11 / 13
11-幸せの青い鳥はそもそもいなかったんだ
しおりを挟む
バスケ部は3年生がいなくなってちょっとだけ寂しくなった。
精神的に頼っていた伊勢崎や日向灘がいなくなった上に、今のバスケ部員たちは実は中学時代からずっと一緒だったというのを知ってしまい、輪の中にただ一人混ざりこんだ部外者という立ち位置であることとを知ったトヨは酷く心細く感じていた。せめてバスケがうまくなればと練習に打ち込んではみるものの、3Pシュートや通常のレイアップも精度は青藍に劣る。ドリブルにいたっては通常運営、バスケットボールを使ってサッカーするなと瑠璃に叱られる始末だった。
練習すれ練習するほど下手になっていくようで、トヨは少しずつ練習に苦手意識が染み付いていく。
中でも蘇芳の言動はトヨを揺さぶった。
バスケにはペアでないとできない練習がある。そういう場合、何故か蘇芳はトヨを指名してきた。
パス練が始まると当然のように蘇芳はトヨに寄ってきて
「先輩、いきますよ」
そういってまずトヨを確保したうえで手を引いて練習場所を探す。
3-On-3の練習のときも、瑠璃からの指定がない場合はPガードとしてトヨを使おうとする。
正直、それらはいいのだ。パス練も3-On-3も蘇芳と練習すれば高いレベルを目指す指標が得られる。
問題はトヨが油断したときに発動する蘇芳の息抜き警察である。
練習中、ひょんなタイミングでわずかに待ち時間が発生したり、たまたま発生したスーパープレイに感銘を受けた時とかに手近な部員同士で私語をしたりもする。そんな時、蘇芳は目ざとく飛んできて話し相手からトヨを引きはがしてまでバスケのテクニックについての意見交換を求めてきた。
そんな行動を連日行うものだから、蘇芳はついには瑠璃から「お前はDV旦那か」とまで言われていた。
蘇芳の奇行ともいえる行動をどうとっていいかトヨには解らなかった。馬鹿にするにしては蘇芳の目は熱心にトヨを見ているし、さりとて可愛い後輩とするには彼は逞しすぎたのだ。
ただ。
練習に対して染みわたりつつあった苦手意識が、蘇芳の存在によって少しだけ薄まっていたのも事実だった。
1か月の休みを終えクラスに見知った顔が集まる。
クラスメイト達の中で運動部に所属している奴らが軒並み黒く焦げているのをみてトヨは懐かしく思った。
自分の席に着くと隣の席の奴と気軽に挨拶を交わす。
「おはよ」
「ようバスケ部! インハイ、ダメだったんだって?」
「ああ。全然歯が立たなかったよ。お前んとこは?」
「うちも予選落ち」
難しいよな、そんな愚痴をこぼしたクラスメイトに苦笑を返す。
そんな時だった。
「松原兄弟を試合に出さず負けたんだって?」
トヨはギクリとした。声をかけてきた相手を見上げると仲の良かった友人が立っていた。
黒夜光。瑠璃がバスケ部のコーチになった日、バスケ部を去った部員の一人だった。
「あ、ああ」
トヨが頷くと光は同情したような笑顔を浮かべた。
「お前、珍しくコート内でサッカーしてなかったのにな」
「……見に来てたのか」
「瑠璃の命令だからな」
「瑠璃……」
その名が出ただけで解ってしまった。
黒夜は瑠璃組みだ。それも、部に所属していないにも関わらず試合に呼ぶほど目をかけている人間。
トヨの胸が騒つく。
「光は……」
「ん?」
光が小首を傾げる。
「バスケ部に、戻ってくるのか?」
「そりゃな。時期が時期だから退部に見えたかもだけど瑠璃の命令で俺は陸部で体力づくりしてただけ。戻ってきていいってお墨付きももらったし、2学期から本格的に戻るぜ」
どん、と、トヨの胸に重たい何かがのしかかった気がした。じわじわと嫌な予感が思考を支配していく。
光が腕時計を見やる。
「そろそろいくわ。また今日からよろしくな」
言い残し、光が教室から出ていった。チャイムが鳴り、間を置かず教師が入ってきた。
休み気分から脱却しろと眠たい声で激励する担任の声が睡魔を呼びつける。このまま眠りに落ちれば悪夢に捕らわれてしまいそうで、トヨは必死に眠気を堪えたのだった。
端的に言うとトヨの予感は当たっていた。
光が戻って以降、蘇芳がトヨとペアを組むことは無くなった。
まるで「もともと光の代わりにトヨを使っていたんだ」とでも言いたげな蘇芳の態度に、トヨの心が悲鳴を上げた。
精神的に頼っていた伊勢崎や日向灘がいなくなった上に、今のバスケ部員たちは実は中学時代からずっと一緒だったというのを知ってしまい、輪の中にただ一人混ざりこんだ部外者という立ち位置であることとを知ったトヨは酷く心細く感じていた。せめてバスケがうまくなればと練習に打ち込んではみるものの、3Pシュートや通常のレイアップも精度は青藍に劣る。ドリブルにいたっては通常運営、バスケットボールを使ってサッカーするなと瑠璃に叱られる始末だった。
練習すれ練習するほど下手になっていくようで、トヨは少しずつ練習に苦手意識が染み付いていく。
中でも蘇芳の言動はトヨを揺さぶった。
バスケにはペアでないとできない練習がある。そういう場合、何故か蘇芳はトヨを指名してきた。
パス練が始まると当然のように蘇芳はトヨに寄ってきて
「先輩、いきますよ」
そういってまずトヨを確保したうえで手を引いて練習場所を探す。
3-On-3の練習のときも、瑠璃からの指定がない場合はPガードとしてトヨを使おうとする。
正直、それらはいいのだ。パス練も3-On-3も蘇芳と練習すれば高いレベルを目指す指標が得られる。
問題はトヨが油断したときに発動する蘇芳の息抜き警察である。
練習中、ひょんなタイミングでわずかに待ち時間が発生したり、たまたま発生したスーパープレイに感銘を受けた時とかに手近な部員同士で私語をしたりもする。そんな時、蘇芳は目ざとく飛んできて話し相手からトヨを引きはがしてまでバスケのテクニックについての意見交換を求めてきた。
そんな行動を連日行うものだから、蘇芳はついには瑠璃から「お前はDV旦那か」とまで言われていた。
蘇芳の奇行ともいえる行動をどうとっていいかトヨには解らなかった。馬鹿にするにしては蘇芳の目は熱心にトヨを見ているし、さりとて可愛い後輩とするには彼は逞しすぎたのだ。
ただ。
練習に対して染みわたりつつあった苦手意識が、蘇芳の存在によって少しだけ薄まっていたのも事実だった。
1か月の休みを終えクラスに見知った顔が集まる。
クラスメイト達の中で運動部に所属している奴らが軒並み黒く焦げているのをみてトヨは懐かしく思った。
自分の席に着くと隣の席の奴と気軽に挨拶を交わす。
「おはよ」
「ようバスケ部! インハイ、ダメだったんだって?」
「ああ。全然歯が立たなかったよ。お前んとこは?」
「うちも予選落ち」
難しいよな、そんな愚痴をこぼしたクラスメイトに苦笑を返す。
そんな時だった。
「松原兄弟を試合に出さず負けたんだって?」
トヨはギクリとした。声をかけてきた相手を見上げると仲の良かった友人が立っていた。
黒夜光。瑠璃がバスケ部のコーチになった日、バスケ部を去った部員の一人だった。
「あ、ああ」
トヨが頷くと光は同情したような笑顔を浮かべた。
「お前、珍しくコート内でサッカーしてなかったのにな」
「……見に来てたのか」
「瑠璃の命令だからな」
「瑠璃……」
その名が出ただけで解ってしまった。
黒夜は瑠璃組みだ。それも、部に所属していないにも関わらず試合に呼ぶほど目をかけている人間。
トヨの胸が騒つく。
「光は……」
「ん?」
光が小首を傾げる。
「バスケ部に、戻ってくるのか?」
「そりゃな。時期が時期だから退部に見えたかもだけど瑠璃の命令で俺は陸部で体力づくりしてただけ。戻ってきていいってお墨付きももらったし、2学期から本格的に戻るぜ」
どん、と、トヨの胸に重たい何かがのしかかった気がした。じわじわと嫌な予感が思考を支配していく。
光が腕時計を見やる。
「そろそろいくわ。また今日からよろしくな」
言い残し、光が教室から出ていった。チャイムが鳴り、間を置かず教師が入ってきた。
休み気分から脱却しろと眠たい声で激励する担任の声が睡魔を呼びつける。このまま眠りに落ちれば悪夢に捕らわれてしまいそうで、トヨは必死に眠気を堪えたのだった。
端的に言うとトヨの予感は当たっていた。
光が戻って以降、蘇芳がトヨとペアを組むことは無くなった。
まるで「もともと光の代わりにトヨを使っていたんだ」とでも言いたげな蘇芳の態度に、トヨの心が悲鳴を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる