邪神様に恋をして

そらまめ

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邂逅

邪神様、あなた様と愛する御方のために

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 ヴェールの上空に突然飛来した、神の軍勢との激しい交戦がもう一月以上続いていた。
 幸い、結界のおかげで街にはたいした被害は出ていないが、空で戦えるのがワルキューレだけという事もあり、数で圧倒する敵の方が有利になりつつあった。


「エイル様、このままでは敵に押し込まれてしまいます。なんとかマルデル様に助けていただく事はできませんでしょうか」

 日々、戦況が悪くなるにつれ、こういった陳情が街の代表者からも増えてきた。

「マルデル様の手を借りるだと、何を腑抜けた事をいっているのですか。たまには自らでなんとかしようと考えなさい」

 城壁に立ち、忌々しい天使とやらを睨む。

 ラヴィックのレイヴすら、防衛に専念せざるを得ない状況だった。まったく忌々しいやつらだ。
 もはやこうなれば街の放棄も考えるべきかと思っていたところに、アルヴィド率いる第一軍が何の連絡もなしに援軍に現れた。

 第一軍の士気は異常なほどに高く、次々と天使共を討ち落としていく。

 そこにアルヴィドの声が大きく戦場に響いた。

「我が君の命により、いえ。我が君の大切な伴侶である悠太様に害をなしたもの共を、自らの強い意志で一兵残らず殲滅せよ! その愚かな天使とやらを二度と復活できぬよう、何度でも滅ぼし尽くせ!」

 第一軍から大きな鬨の声が上がる。
 その士気の高さに味方ながら圧倒される。
 我々の最強を誇る第一軍に、常以上の気迫と恐ろしいまでの強大な力を感じる。
 彼女らに何があったというのだ。こんなにも実力以上の力を発揮するなんて……


 しばらくすると、数で勝っている筈の天使共が散り散りになって無様に逃げ惑い敗走していく。
 そしてついに、天使どもの指揮官とみられる者がアルヴィドの手によって討たれた。それも何度も復活する魂を弄ぶように何度も何度も切り刻み、その魂は欠片も残さずに滅びていった。

「いくら泣き叫ぼうが、いくら慈悲を乞おうが、貴様らは絶対に許さぬ! 冥界送りなど生ぬるい。魂が潰えるその瞬間まで、恐怖を、その魂に刻み込んでやる!」

 アルヴィドのその声に、また鬨の声が戦場に響き渡る。
 あの大戦おおいくさ以上の勇猛振りをみせている。
 第一軍の誰も彼もが力を解放し、光輝き空を駆けて敵を一掃していく。

 その美しき輝きに、わたしは目を奪われていた。



 ◇



 マルデル様はここしばらく何も口にされていない。
 今の高位の存在であるマルデル様なら食事などは本来不必要なのだが、それでも精神的にも食事を取った方が満たされるのは確かだ。
 日に日に弱っていくマルデル様を、私達はただお側で見守ることしか出来ずにいた。

「マルデル様、今日はもう戻りましょう」
「いえ、もう少し捜索を続けます」

 こちらを見る事もなく、ただ悠太の痕跡を僅かでも見逃すまいと懸命に探し歩いている。
 そして悲しみの黄金の涙が一粒大地に溢れるたびに、痩せていた大地が蘇っていった。
 そんな奇跡に目もくれず、マルデル様はただ悠太を探して歩き続けた。

 マルデル様のそのお姿に、私達は現在調子に乗って攻めているアテナ達に、いえ、ゼウスに復讐することを強く固く皆で誓いあった。



 ◇



 佐藤くんが生死も消息も分からなくなってから、気の遠くなるような日々が過ぎた。
 佐藤くんに渡した指輪も今は反応がない。佐藤くんの危機を知らせたあの時以来、何も反応がなかった。

 わたしはもう佐藤くんを探すのはやめる事を決意した。
 佐藤くんを襲い、傷付けた者達に復讐を果たす。

「凛子殿、こんな夜更けに何処へ行かれるのですか」
「佐藤くんの仇を取りに」

 その声の主に振り向く事もせずに、私は簡潔に答えた。

「お一人では危険です。私も参りましょう」
「あなた達は佐藤くんの事をお願いします。私なら大丈夫です。彼の復讐を遂げるまでは絶対に、私は倒れることはありませんから」

 虚勢だった。
 私自身がそんなに強いとは思っていないのだから。
 けれど、佐藤くんがたくさんの矢に貫かれたという、その光景を想像しただけで全身から寒気と怒りが込み上げてくる。

「なら、アルヴィド達と共に」
「先に行ってるわ。私はぼっち女神の眷属で、しかも、私も佐藤くん以外に親しい人のいないぼっちだもの。だから、単独で闇討ちするのは性に合ってるの」

 嘘だ。本当は怖くて誰かに着いてきて欲しい、けれど。

「アテナの居場所に詳しいわたしが凛を案内するよ」

 その声に驚き、振り返ってしまった。

「わたし、君と相性がいいから、絶対に足を引っ張らないよ。寧ろ、彼を除いて君の手助けができる唯一の剣士だから。断られても絶対に離れずについてゆくよ」

 わたしは彼女のその強い決意に無言でうなずくと歩き出した。

「くそったれ女神と色ボケ老神に、必ずこの報いを受けさせるから」
「ええ、わたしと君なら必ずできるよ」


 わたしは彼女と手を繋いで、あの女神のいる王都アテーナイへ向けて転移した。

 佐藤くん、必ず君の仇は取ってくるからね。
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