邪神様に恋をして

そらまめ

文字の大きさ
上 下
182 / 230
未踏の大地へ(青年編)

女神様、俺のターンです!

しおりを挟む
「パパ、レイもあーんして」
「よし、レイ、あーん」

 親鳥が雛鳥に食事を与えるような、そんな微笑ましく温かな家族の団欒のひと時。
 今夜は珍しくレイが俺の膝の上を独占していた。

「レイ様が悠太様に甘えるなんて珍しい事もあるのですね」
「まだまだね、スルーズは。普段はメイに遠慮してるだけなんだよ」

 ん、そうなのか。実はレイもパパっ子だったのか。
 なんかやっと時代が俺に追いついてきたな。

「ユータ、あんたの妄想ってほんとダダ漏れだよね」
「あっ、また俺の思考を読んだな。頭の中でくらい幸せを満喫させてくれてもいいだろうが」

 クロノアはため息まじりにあきれていたが、アルヴィドがナイスなフォローをしてくれた。

「クロノア、悠太様だって夢見てもいいじゃないですか。それがたとえ儚くとも」

 ん、なんか微妙なフォローだな。というか、馬鹿にされてないか、これは。

「あははは、悠太。お前は相変わらず皆のおもちゃにされてるんだな」

 その声のする方を見るとフレイが笑いながら歩いてきていた。

「おお、フレイ、久しぶりだな!」
「悠太、ブリュンヒルドの懐妊おめでとう」
「なんだ、それを祝いに来てくれたのか。ありがとな」

 俺とフレイが立って挨拶をしていると、無理矢理誰かに引き離された。

「兄さん、用件は済んだのでしょう。早く帰って」
「おお、我が愛しの妹よ。相変わらず悠太と仲良そうで安心したぞ。本当にお似合いの二人だな」

 マルデルはその最後のお似合いという言葉で、チョロくも落ちた。

「まあ、ね。うん、フレイ、久しぶりね」
「皆も久しいな。レイ、レン、メイも元気だったか」

 フレイは子供達の所にいくと、しゃがんで何かをプレゼントしていた。

「これは私と、ジジとババからだよ。君たちの良きお守りとなるだろう」

 一人一人、手渡されたものを見ると、とても美しい装飾が施された小さな、とても小さな短剣だった。
 それを子供達は手に取り、大喜びしていた。

「なあ、フレイ。まだ子供達に短剣は早いんじゃないか」
「あれはお守りだ。それに普段は唯のなまくらだ。あの子達に危険が迫った時のみ武器となり、あの子らを護る」

 ほう、そんな便利アイテムがあるのか。さすがは神様といったところか。

「懐かしい。私も昔、パパとママから貰ったよ」

 そういうとマルデルは胸元から、とても小さな短剣の形をしたアクセサリーを取り出した。

「ほら、あの子達のと似てるでしょ。なんか私のより手が施されてるようだけどね。やっぱりパパもママも孫には甘いのかな」

 いつも大切に身につけていたけど、そんな大事な想いの詰まった物だったんだな。
 でも、あの怖いお義父さんが孫にデレデレになるのかな。お義母さんはなんとなく想像ができるけどさ。

「そうだ、忘れてた。フレイヤ、両親が近いうちにこちらに越してくると張り切っていたぞ」

 えええ! そういう大事な事はもっと早く、ちゃんと前もって伝えてくれよ!

「そっか。なら部屋も用意しないといけないね」
「ああ、フレイヤ頼んだぞ。それにしても私の子供にはそこまで喜んでくれなかったのにな。なんか複雑な思いだ」
「あれだろ。娘にはどの親も馬鹿甘いってやつ」
「あははは、そうかもな。たしかにフレイヤは甘やかされてきたからな」

 俺とフレイは顔を見合わせて、思いつく事を並べながら大爆笑していた。
 だが俺達は不意に忍び寄る恐ろしい影に、本当の恐怖を知らされる事となった。

「婿殿、それにフレイ。なにがそんなにおかしいのかな」
「ええ、私たちが孫を愛しいと思うことが、そんなにおかしいのかしら」

 は、はい……  え、この声はどこか聞き覚えが……
 俺とフレイは恐る恐る横を見た。

「あ、お久しぶりです。お義父様、お義母様、お会いできて光栄であります!」

 俺は久々にジャンピング土下座、そう佐藤流秘奥義を流れるように繰り出した。
 それはもう見事な形だと自負できた。

「あ、パパ、ママ。フレイはどうでもいいけど、悠太くんには怒らないで。悠太くんに悪気なんかないから」

 マルデルは土下座をしている俺の前に立って庇ってくれた。

「だが、少しは言い方もあるだろう」
「いくらパパでも悠太くんをイジメるなら許さないよ」

 土下座して何も見えないし、声しか聞こえないがマルデルが尋常ではないオーラを出しているのだけはわかった。

「ああ、そうだな。婿殿は悪くないな」
「あら、あなた。娘にいい負けるのですか。情けない」
「ママ、あんなに優しいママが何でわからないのかな」

 音から推測するにマルデルが半歩前に踏み出したようだ。

「フレイヤ。あなた、悠太ちゃんの為にママに反抗するの」
「私は悠太くんの為なら、全てを敵にまわしても護るよ」

 ん、小さな足音が迫ってくる。これは、

「ジジ、ババ、パパをいじめないで!」

 おお、俺の小さなお姫さま!

「メイちゃん。ババがそんな事をする訳ないじゃない。もう、冗談だからね」
「ババ、ほんと」
「そうよ。メイちゃんがこうしてパパを守る立派なところが見たかったのよ。うんうん、メイちゃんはとーっても、かわいいわね」

 どうやら娘とは敵対できても孫にはできないようだ。
 俺はゆっくり顔だけをあげると、お義母様はメイを抱いてスリスリしていた。

「悠太くん、もう大丈夫だよ」

 マルデルは笑顔で俺に手を差し出して立たせてくれた。
 だが、笑ってはいてもどこか不満そうな表情をしていた。
 少しその事が気になったがフレイと御両親を交えて、あらためて食事を再開した。

 あ、ふーん。アルヴィドめ、嬉しそうにフレイの世話を焼きおって。本当に困ったものよ。

「パパ、レンにもあーんして」

 俺の所に来たレンを抱き上げて膝の上に座らせた。

「よし、レンは何が食べたいのかな」
「パパ、あのお肉がいい」

 おお、目が高い。あれは本日最高の子牛の肉だ。

「ほら、レン、あーん」

 レンの小さな口に入るようにカットして食べさせてあげた。

「パパ、おいちいよ」
「そっか。良かった。なら、もう一口食べるか」

 俺はレンにまた食べさせて、彼の美味しそうに食べる様を楽しんだ。
 ああ、今日は三人に甘えられて、とても良い日だ。


「ところで父さん達はなんでこんなに早く」
「ああ、パパが早くしろってうるさくてね」
「な、お前が私を急かしたのではないか。嘘はよくないぞ」

 ははん、そうか。二人とも孫に会いたくて急いできたんだな。
 だよな。こんなにかわいい孫とは一緒にいたいよな。

「ああ、それとな、不穏な噂を耳にしてな」
「噂って。あなた、オーディンがわざわざ教えてに来てくれたのに、そんな言い方はないでしょう」

 は、はい。なんですか、そのいかにも危なそうな話は。

「婿殿、そう心配そうな顔をするな。私が、いや、私達がしっかり守ってやる」
「そうよ。こんなかわいい孫のいる世界を脅かそうとするものには、もれなく私が永遠の滅びを与えてあげるわ」

 いきなりの仰天発言に、俺とマルデルは顔を見合わせて絶句していた。

「悠太様、大丈夫です。私たち親衛隊もその情報を掴んで、しっかり準備してあります。ご安心ください」

 俺はマルデルの顔を見たが、彼女は頭を振って否定していた。ということはマルデルも知らぬ事だったらしい。

「なんだ婿殿、そんな驚いた顔をせんでもよいではないか。こんなのはよくある話だ。そう気にする事もない」
「ええ、そうよ。この人なんて久々に暴れられると張り切ってね。本当に困った人なのよ」
「あ、お前だって人の事は言えないくらい、張り切ってたじゃないか!」

 ああ、そうか。マルデルが強いのもこの両親あっての事なんだな。フレイめ、俺のせいにして事実を捻じ曲げたな。
 俺はフレイを睨むと顔をぷいと背けられた。

 こんなに分かりやすいヤツもいないな。
 とにかく家族を守るために気を引き締めておかないと。
 俺はエールを一気に流し込んで決意を固めた。

 絶対に家族、そしてこの世界を守る、と。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勇者の幼なじみ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,448pt お気に入り:399

落ちこぼれ[☆1]魔法使いは、今日も無意識にチートを使う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,102pt お気に入り:25,353

亡国の王子の復讐

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:43

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,396pt お気に入り:1,713

砂漠の中の白い行列

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

BL / 完結 24h.ポイント:1,464pt お気に入り:691

【R18】高飛車王女様はガチムチ聖騎士に娶られたい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:252

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:20,526pt お気に入り:10,507

処理中です...