邪神様に恋をして

そらまめ

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邂逅

幕間

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 悠太様は本当に変わっている。
我が君の伴侶なのに、皆に偉ぶる事もなく、贅沢な暮らしを求める事もない。

 それどころか。目を離すとすぐに何処かへ行っては誰彼構わず気軽に声を掛けると畑仕事などや、狩などを手伝い、懸命に汗水を流していた。
 しかも、全て見返りを求める事も無く、無償で奉仕しているのだ。
 そして、その理由を悠太様に尋ねた。

「人は働かないと駄目になる。毎日遊んでばかりだなんて、それは人に生かされているだけであって、自分自身の力で生きてる訳じゃないだろ。そんなの人として終わってるよ」

 そんな生真面目でお人好しな悠太様は今や、マルデル様と並んで絶大な人気と支持を得ていた。
 しかも、少し抜けている。いや、完璧じゃないところが魅力らしい。

 でも、私たちワルキューレには使いきれぬ程に資産がある。なぜそこまでして働きたがるのか、理由を聞いて分からなくもないが、あの若さでそんな考えは異常というか、真面目過ぎる。
 しかも、ヒモは嫌だと言って、コソコソと迷宮に潜っては小金を稼いでいた。

 そんな悠太様から、金貨などが沢山入った革袋を突然手渡された。

「ロータ。これで、俺とマルデルの結婚式場を建ててくれ。それもマルデルに相応しい荘厳なものを頼む。もちろんこの事はマルデルには秘密だぞ。サプライズってやつだな」

 私は革袋の中に手を入れて、それとなく金額を確かめた。

 どう考えても足りない。

 しかも、悠太様本人は真面目にこれで足りると考えており、その表情は自信に満ち溢れていた。

 あちらの言葉で言うなら、ドヤ顔をしていた。
 でも今回ばかりは茶化す気にもなれなかった。
 その悠太様の想いが、純朴過ぎて。

「ん、ロータ。これじゃ、ひょっとして足りないのか」
「あ、いえ。少し考えていただけですから」
「なあ、足りないなら正直に言ってくれよ。けどなぁ、これ以上は迷宮だけじゃ駄目か。そうだ、ドラゴンでも見つけて倒してくるか」

 はぁ、ほんと気軽に言わないでくださいよ。
 そんなドラゴンがポコポコと現れて、簡単に見つかるはずが無いっすよ。

「悠太様。そんな簡単にドラゴンなんて見つけられませんよ。だいたい、悠太様が以前倒したファイヤドラゴンは、ドラゴンの中でも若く、最弱の部類っすよ」
「あん。あれが最弱だって言うのかよ。あんなに硬くて、大きいのにか」
「はい。あれはロキが捕まえて迷宮に放り込んだ小物っすよ。天然物は、もっとデカくて賢くて、ちょー強いっすから。悠太様じゃ、勝てませんよ」

 はぁ、エイル姉様は何を教えていたのだろうか。
 もう少し、悠太様に常識をきちんと教えてくださいよ。

「ぐっ、勝てないだと。俺が本気を出せば、ドラゴンなんざ、一発でトカゲの丸焼きにしてやるけどな」
「素材にならなくなりますけど、いいんすか」

 悠太様はその指摘に、ふん、と言って顔を背けた。

「なんとかしますから、安心してお任せください。それに悠太様が必死に稼いだお金ですからね。金額以上に、もの凄い価値がありますよ」

 ん、なんか小鼻がピクピクしてます。
 これは褒められて嬉しいのを必死に隠している証拠ですね。

「そ、そうか。ロータにそう言ってもらえて嬉しいよ。なら、あとは頼むな」

 必死に真顔を作って、職務室から足早に出ていった。
 ほんと、照れ屋さんすね。

 さてと。どーしますかね。
 上手く理由をつけて、エイル姉様や街の代表者達を説得しないと、ですね。

 まぁ、おそらく反対はしないでしょうが、領民たちへの建前もありますからね。
 結婚式場なんて、一度しか使わない建物じゃ、散財のそしりは免れないでしょうし。

 ん? そういえば、この世界にはマルデル様に相応しい神殿がありませんね。そうですよ、これですよ!

 さすが私、冴えてますね。
 
 ふふふ、悠太様。
 覚悟しておいてください。私の器量の良さに驚き過ぎて、泣いて喜んでしまいますからね。

 思い立ったら即実行を信条とする私は、エイル姉様の執務室に向かった。

『ロータ。あなたは何かをする前に、まず一度止まって考えなさい』

 あれ、なんか。ん、ブリュンヒルドお姉様の声が聞こえたような……

 その声を無視出来なかった私は足を止めた。立ち止まり、軽く手を顎に当てて考え直すと、ブリュンヒルドお姉様に相談する事に決めた。

 そうだ。先走ってはいけない。
 マルデル様に秘密裏に進めるならば、エイル姉様ではなく、ヒルデお姉様にお伺いを立てた方が、絶対安心安全です。

 あぶない、あぶない。
 私は同じ過ちは、もう繰り返しませんよ!

 悠太様、見ててください。
 悠太様にも、最高のサプライズをお届けしますよ!

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