度は常温に戻しておいたクリームチーズとボウルの中で混ぜ合わせる。

 このクリームチーズのぶんは、食材には入らない。
 とろとろチーズのぶんとしてよりわけておいたものだ。
 クリームチーズとククレの蜜がすっかり混ぜ合わさり、とろっとした感触になればとろとろチーズの完成だ。
 これはさらに貯蔵庫で一時間寝かせるといい味わいになるので、貯蔵庫に入れておく。

 一時間待っているあいだに畑の手入れや洗濯などの家事をする。
 一時間経って使うぶんだけのとろとろチーズを貯蔵庫から取り出し、ボウルに食材2をすべて入れてよく混ぜ合わせる。
 次に、さっき完成させたクッキー生地をビニール袋に入れ、細かく砕く。
 手だけでは細かくできないので、すり棒を使った。
 ビニールの上から軽くゴツゴツと叩くと、クッキー生地が面白いようにざくざくと砕けていく。

 それが終わるとホールケーキの型を用意する。
 型の中にまずクッキー生地をまんべんなく敷く。
 そしてその上に練り混ぜ終わったボウルの中身を流し込むと、ノーラ壺に入れた。
 今度は仕上げということで、さっきよりも強く「よく眠れるものになりますように」と念じる。
 しばらくすると、チン、といつもの音がした。

 ノーラ壺の中央部分がぐいーんと開き、中から熱気とケーキのいい香りが漂ってくる。
 パーラーを使って型を取り出してみると、きれいな薄いクリーム色をしたチーズケーキがほかほかと湯気を立て、おいしそうな香りを放っていた。

「たぶんうまくいった、と思う!」

 リーシアがそう言うと、いままで彼女を気遣って黙っていたノーラは、

「よかった! リーシア、すっかり慣れてきたわね!」

 と褒めてくれた。
 せっかくなので、フルーツソースも作ることにする。
 使用するのはオレンジとブルーベリー。どちらも畑で獲れたのを貯蔵庫に入れておいたものだ。

 オレンジは皮を剥いて果肉部分だけを器に絞る。
 ブルーベリーも同様に。
 それぞれを砂糖と適量の水と一緒にフライパンで煮て、完成だ。
 オレンジソースとブルーベリーソースの二種類ができあがった。
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