邪神様に恋をして

そらまめ

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未踏の大地へ(青年編)

閑話2

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 主神に呼び出されて駆けつけてみれば、無残な姿で眠るヘラがそこに居た。

 主神曰く、突然現れたスカーサハ様とその率いる戦士達に完膚なきまで叩きのめされ、ヘラの率いた軍勢はほぼ壊滅したとの事だった。
 儂は必死に止めたのだが無理じゃったと、至る所に治療の後が残る主神は語った。

 スカーサハ様にやられたのか。オーディンが、か。
 私は耳を疑い、もう一度尋ねた。

「たわけが。儂とは格が違うのじゃ。仮初の姿とはいえ、あれは原初の存在ぞ」
「原初の、ですか。それに仮初とはどういう事なのでしょうか」
「詳しくは言えん。儂も命は惜しいしな。知りたかったらアヌにでも聞けばいい。もしくはお前の両親だ。だが、知らぬ方がいい事もある。下手に首を突っ込むと命を落とすことになるぞ」

 アヌにか、それは無理だろうな。だが、なぜ両親が知っているのだろうか。
 それにそんな話は一度も聞いた事がない。

「余計な事を言った儂にも責任はあるが、今はまだ気にするな。聞かなかった事にして忘れろ」

 まぁ、悠太には関係ないだろうし、聞かなかった事にするのが一番か。

「それで今回呼ばれた理由はなんでしょうか」
「おお、そうじゃったな。でな、お主もフレイヤの世界に移り住め。そして奴等が簡単には手出し出来ぬよう、あの世界の女神達と手を結び、威を示すのじゃ」

 はぁあぁ、そんな事をしたらフレイヤに余計煙たがれるじゃないか。簡単に言わないでくれよ。

「今、ロキをアテナの所へ向かわせておる。お主もさっさと移界し、フレイヤには内密にあの女神達と事を進めろ」

「意味が分かりません。あの世界は既にフレイヤを中心に女神達が団結し治めています。だいたい、奴等って誰なのですか」

 話が見えないんだよ、これだから年寄りには困る。

「今回アテナ達はヘラからの参戦の要請を断ったそうじゃ。だがな、いつ誰に切り崩されるかは分からん。それにフレイヤは絶対にあの女神達を巻き込むような事はせんじゃろ。だから、お主が陰でアテナ達と情報を共有し、その備えをするのじゃ。いいか、これはあの者の為でもある。というか、あれを守りたいのなら、そうするのが一番だ」

 奴等については上手くはぐらかされたな。おそらく話す気が端から無いのだろう。

「分かりました。でも主神から私の移界についてフレイヤに話しを通してください。でなければ、私は追い出されるでしょうから。それと、今後は些細な事でも連絡してください」
「分かった。お主が移界の準備をしてる間にフレイヤに話を通しておこう」

 そう言って、ヘラに視線を移すと彼女に対し憐れんだ表情をみせた。

「オリュンポスの神族の生き残りも僅かになった。それも、あの色欲狂いのゼウスのせいじゃ。儂も主神として間違いを起こさぬようにしなければならんな」

 らしくもない。敵を憐れむなど……
 そう思いながら、主神を残し部屋を出た。


 ◇


「フレイヤよ、フレイをこの世界に移らせる。これは主神としての判断からじゃ。異論は認めん、黙って素直に従え」

 フレイヤは一瞬、顔を顰めたが素直に従った。
 少しはくって掛かられると思っていた分、かなり拍子抜けした。

 まぁ、賢い子じゃ、それもそうだろうさ。少しは堪える事も覚えたようで何よりじゃ。

「オーディン、傷は癒えたようだな。貴様の顔を立ててヘラを見逃してやったのだ。しっかりあれを抑えておかんと承知せんぞ」

 いつの間にかスカーサハが背後の壁にもたれ掛かりながら両手を組んで睨んでいた。

「ふん、言われんでも大丈夫じゃ。それにあんな擦り傷、唾でもつけてれば直ぐに治るわ」
「ほほぅ、それはそれは。だが、次はない。気をつけるのだな」

 そう言い残し、スカーサハは消えた。
 思わず大きく息を吐いてしまった。

「オー爺もスカーサハ様にやられたの」
「も、とはなんじゃ。儂が手加減してやっただけだ、誤解するでないわ」

 まぁ、あながち嘘ではないからな。
 
「そうなの。で、悠太くんを狙った奴等は判明したの」
「いや、まだ分からん。皆に動機があり過ぎてな、絞りきれん」
「オー爺、仮にも知恵の神でもあるんだから、そんな不甲斐ない事は言わないで、しっかり調べてよね」

 なんだ、この白い目は……
 なんか儂の威厳が駄々下がりしてないか。

「それと、今回のフレイの件は貸しだからね」

 おいおい、仮にも主神に対してそんな態度はないだろう。
 あの可愛かった娘は何処にいったのじゃ。

「まぁ貸しでもなんでもよいわ。好きにせい」

 自然と涙が溢れてくる。
 そんな姿を見せまいと、急ぎ神界に戻った。


 ◇


「なぁ、ヘラの要請を断って本当に良かったのか。オリュンポス内の反乱分子認定は免れないぞ」

 久方ぶりに現れたと思ったら、過ぎた話を蒸し返してきた。

「今更何を言ってる。それに私たちは、とっくにオリュンポスとは決別している」
「はぁあ、そんな話は聞いてないぞ!」

 なんなのだ、この道化は。

「参戦すれば許すと言われたが、そもそも奴等に許されるような事をした覚えもないしな。だいたい、あの主神のせいでどれだけの同胞が滅んだと思っているのだ。未だに報復だと声高に叫ぶ、あんな恥知らずな奴等を私は同胞とは思わん」

「だ、だが、だからといってフレイヤの軍門に降ることはあるまい。お前まで他の神族に命を狙われる可能性が増すんだぞ」

 何しに来たのだ、この道化は。

「なぁ、ロキよ。貴様は何をしに来たのだ。オーディンの使いで来たのだろう。なに頓珍漢な事を言っておるのだ。それに私たちは軍門に降ったのではない、仲間、いや、盟友となったのだ。勘違いするな」

 この道化は何をしたいのだ。
 まだ、マルデルに対抗しようと企んでるのだろうか。

「そうか。ならもう何も言うまい。オーディンからなのだが、フレイをこの世界に移界させる。フレイと協力して脅威に備えよ。だそうだ」
「なるほどな、理解した。今後はマルデルには内密に連携し、彼女を支えよう」
「随分と物分かりがいいじゃないか。君がそんなに絆されるとは思ってもいなかったよ」

 馬鹿にしてるのか、こいつは。
 マルデルは私たちが巻き込まれないよう常に配慮して動いているのだ。
 そんな風に大切にされているのに、私たちがそれに応えなくてどうするというのか。

「私たちは恩知らずの、恥知らずにはなりたくないからな。それに今こんなにも充実した時を過ごしている。だからな、道化よ。邪魔する者は誰であろうと許さん」

 ロキはわざとらしく両手を広げ、首を振るとため息を吐いた。

「ロキよ。貴様には救ってもらった借りがある。けれど、マルデルに刃を向けるつもりなら、その時は容赦はせんぞ」
「ああ、分かってるよ。いいか、アテナ、くれぐれも命を粗末にはするなよ」

 そう言い残し、ロキは消えた。
 なんだ、あいつは。本気で私に惚れてるのではなかろうな。
 だが、済まんな、ロキよ。
 貴様は私の好みではない。だから、その好意には応えられんよ。

 

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