未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ

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第三章 世界は美しいと証明しろ!

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 自然とあの日からいつも雪奈を傍に感じる。
 そして皆もあれから、別の世界線の事は話さなくなった。それと、もう一人の自分と比べて話す事もなくなっていた。

 あの日。クロノア様は言った。

『千年もすれば復活して、元気に戻ってくるよ』

 まるですぐ戻ってくるような言い方だったが、それもそうなのだろう。
 悠久の時を生きる神様や大精霊なのだから。

 けれど。俺にとって千年というものは、とても長い年月だ。
 それに、このままでは俺に来世はない。
 そんな俺がやる事はただ一つだ。

 俺が神になって、彼女を待つ。その事だけだ。

 師匠の訓練メニューは相変わらず厳しい。
 だが、恐怖のどん底に突き落とされたおかげで、俺は心眼のスキルを得た。
 決して怖くて目を閉じてダンジョンを進んで戦ったからではない。敢えて目を閉じて訓練に励んだ成果だ。

「なに強がって、かっこつけてるのよ」

 シル様に無理やり訓練に付き合うよう言われたクロノア様はとても機嫌が悪い。
 そのあまりの機嫌の悪さに、先程から辛辣な言葉を投げかけてくる。このような冷たい言葉を。

「大体なんで私がこんな」
「なんか時の魔法を得る為だそうです」
「だからといって、おばけとゾンビだらけのダンジョンじゃなくてもいいじゃん」
「じゃあ、巨大虫ダンジョンにしとけば良かったじゃないですか」
「それだけはダメ。絶対にダメ。
 ほら、私が補助してあげてるんだから早く覚えて!」

 ゾンビドラゴン。ドラゴンゾンビ。どちらか分からないが、そいつが物凄く臭い悪臭を放ちながら前方から迫ってくる。本日二体目なのだが、先に相手した奴より大きいし、グロい。

「あの。相手の動きが遅く見えるのは良いのですが。その分、はっきりくっきり見えて余計にグロいんですが」
「やっかましいわ! 男なら一々泣き言いうな!」

 俺の頭の上に乗るクロノア様から、おもいっきり頭を叩かれた。とても痛くて目に涙が滲む。

「あ、そうか! 何も態々見なくても心眼で相手の動きをつかめばいいのか!」

 これは怪我の功名だ。なんてナイスなアイデア。

「あほか。まだまともに出来ないくせに」

 そう言ってクロノア様は相手と間合いを詰める俺から離れた。
 そして相手の動きが急に速くなる。
 案の定、急な速度差についていけなくて俺は頭からパクリと喰われた。

「くさっ! いたっ!」

 あああ、臭い! ヌルヌル、ベチョベチョ、グチャグチャで気持ち悪い!

「ギャハハハ! ヒィ、ウケる! 無様すぎてウケるんですけどぉ!」

 命を懸けた戦いの場に凡そ相応しくない、クロノア様の笑い声がその場に響く。

「笑ってないで助けてください!」
「え、嫌だよ」
「な、なんでですかっ!」
「え、臭いし。それに汚いし」

 世は無情とは、まさにこの事。
 世間の世知辛さを思い知らされた気分だ。

「刀、使えばいいじゃん」
「嫌ですよ! これは彼女から貰った大切な刀なんですよ。汚れちゃうじゃないですかっ!」

 そう。この刀は今となっては女神様ゆきなの形見ともいえる。そんな大切な物を穢す訳にはいかない!

「なら槍でも使えば。あの赤いやつ」

 そ、そうか。その手があったか!
 俺は赤い槍をマジック袋から出して手に取ると、なんとか体をぐるりと仰向けにする。そして臭いドラゴンゾンビの上顎を中から突き刺した。

 ……しかしそれは愚策であり悪手だった。
 上から大量の血と体液が俺の全身に浴びせるように降り注いでくる。

 あああ、臭い。なんて臭いのだろうか。
 駄目だ。意識を手放しそうになる。

「ギャハハハハハハ! と、共倒れっ! ウケる、ウケるんですけどぉ! あっはははははは!」

 背中からドスンという衝撃が伝わる。
 その衝撃から奴を仕留めた事だけは分かった。けれど、俺もあまりの臭さに喰われたまま惨めに気を失う。

 雪奈。俺、がんばったよ……


 ◇

「だからジルっち。なんで僕が一緒じゃダメなのさ!」

 私は頑なにレンジと一緒に鍛錬する事も。とても危ない予感のする黄泉の世界に下ることも許してくれない、ジルっちとシルたんに激しく抗議をしていた。

「だから。それじゃ意味ないんだって。君からも何か言ってよ」
「あなたが行くとややこしくなる。それに、彼に裸を見られてもいいの」

 はい?

「冥界の七つの門を潜る度に衣服が剥がれていく。最後には衣一枚纏わずに全裸を曝けだす。それでも構わないのなら、私は止めはしない」

 淡々とシルたんは話すが、その内容はとても恐ろしいものだった。

「さすがに結婚前にそれは嫌かな」
「だろう。だからあきらめてね」

 私はレンジの危険と、私の羞恥心を天秤にかけて。傾いて下がる、私の羞恥心を優先する事にした。

「なんて非情なんだ。僕に不可能な事があったなんて。レンジ、ごめんよ」

 私は床に崩れ落ちて、この場に居ないレンジに謝罪した。

「リィーナ様にも人並みに羞恥心があったのですね。良かったです。安心しました」

 ローたんが憎らしいほどの穏やかな微笑みを私に向けながら、失礼極まりない事を言い放った。
 私は無言で彼女に対して必殺の左アッパーを彼女の顎目掛けて放つ。けれど彼女は見事なスウェイバックでそれを躱した。

「ふふふ。そんな鈍った拳じゃ、私には届きませんよ」

 その挑発に私は簡単にのってしまう。
 メラメラと胸に闘志が燃え上がる。

「一万年に一人のスーパー美少女アイドルの名に懸けて、ローたんを撲殺してあげるよ」

 私はゆっくりと立ち上がり、彼女を睨んだ。

「フレイヤ神殿一の。この美少女神官のこの私、ロータの名に懸けて。見事リィーナ様を倒してみせましょう」

 彼女と肩を並べて中庭に出る。
 そして互いに無言で距離をとって向かい合った。

 少しの沈黙の後。互いに不敵に笑い、口角の端をつりあげる。

「真の美少女は僕(私)だ!」

 互いに姿勢を低くして飛び込むように間合いを詰める。
 互いに繰り出した拳が互いの頬を掠める。
 そのまま互いに足を止めての打ち合いとなった。

 激しい連打が互いを襲う。けれど二人の拳は相手に当たらずに掠めるばかり。

「さすがはリィーナ様! 楽しくなってきましたよ!」
「ローたんもね!」

「ねえ。あの二人、笑いながら戦ってるよ」
「あなた様。あれが熱き友情の証なのです」
「ほんと?」
「ええ。マンガで読みましたから」
「それ、跳ねるを英語の雑誌だろ。あれは良いよね」

 呑気に私たちの熱き戦いを見つめるシルたん夫妻を無視して、私は戦いに集中する。
 でも、私の必殺の拳は悉く空を切る。けれどそれは相手も同じだ。

「ロータも大概規格外ですよね」
「まあ、ロータですからね」
「あれで性格がまともなら良かったのに」

 ルーたん、エーたん、スーたんが毒を吐きながら、私たちの熱き戦いを見守っていた。
 
「くっ、お姉様達は」
「ふっ、スキありっ!」

 ルーたん達の会話に気を取られてスキをみせたローたんの下顎に、私は拳を突き上げた。

「ぐっふっ!」

 ローたんの体が緩やかに回りながら宙に舞い上がる。そして私はそのまま拳を天に突き上げた。
 ドサッと彼女は地面に落ちて倒れ、私は勝利の拳をさらに高く突き上げる。

「一万年に一人の、スーパー美少女アイドルのこの僕に、敗北の二文字はない!」

 私は勝利の叫びを麗しく奏でる。もちろん、周りにキラキラエフェクトは忘れない。勝利を美しく飾り立てるのは真の美少女アイドルとしての当然の務めなのだから。そして最後に華麗に高く後方宙返りを決める。とびっきりの眩しい笑顔と、仰け反り素敵に主張する豊満で形の良い美しい胸を、陽の光とキラキラエフェクトで美しく彩りながら。

 こうして私は、真の美少女の称号をゲットした。
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