邪神様に恋をして

そらまめ

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未踏の大地へ(青年編)

女神様、これは怪獣の

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 朝方目を覚まして早々、マルデルは師匠マスターと一悶着があったせいか、引っ付いて離れようとしないマルデルを連れて外に出た。

「はへぇ、これは……」

 村だった場所には何も無く。ただの更地が広がっていた。
 あれだけあった家屋はどこへ……
 俺は言葉を失った。

「あ、ママとスカーサハ様が暴れたせいだよ」

 それをけしかけた本人が、自分には関係ないと言わんばかりに暢気に教えてくれた。

「怪獣大戦争の後なのか、これは」
「物は考えようだよ。ここまで片付けてくれたと思えばいいんだよ」

 けしかけた当人は悪びれることもなく、眩しい笑顔を俺に向けた。
 危うくごまかされそうになったが、その眩しい笑顔と共に頬にキスをされて俺は見事にごまかされた。

「そっか、そうだな。深く考えるのはやめよう」
「悠太様、そのチョロインさながらのみっともない真似はおやめください」

 アンジュが通常サイズで、俺の目の前に浮かんでそう苦言を呈した。

「なによ、アンジュ。私たちの事に口を挟まないで」
「はぁ……  女王よ、御身はそれで本当によろしいのですか」
「ええ、問題ないわ。スカーサハ様という邪悪で強大な敵が現れた今、こうやって少しずつ悠太くんを、」
「わ、わかりました! それ以上口にされるのは止した方がいいかと」

 ん、師匠マスターが邪悪で強大な敵……
 うむ、よくわからん。

 この意味のわからない二人を放置して、俺は精霊たちとの朝の交流会をはじめた。

「マナリア、後でもう少しきれいに整地してくれないか」
「はい、お任せください。今回は王に危険な目を負わせてしまったので、皆で無償でやらせていただきます」

 ほう、それはそれは。

「うん、頼んだぞ。それでユキナは何処だ」
「ああ、ユキナならオークの里を滅ぼしにいったよ」
「おい、シェリー。そんな物騒な事をさらっと軽く言うな。ん……  おい、まさか一人で行かせた訳じゃないよな」
「え、そんなの一人でに決まってるじゃん。王様、まさかボケたの、ぎゃ!」

 この調子にのった悪戯妖精を素早く捕まえるた。

「なにが、ぎゃ! じゃ。シェリー、お主随分と調子に乗っているようじゃが、そろそろ一度お仕置きした方が良さそうじゃな」
「な、なんですか、その悪代官バージョンは! ああぁ、やめてー、汚されるぅー!」
「ふっ、そなたも好きよのう。どれ、では一枚づつ、イタっ!」
「悠太くん、妖精相手になにを」

 マルデルから強烈な手刀が振り下ろされた。
 あまりの痛さにシェリーを離し、両手を頭に当てて項垂れた。
 ああ、目がチカチカする……

「いやぁ、ほんの冗談だよ。そんな本気で怒らなくても」
「いいえ、冗談でも程があります。そういうのは私だけにしてください」

 マルデルは腕を組むと口を尖らせ、頬を膨らませてそっぽを向いた。
 そこへ、まだあきれて両手を頭に当てたままの俺に凄い勢いで小さな何かが抱きついてきた。

「ママ、パパをいじめないで!」
「あん、メイ。これのどこがそう見えるの」
「パパ、わたしがパパをまもるからね。パパをいじめるママになんか、まけないんだから!」

 俺の小さなお姫様が、俺を守るように勇敢にも立ち塞がり、そう宿敵マルデルに告げた。

 そんな緊張が張りつめる中、突然拍手の音が響いた。

「よく言った、小さな女神よ。私が、その者に抗う力を授けよう」
「えっ、スカーサハさま、ほんと?」
「ああ、本当じゃ。その腑抜けに勝てる技をお前に教えよう。そう、お前の父のようにな」

 むむむ、こ、これはまずい展開だ。

「はい! パパのようにおしえてください」

 メイは一度律儀にお辞儀をすると、師匠マスターのもとへ走っていった。

「ちょ、ちょっと、私の娘を盗らないで! メイ、騙されては駄目よ。その人は邪悪で色魔なんだよ、はやくこっちに、いたっ!」

 マルデルの額に小さな水礫が当たり、彼女は額を抑えてうずくまった。

「誰が邪悪で色魔だと。貴様、本当にお仕置きされたいようだな」
「ま、待ってください、師匠マスター!」

 俺はマルデルを守るように両手を広げて立ち塞がった。

「坊や、そこを退け。いくら坊やでも今回は容赦せんぞ」

 うっ、こわい。目が本気で怒ってる。
 あああ、その脅すようにゆっくり近づいてくるのは止めて!

「ど、退きません。今回は親子喧嘩に口を挟んだ師匠マスターに非があるかと。で、ですから、退きません!」

「悠くん、よく言ったわ。さすが私の息子ね」

 手を軽く叩きながら、スカジ様が悠然とこちらに向かい歩いてくる。

「スカーサハ。これ以上、私の子供たちを虐めるのならば容赦しませんよ」
「容赦しないだと。昨夜、悔し泣きしていたヤツが、誰に向かってそんな戯言を吹くのだ」

 あああー! これは最悪な展開だ。
 
「悔し泣き、だと。お漏らししながら、慈悲を乞うたのは貴様だろ」

 刹那、空気を裂く鋭い音共に風が津波のように押し寄せ、俺たちを吹き飛ばした。そんな中、俺より先にメイの危機に気付いたマルデルは風に飛ばされたメイを助けるべく風に抗い地面を強く蹴るとメイのもとまで一直線に跳んだ。
 そのままメイを優しく抱き止め、争い合う二人から娘を護るように距離をとった。

「メイ、大丈夫。ケガしてない?」

 マルデルはメイを心配そうに見つめ、娘の体を触りケガがないか確かめていた。
 俺がやっとの思いで二人の所へ行くと、マルデルはメイを無言で俺に預けて、争っている二人の方へ踏み出した。

「私の娘に何してくれるのよ。危ないじゃない、ケガでもしたらどう責任とってくれるのよ!」

 語気が尻上がりに強くなりながら、二人に向けて話すと、何故か彼女の左手には紅蓮の炎を纏った神刀マルディールが握られていた。

 マルデルはその握り具合を確かめるように何度か刀を横に斜めに振ると、二人に向けて一気に間合いを詰めた。
そのまま二人の間に割り込むと、刀を師匠マスターの首筋に、いつの間に手にしたのか分からなかったが神のナイフを母親の首筋に、自身の腕を交差させ二人に突き立てていた。

「二人が激しく戯れ合う程、仲良しなのは分かったわ。けれど、私の娘を危険な目に合わせるのは誰であろうと絶対に許さないから」

 そう話す彼女はいつの間にか美しく透き通るように揺らめき輝く紅蓮の炎を全身に纏い、彼女の美しかった銀糸のような髪も同じように紅く輝き揺らめいていた。

「え、誰、マルデルなのか……」

 とても神々しく紅く光り輝くマルデルに目が釘付けになる。

「ママ、スカーサハ様。わかってくれたかしら」

 刀とナイフの切先が首筋に少しだけ押し当てられた。
 あの二人が冷や汗を額に流しながら動きを止めていた。おそらく少しでも動いたら喉元を貫かれる恐れがあった為だろう。

「ええ、わかったわ」
「ああ、わかった」

「二人とも罰として、ここをきちんと整地して。自分達がした事を責任もって片付けて」

 二人が無言でうなずいたのを確認すると、マルデルは刀を納めた。

 はぁぁ、マルデルかっこいいなぁ……
 なにあの紅蓮の輝きは、とてもきれいだよ、マルデル。

「ママ、きれいだね」
「ああ、メイとパパの自慢のママだからな」

 俺とメイはそんな短い言葉しか出ないほどにマルデルに目を奪われていた。

「うん、じまんのママだね」


 ん? あれもしかして……
 それに何か忘れているような……
 まぁいいか。今はマルデルを目に焼き付けるのが最優先だな

 
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