僕たちの3年間

禅乃蓮

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11-幸せの青い鳥はそもそもいなかったんだ

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 バスケ部は3年生がいなくなってちょっとだけ寂しくなった。
 精神的に頼っていた伊勢崎や日向灘がいなくなった上に、今のバスケ部員たちは実は中学時代からずっと一緒だったというのを知ってしまい、輪の中にただ一人混ざりこんだ部外者という立ち位置であることとを知ったトヨは酷く心細く感じていた。せめてバスケがうまくなればと練習に打ち込んではみるものの、3Pシュートや通常のレイアップも精度は青藍に劣る。ドリブルにいたっては通常運営、バスケットボールを使ってサッカーするなと瑠璃に叱られる始末だった。
 練習すれ練習するほど下手になっていくようで、トヨは少しずつ練習に苦手意識が染み付いていく。
 中でも蘇芳の言動はトヨを揺さぶった。
 バスケにはペアでないとできない練習がある。そういう場合、何故か蘇芳はトヨを指名してきた。
 パス練が始まると当然のように蘇芳はトヨに寄ってきて

「先輩、いきますよ」

 そういってまずトヨを確保したうえで手を引いて練習場所を探す。
 3-On-3の練習のときも、瑠璃からの指定がない場合はポイントガードとしてトヨを使おうとする。
 正直、それらはいいのだ。パス練も3-On-3も蘇芳と練習すれば高いレベルを目指す指標が得られる。

 問題はトヨが油断したときに発動する蘇芳の息抜き警察である。
 練習中、ひょんなタイミングでわずかに待ち時間が発生したり、たまたま発生したスーパープレイに感銘を受けた時とかに手近な部員同士で私語をしたりもする。そんな時、蘇芳は目ざとく飛んできて話し相手からトヨを引きはがしてまでバスケのテクニックについての意見交換を求めてきた。
 そんな行動を連日行うものだから、蘇芳はついには瑠璃から「お前はDV旦那か」とまで言われていた。

 蘇芳の奇行ともいえる行動をどうとっていいかトヨには解らなかった。馬鹿にするにしては蘇芳の目は熱心にトヨを見ているし、さりとて可愛い後輩とするには彼は逞しすぎたのだ。
 ただ。
 練習に対して染みわたりつつあった苦手意識が、蘇芳の存在によって少しだけ薄まっていたのも事実だった。

 1か月の休みを終えクラスに見知った顔が集まる。
 クラスメイト達の中で運動部に所属している奴らが軒並み黒く焦げているのをみてトヨは懐かしく思った。
 自分の席に着くと隣の席の奴と気軽に挨拶を交わす。

「おはよ」
「ようバスケ部! インハイ、ダメだったんだって?」
「ああ。全然歯が立たなかったよ。お前んとこは?」
「うちも予選落ち」

 難しいよな、そんな愚痴をこぼしたクラスメイトに苦笑を返す。
 そんな時だった。

「松原兄弟を試合に出さず負けたんだって?」

 トヨはギクリとした。声をかけてきた相手を見上げると仲の良かった友人が立っていた。
 黒夜光こくやひかり。瑠璃がバスケ部のコーチになった日、バスケ部を去った部員の一人だった。

「あ、ああ」

 トヨが頷くと光は同情したような笑顔を浮かべた。

「お前、珍しくコート内でサッカーしてなかったのにな」
「……見に来てたのか」
「瑠璃の命令だからな」
「瑠璃……」

 その名が出ただけで解ってしまった。
 黒夜は瑠璃組みだ。それも、部に所属していないにも関わらず試合に呼ぶほど目をかけている人間。
 トヨの胸が騒つく。

「光は……」
「ん?」

 光が小首を傾げる。

「バスケ部に、戻ってくるのか?」
「そりゃな。時期が時期だから退部に見えたかもだけど瑠璃の命令で俺は陸部で体力づくりしてただけ。戻ってきていいってお墨付きももらったし、2学期から本格的に戻るぜ」

 どん、と、トヨの胸に重たい何かがのしかかった気がした。じわじわと嫌な予感が思考を支配していく。
 光が腕時計を見やる。

「そろそろいくわ。また今日からよろしくな」

 言い残し、光が教室から出ていった。チャイムが鳴り、間を置かず教師が入ってきた。
 休み気分から脱却しろと眠たい声で激励する担任の声が睡魔を呼びつける。このまま眠りに落ちれば悪夢に捕らわれてしまいそうで、トヨは必死に眠気を堪えたのだった。
 
 端的に言うとトヨの予感は当たっていた。
 光が戻って以降、蘇芳がトヨとペアを組むことは無くなった。
 まるで「もともと光の代わりにトヨを使っていたんだ」とでも言いたげな蘇芳の態度に、トヨの心が悲鳴を上げた。
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