邪神様に恋をして

そらまめ

文字の大きさ
146 / 230
新婚編

邪神様、そんなに睨んだら恐いです

しおりを挟む
 ロータが落ち着くのを水龍と話をしながら待った後、あまりマルデルに心配を掛けさせる訳にもいかないということで、俺達は一度屋敷に戻って厄災の件を話し合う事にした。


「悠太くんにしては良い判断だったね、うんうん」

 マルデルはとても上機嫌だった。
 こんなことで褒められると今までがどんなにダメだったのかがよく分かった。

「それでマルデル様、いかがなさいますか」
「なんにもしなくていいんじゃないかな。おそらく悠太くんの判断が正解だよ」
「うん、わたしもそう思うよ。あそこは水龍に任せておけばいいと思う」

 クロノアもマルデルに賛成した。
 クロノアにしては随分とあっさりしてるな。

「でも、そんな危険な場所を放置して大丈夫なのですか」
「今まで何も無かったのだから大丈夫でしょ。そんなに心配する事はないと思うよ」

 セリーヌが確認の意味を込めて再度尋ねたがマルデルの意見は変わらなかった。

「いや、フレイヤ、その考えは甘いと思うぞ」

 突然部屋に入ってきたフレイが口を挟んだ。
 マルデルは一瞬顔を顰めて睨んだが、すぐに表情を戻すとフレイに聞き返した。

「なにが甘いの。というか、フレイには関係ないでしょ」
「フレイヤ、君は大事な事を忘れてないか」
「なにを言ってるの、意味が分からないわ」

 二人の険悪なやり取りに周りに緊張がはしる。
 なんでいつもマルデルはそうムキになるのかなぁ。

「この世界になぜ君は来た。全てを言わないと分からないほど愚かではあるまい」

 マルデルはその言葉に少し考えていた。
 そして何かを気付いたような表情をみせた。

「フレイ、今はなにもしないわ。そして此処で余計なことは言わないで」

 マルデルはまっすぐにフレイを睨んでそう告げた。
 そのマルデルの迫力に、この場の温度が一気に下がったように感じて背筋が凍る。

「わかった。今は大人しく君に従おう」

 そう言い残してフレイは部屋から出て行った。
 皆が安心して、ほっと息を吐いたような気がした。

「この件に関しては何もしないように。そして今後、私の許可なく水龍の所に行くのを禁じます」

 マルデルは皆に強くそう言って、部屋から一人で出て行った。普段ならすぐにアルヴィドが付いていくのだが、その気迫に押されマルデルをただ見送っていた。
 たぶん、同じ様にこの場にいる全員が動けなかった。

「皆、マルデル様の神意に従うように」

 ヒルデがなんとかその言葉を口にするが、皆は返事もせずに沈黙の中、その場からしばらく動けずにいた。

 あんなに苛烈なマルデルを見たのは初めてだった。



 ◇



「フレイ、何を考えているの」
「悠太はあれに近づいた時に不気味だと言ったのだろう。ならば、そこにある」
「だから、何を言ってるの、隠さないで正直に話して」

 我が兄ながら何を考えているのか分からない。
 そして何をしようとしているのかも。

「なぜ彼を君がすぐに見つけられなかったと思っている。不思議だとは思わなかったのかい」

 そんなの思うに決まってるじゃない。
 だからなんなのよ。それがどうしたというのよ。

「彼の最後の瞬間、なぜか鏡が何も映し出さなくなった。意図的に何かを隠したのだと私はずっと考えていた。そして、彼が生まれ変わってもその魂は見つからない。やっと君が探し当てたと思ってみれば、ほんの僅かな欠片だ。そんなのは、おかしすぎるだろう」

 たしかに彼を見つけた嬉しさから、そこら辺は失念してたけど。けれど、それとあの場所になんの関係があるのよ。

「彼の心は、魂は奪われて隠されたんだ。二度と復活しないようにな。そして、それがあの時に出来るのは、この世界を創造した者達だけだ」

 復活しないようにですって。
 でも彼は生まれ変わったじゃない。

「あなたの言ってる事は破綻してるわ。だって彼は何度か生まれ変わっているのよ。奪われたのなら、そうならないはずでしょ」
「あの時、全てを奪われてはいなかった。なにか、何者かが抵抗して一部の欠片でも取り返していたらとしたら、今の彼の状況に説明がつくんじゃないか」

 あの場で神に抗うことのできる者なんて。いえ、まさか……

「彼はあの場で初めて魔法を使った。そして彼は精霊なのか、何者なのかは分からないが、その者にあの少女を託した。真実はあの少女だけが知っている。おそらく、少女があの場で僅かでも彼を奪い返していたのかもしれない」

 そんなまさか。
 人の身で神に抗うなんて。ましてや取り返すならば神に触れたことになる。そんなのは激しい苦痛と共にすぐに命を失うはず。

「その少女に心当たりがあるの。え、まさか、クオンがそうだと言うつもりなの」
「ああ、彼女があの時の少女だ。私は魂を見てすぐに分かったよ。ただ、残念な事に彼女は記憶を失ってる」
「そんなの当たり前じゃない。いくら加護を受けし身でも、何度も時を超え、世界を超えて生まれ変わり、彼を追いかけたのよ。記憶を全て無くしてもおかしくないじゃない」

 その少女の選んだ道の厳しさを想像して、わたしは膝から崩れ落ち、その一途な想いに涙が溢れた。

「けれど、あの少女はそれを見事にやってのけた」

 そうね。彼女はその一途な想いで奇跡をおこした。

「そして彼女がここに全てを導いたのだとしたら、彼の奪われたものが、この世界にある」
「それが、あの場所だと」
「そうだ。だがこれは私の憶測でしかない。だから、私が行って確かめてくる」

 それは、いくらあなたでも……

「フレイ、俺も行くよ」
「ゆ、悠太くん!」

 いつの間にか彼は、わたしの後ろに立っていた。
 そして、常と変わらぬ穏やかな表情をしていた。

「悠太、危険すぎる。君は待っていてくれ」
「馬鹿なことを言うなよ。俺のためにクオンはもっと危険な事をして救ってくれたのに、当の本人は危ないから待っているなんて、そんな情けないことは出来ないだろ」

 待って、悠太くん、早まってはダメだよ。
 わたしはそれを声に出せなかった。

「そうか。そんなところも相変わらずだな。わかった、一瞬に行こう」
「フレイ、ありがとう」
「悠太くん、ダメだよ。まだ君は人なんだよ。彼らにまた殺されたら」
「マルデル、大丈夫だよ。俺は絶対に死なない。必ず君の元へ帰ってくるよ」

 悠太くんは私を安心させるように微笑んで、わたしを抱きしめてくれた。
 そして彼の鼓動が常よりも速いのに気付いた。
 そんな彼の思いやりと覚悟に添うことにした。

「うん、信じて待っている。あなたに絶対無敵の幸運を」

 わたしは彼と唇を重ねて、もう一度想いを込めた。

 ――― 絶対無敵の幸運を、あなたに
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...