邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

邪神様、そんなに睨んだら恐いです

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 ロータが落ち着くのを水龍と話をしながら待った後、あまりマルデルに心配を掛けさせる訳にもいかないということで、俺達は一度屋敷に戻って厄災の件を話し合う事にした。


「悠太くんにしては良い判断だったね、うんうん」

 マルデルはとても上機嫌だった。
 こんなことで褒められると今までがどんなにダメだったのかがよく分かった。

「それでマルデル様、いかがなさいますか」
「なんにもしなくていいんじゃないかな。おそらく悠太くんの判断が正解だよ」
「うん、わたしもそう思うよ。あそこは水龍に任せておけばいいと思う」

 クロノアもマルデルに賛成した。
 クロノアにしては随分とあっさりしてるな。

「でも、そんな危険な場所を放置して大丈夫なのですか」
「今まで何も無かったのだから大丈夫でしょ。そんなに心配する事はないと思うよ」

 セリーヌが確認の意味を込めて再度尋ねたがマルデルの意見は変わらなかった。

「いや、フレイヤ、その考えは甘いと思うぞ」

 突然部屋に入ってきたフレイが口を挟んだ。
 マルデルは一瞬顔を顰めて睨んだが、すぐに表情を戻すとフレイに聞き返した。

「なにが甘いの。というか、フレイには関係ないでしょ」
「フレイヤ、君は大事な事を忘れてないか」
「なにを言ってるの、意味が分からないわ」

 二人の険悪なやり取りに周りに緊張がはしる。
 なんでいつもマルデルはそうムキになるのかなぁ。

「この世界になぜ君は来た。全てを言わないと分からないほど愚かではあるまい」

 マルデルはその言葉に少し考えていた。
 そして何かを気付いたような表情をみせた。

「フレイ、今はなにもしないわ。そして此処で余計なことは言わないで」

 マルデルはまっすぐにフレイを睨んでそう告げた。
 そのマルデルの迫力に、この場の温度が一気に下がったように感じて背筋が凍る。

「わかった。今は大人しく君に従おう」

 そう言い残してフレイは部屋から出て行った。
 皆が安心して、ほっと息を吐いたような気がした。

「この件に関しては何もしないように。そして今後、私の許可なく水龍の所に行くのを禁じます」

 マルデルは皆に強くそう言って、部屋から一人で出て行った。普段ならすぐにアルヴィドが付いていくのだが、その気迫に押されマルデルをただ見送っていた。
 たぶん、同じ様にこの場にいる全員が動けなかった。

「皆、マルデル様の神意に従うように」

 ヒルデがなんとかその言葉を口にするが、皆は返事もせずに沈黙の中、その場からしばらく動けずにいた。

 あんなに苛烈なマルデルを見たのは初めてだった。



 ◇



「フレイ、何を考えているの」
「悠太はあれに近づいた時に不気味だと言ったのだろう。ならば、そこにある」
「だから、何を言ってるの、隠さないで正直に話して」

 我が兄ながら何を考えているのか分からない。
 そして何をしようとしているのかも。

「なぜ彼を君がすぐに見つけられなかったと思っている。不思議だとは思わなかったのかい」

 そんなの思うに決まってるじゃない。
 だからなんなのよ。それがどうしたというのよ。

「彼の最後の瞬間、なぜか鏡が何も映し出さなくなった。意図的に何かを隠したのだと私はずっと考えていた。そして、彼が生まれ変わってもその魂は見つからない。やっと君が探し当てたと思ってみれば、ほんの僅かな欠片だ。そんなのは、おかしすぎるだろう」

 たしかに彼を見つけた嬉しさから、そこら辺は失念してたけど。けれど、それとあの場所になんの関係があるのよ。

「彼の心は、魂は奪われて隠されたんだ。二度と復活しないようにな。そして、それがあの時に出来るのは、この世界を創造した者達だけだ」

 復活しないようにですって。
 でも彼は生まれ変わったじゃない。

「あなたの言ってる事は破綻してるわ。だって彼は何度か生まれ変わっているのよ。奪われたのなら、そうならないはずでしょ」
「あの時、全てを奪われてはいなかった。なにか、何者かが抵抗して一部の欠片でも取り返していたらとしたら、今の彼の状況に説明がつくんじゃないか」

 あの場で神に抗うことのできる者なんて。いえ、まさか……

「彼はあの場で初めて魔法を使った。そして彼は精霊なのか、何者なのかは分からないが、その者にあの少女を託した。真実はあの少女だけが知っている。おそらく、少女があの場で僅かでも彼を奪い返していたのかもしれない」

 そんなまさか。
 人の身で神に抗うなんて。ましてや取り返すならば神に触れたことになる。そんなのは激しい苦痛と共にすぐに命を失うはず。

「その少女に心当たりがあるの。え、まさか、クオンがそうだと言うつもりなの」
「ああ、彼女があの時の少女だ。私は魂を見てすぐに分かったよ。ただ、残念な事に彼女は記憶を失ってる」
「そんなの当たり前じゃない。いくら加護を受けし身でも、何度も時を超え、世界を超えて生まれ変わり、彼を追いかけたのよ。記憶を全て無くしてもおかしくないじゃない」

 その少女の選んだ道の厳しさを想像して、わたしは膝から崩れ落ち、その一途な想いに涙が溢れた。

「けれど、あの少女はそれを見事にやってのけた」

 そうね。彼女はその一途な想いで奇跡をおこした。

「そして彼女がここに全てを導いたのだとしたら、彼の奪われたものが、この世界にある」
「それが、あの場所だと」
「そうだ。だがこれは私の憶測でしかない。だから、私が行って確かめてくる」

 それは、いくらあなたでも……

「フレイ、俺も行くよ」
「ゆ、悠太くん!」

 いつの間にか彼は、わたしの後ろに立っていた。
 そして、常と変わらぬ穏やかな表情をしていた。

「悠太、危険すぎる。君は待っていてくれ」
「馬鹿なことを言うなよ。俺のためにクオンはもっと危険な事をして救ってくれたのに、当の本人は危ないから待っているなんて、そんな情けないことは出来ないだろ」

 待って、悠太くん、早まってはダメだよ。
 わたしはそれを声に出せなかった。

「そうか。そんなところも相変わらずだな。わかった、一瞬に行こう」
「フレイ、ありがとう」
「悠太くん、ダメだよ。まだ君は人なんだよ。彼らにまた殺されたら」
「マルデル、大丈夫だよ。俺は絶対に死なない。必ず君の元へ帰ってくるよ」

 悠太くんは私を安心させるように微笑んで、わたしを抱きしめてくれた。
 そして彼の鼓動が常よりも速いのに気付いた。
 そんな彼の思いやりと覚悟に添うことにした。

「うん、信じて待っている。あなたに絶対無敵の幸運を」

 わたしは彼と唇を重ねて、もう一度想いを込めた。

 ――― 絶対無敵の幸運を、あなたに
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