未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ

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第三章 世界は美しいと証明しろ!

世界は美しいと証明しろ!

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 最近は夢見が悪い。なんの夢なのかといえば、滅びゆく世界で人々の祈りや願いに対して、俺は何も応えられずに一人孤独に両手で顔を覆い項垂れ、地に両膝をついて咽び泣いている。そんな夢。

 ――いや、自分には出来ないと、向けられた願いや祈りから逃げたのだ

 自分には無理だと決めつけ、無力感に苛まれ、無意味な自己弁護を何度も繰り返し、ただ泣きながら詫びていた。

 ――そんな夢を毎晩みて、うなされて起きる


 汗でびっしょりの肌着を脱いで、汗を拭いて新しい肌着を着る。濡れたベッドのシーツを替えて部屋を出ると朝の鍛錬の為に中庭に向かう。

 幼少の頃から日々繰り返された朝の鍛錬で心を無にする。うなされた夢を忘れるためにも。

「やばっ、マジかぁ」

 外は雨。すっかり意気消沈して部屋までトボトボと戻り、ベッドにそのままダイブした。

「ひゃっ! 冷てえぇ!」

 シーツは替えても本体はまだ乾いてはいなかったようで、濡れている箇所を避けて横になり天井を見上げる。

「師匠に師事してから一ヶ月。この夢見の悪さと何か関係があるんだろうな」

『君はね。心が弱すぎる。まずは精神を鍛えることから始めよう』

 師に言われたことを思い出す。それから毎日が地獄のようだ。ある時は虫だらけのダンジョンに一人放り込まれたり。ある日はとある有名心霊スポットで一人野宿させられたり。また、無限に湧きでるゴーストや虫モンスター相手に戦闘したり。もはやトラウマレベルの恐怖体験の日々。

「俺のスローライフはどこへ」

『君には近いうちに一人で冥界に行ってもらうからね』

 そんな師の言葉を思い出して身震いした。
 何も今思い出さなくてもいいものを。

「選択を間違えてはいけない。俺のように、な」

 あああ、雪奈、女神様。俺を助けてください!

 天井に二人の顔が浮かぶ。どことなく悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「不吉だ。とてもとても嫌な予感がする」

 俺はベッドから飛び降りて、超強力なポーションとあらゆるゴースト系のモンスターを退ける聖水を作りを始めた。

「ふふふ。俺には高度な錬金スキルがあるんだ。悪霊退散! 五穀豊穣! 謹賀新年! あけおめ、ことよろ、メリークリスマスだ!」



「ねえ、フー。とうとう彼、本格的に壊れたみたいだね」
「あわわわわ、どうしよう。どうしたらいいのクロ!」
「だっ、苦しいっ!」

 つい動揺しすぎてクロを両手で締め上げてしまった。悪いとは思いつつ、そのまま上下に彼女を激しく振った。

「だっああああ、やめて! 目が回るし! 口から何かが出てきそうだから、離して!」

「我が君、御乱心!」

 お世話係のワルキューレ達が、取り乱した私を押さえつけようと全身にしがみついてくる。それを華麗に振り払い、さらにフワリと宙に跳んで手を広げ、足を伸ばし後方宙返りを決めて彼女達から距離を取った。
 そして何故か華麗に着地を決めた瞬間に拍手が湧き起こる。

「な、なによ」

 仮面のような表情で淡々と拍手する彼女達に若干どん引きして思わず片足が半歩下がる。

「フーの奇行にはついていけないんだよ、みんな」

 口端を手で拭いながらクロがそう答えた。

「それに、危なくみんな吐き出すところだったよ! フーは私を殺す気なの!」

 宙を目まぐるしく飛び回り、必死に抗議するクロに目が回るからやめなさいと軽く手で床に払い落とした。

「ぐぎゃぁ……」
「蝿じゃないんだから」
「 ……心友である私に対して蝿呼ばわりするなんてひどいよっ! もうフーなんて知らないっ。一日絶交だからねっ!」

 クロは弱々しく宙を飛んで部屋から出ていった。その後ろ姿には哀愁を感じる。

「まぁ、あれよね。不可抗力だよね」

 私は狂った目で黙々と錬金する彼に目を戻して、ため息をついた。

「このままでは彼が壊れてしまう。というか、危ない女(神)と邂逅してしまうわ。それに、あの二人に良いように魔改造されてしまうかも!」

 私は手で口を抑えて、ぐるぐると歩き回り、思考の迷路に迷い込んでしまった。

『あっははは! ようやくだ、ようやく僕のターンがやってきた! これで僕好みに彼を導くことができる。なんて素晴らしいことなのだろうか!』
『あなた様。そんな事をすれば、私の愛し子から恨まれますよ』
『恨まれる? 何を言ってるんだ。君だって彼にこうなって欲しいとか思ってることもあるだろう。彼女に相応しい男になって欲しいとは思わないのかい』

『それは思いますね。ええ。それもそうですね』
『だろう。だから二人で、彼を立派な男にしてあげようじゃないか。僕たち好みの素敵な者に、ね』
『わかりました。是非、私も協力しましょう。ありとあらゆる手段を使って、彼を正しく導きましょう』

 あの二人の恐ろしい会話を思い出す。
 私は自分の愚かな選択に後悔した。
 なぜあの時、そう選択してしまったのか。どこで私は間違えてしまったのか。そして、どうすればこの危機的状況を打破できるのか。

 ――私は一人。出口の見えない思考の迷路に迷い込む

 必ず彼を救う。
 下界に降臨すれば解決は容易なのだが、それでは……

「ここはママに内緒でパパに頼るしかないわね」

(その選択は正しいのかい?)

 あの宿敵とも呼べる友の声が聞こえたような気がして、私は周りを確認するが彼女の姿はない。

 そして、なんとなく早計かもと思い直し、私は新たに策を考え直すことにした。

「私に不可能なことはない。事、彼のことに限っては」
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