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未踏の大地へ(青年編)
女神様、驚きです
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私の悠太くんセンサーが激しく反応を示し、慌てて外へ出ると、ロージーをロータに手渡す悠太くんの姿がそこにあった。
そして昔見た懐かしい、あの悠太くんの穢れなき白金の輝きをまた……
「でも、どうして……」
悠太くんはゆっくり前傾姿勢をとり、一拍置いて膝を曲げて更に体を低く沈ませると一気にママへと間合いを詰めた。
「えっ…… なんであんなに簡単に」
驚くことに悠太くんは刀と剣を寸止めこそしてはいるが確実にママの急所をとっていた。しかも、ママに反撃も回避もさせずに……
「ほう、私が見失うということは時を止めたか。いつの間に身に付けていたのだ。けれど、その努力は賞賛に値するわね」
背後からエレシュキガルが呑気にそう感想を述べた。
「はわわぁわぁ、うん、どうやら上手くいったみたいだね。さすがは私」
クロがいつの間にか私の肩に乗り、あくびをしながら呑気に自画自賛していた。
時を止めた?
上手くいった? どういうことよ!
「はねっかえり女神には時の御方の加護があるのだから時の魔法は通用しないだろう。いや、あれは魔法というより宝具の力か」
「おっ、さすがツンデレエレちゃん、お目が高い。私の最高傑作を看破するなんてさすがね」
「ちょっとクロ、どういうことよ。分かるように説明して!」
クロは呑気に背伸びをした後に、してやったと笑ってみせた。
「ユータ、私の剣を使えば私が側に居なくても時の魔法を使えるのに、いつも忘れてピンチに陥るでしょ。だからね、レイ達がスカジ様達からお守りの短剣を貰って、ユータがなんか羨ましそうにしてたから、そこで賢い私はひらめいたの。なら、私がユータにお守りを作ってあげようと。そして、それはユータの想いに応える形で勝手に発動する宝具にしたわけ。ああぁ、自分の才能がこれほど恐ろしいなんて思わなかったよ、天才過ぎるのも困りものだよ」
はあぁあ、なにそれ。そんな反則級の宝具なんて簡単に作れるものじゃないでしょうが。それにだよ、私に内緒でそんなデタラメな物を悠太くんに与えないでよ。益々、歯止めが効かなくなるじゃない!
「ん? あれ、クロ。まさか、あなたの大事にしてたブレスレットを触媒にしたの」
「うん、さすがにあのクラスじゃないと無理だったからね。それにもう、私には必要のない物だったし、ユータの為になるならその方がいいでしょ」
あきれた、本気であきれた。
あれほど大事にしてた宝具をあっさり作り変えるなんて……
「あれは原初の宝具だろう。ノアよ、少し勿体ない気もするが仕方がないか。あのデタラメな効果を発揮するにはな」
「そうよ、エレっち。どんなにいい宝具でも使わなかったら宝の持ち腐れでしょ。ちゃんと有効活用しないとね」
なぜか二人は満面の笑みでハイタッチを交わしていた。
しかも、いつの間にこんなに仲が良くなっていたんだろう。
「ふん、まあいいよ。わたしは悠太くんを褒めてくるから二人は付いてこないでよ」
わたしはクロを雑に手で払い、悠太くんのところへ向かった。
背後からクロとエレシュキガルが私を罵倒する声が聞こえるような気もするけど、今は悠太くんを褒めるのと、なぜ神威解放する事が出来たのかを確かめないと。
悠太くんの神威解放。
あの姿をまた目にできるのは嬉しいけれど、そこはかとなく不安になってくる。
悠太くん、消えたりしないよね……
◇
お、驚いた、なんだあの不思議な加速は。
というか、時が止まってたよな……
ネックレスの百合を様式化したトップを手に取り、まじまじと眺めてみた。
まさか、このネックレスの効果なのか。ま、まさかなぁ、こんな小さな物にそんな効果はないよな。
そんな事を何度も自問自答しながら答えの出ない迷路に嵌まっていた。
それになんかマルデルが隠し事をしているような気もするし。いや、マルデルだけじゃない。ノアもエレシュキガルも何かを隠しているような気がする。
まぁいい、今は釣りに集中しないとな。
そう、俺は大物を釣ろうと小舟に乗って釣りの最中なのだ。
だが、一向に当たりがこない……
そんな訳で、またついネックレスを手に取り思考に耽る。
百合の細工が見事過ぎて、ついつい見入ってしまう。とにかく細部まで手の込んだ細工が施してあって、美しいとしかいいようがない。さすがはクロノア作だ。
このネックレスはクロノアから御守りだと貰った。あまりに嬉しすぎて誰にも見せてはいない。それほど大事な物だし、大切な俺の宝物だ。
今朝もマルデルが見せてと言ってきたが断ったほどだ。
俺がマルデルに断るほどなのだから、どんなに大切にしてるのか分かってくれるだろう。本当に、本当に大事な宝物なのだ。
『ユータ、これがユータを守ってくれるよ。これでレイ達とお揃いだね』
まるで実の母のように母性たっぷりにクロノアは微笑んで、俺にプレゼントしてくれた。それは子供達や、マルデルが短剣の御守りを貰った時と同じように。
俺の少し羨ましいと思った気持ちを察して、クロノアはそうしてくれたのだろう。
だから余計にとても嬉しかったんだ。
「でもなぁ、今朝のあれは、どう考えてもこのネックレスの効果だよな。それに、神威解放とやらをしていたらしいし、謎が深まるばかりだよな。 ……しかし、釣れないなぁ」
「悠太様、聞きましたよ。熱烈なロータさんへの愛の言葉を、うふふ」
どこから飛んで来たのか、ユキナが突然そう言ってふわりと肩に乗った。
「ぁああ、んな事、言ってないだろ。ましてやロータにだぞ、死んでも言えるか!」
「よぉーく胸に手を当てて思い出してください。思い出せないのなら、アンジュ達に証言させても良いのですよ」
ん、あいつら朝から姿を現さなかったくせに陰でそんな事を言っていたのか。
だいたい、あの場で俺をサポートしないと駄目だろ。まったくサボりおってからに。
だが、まずいな。身に覚えがない愛の言葉なんてものを言いふらされたらたまったもんじゃないな。
『ロータは殺されそうになっても決してスカジ様に剣を向けることなどないでしょう。それほど彼女はマルデルやスカジ様達を一番大切に考えています。そんな彼女を脅して追い立てるなんて、あまりにも酷い行いだとは思いませんか。ましてや、幼子のロージーを抱いた彼女に。ロータは僕のかけがえのない大切な友人で、伴侶なんです。そんな彼女の心に消えない傷を付けるような事はやめてください』
「だっあぁっ! な、なんだそのくっさいセリフは!」
いまや名女優と化したアンジュの渾身の演技が炸裂した。
しかも、俺のモノマネしながら。
その寸劇はあろうことか、ウェンリィがスカジ様役に扮し、事細かに再現されていた。
「いかがですか、悠太様。素直にお認めになられていれば、こんな真似をせずに済んだのですけれど。私たちとしても主人の物真似をしなければいけないなんて、とても残念でなりません」
ユキナは絶対に思ってもいない事を平然と言い放った。
このちびっ子ドラゴンは多少見目麗しいからといって、少し調子に乗ってはいないか。おそらく今まで彼女は皆にチヤホヤされてきたのだろう。でなければそんな態度は出来ないはずだ。
「おい、ユキナ。ちょっと人型になりなさい」
彼女は小さく首を傾げた後、素直に人型になった。
そして俺はすかさず彼女を捕まえると、横になるように膝の上に乗せると彼女のお尻を二度叩いた。
「きゃっ! あ、痛いっ、あっ!」
「なにが、きゃっ! だ。ふざけるのも大概にしろ。最近のお前達は弛みすぎだ!」
俺はもう一度彼女のお尻を強く叩いて、彼女を解放した。
うむ、何気に柔らかく良い感触であった。良きかな良きかな。
「だから止めなさいって言ったのに。本当に昔から懲りないんだから」
「だってフレア、私だけ見逃したのよ。少しくらい揶揄っても良いじゃない」
ユキナはお尻を摩りながら、フレアに諭されていた。
そんな二人を無視して、俺はアンジュにノアから貰ったネックレスについて訊ねてみた。
「悠太様、申し訳ありませんが、その事に関しては私からは何も言えません」
「なんでだよ。教えてくれたっていいだろう。ノアといい、最近の君達は秘密主義過ぎるぞ」
「クロノアが贈った物について、私たちがペラペラと話す方が無粋ではありませんか。そんなに知りたいのなら直接クロノアから聞き出してください」
くっ、正論過ぎて反論できない。たまにこんな的を得た正論が飛んでくるから厄介だ。
でもなぁ、あの感じだと教えてくれそうにないんだよな……
「まぁその事はいいとして、神威解放ってなんだ?」
「えっ、さあ、なんのことでしょうね。私たちには分かりかねます」
少し顔を背けて、そんな白々しい嘘をつかれ、皆一同に消えた。
ならばとユキナに、と思い振り向くと彼女も消えていた。
な、なんだよ、そんなに俺に教えたくないのかよ!
ふん、なんだよ。ほんと冷たいな。
まぁいいよ、今は大物を釣り上げることに集中しよう。
そして昔見た懐かしい、あの悠太くんの穢れなき白金の輝きをまた……
「でも、どうして……」
悠太くんはゆっくり前傾姿勢をとり、一拍置いて膝を曲げて更に体を低く沈ませると一気にママへと間合いを詰めた。
「えっ…… なんであんなに簡単に」
驚くことに悠太くんは刀と剣を寸止めこそしてはいるが確実にママの急所をとっていた。しかも、ママに反撃も回避もさせずに……
「ほう、私が見失うということは時を止めたか。いつの間に身に付けていたのだ。けれど、その努力は賞賛に値するわね」
背後からエレシュキガルが呑気にそう感想を述べた。
「はわわぁわぁ、うん、どうやら上手くいったみたいだね。さすがは私」
クロがいつの間にか私の肩に乗り、あくびをしながら呑気に自画自賛していた。
時を止めた?
上手くいった? どういうことよ!
「はねっかえり女神には時の御方の加護があるのだから時の魔法は通用しないだろう。いや、あれは魔法というより宝具の力か」
「おっ、さすがツンデレエレちゃん、お目が高い。私の最高傑作を看破するなんてさすがね」
「ちょっとクロ、どういうことよ。分かるように説明して!」
クロは呑気に背伸びをした後に、してやったと笑ってみせた。
「ユータ、私の剣を使えば私が側に居なくても時の魔法を使えるのに、いつも忘れてピンチに陥るでしょ。だからね、レイ達がスカジ様達からお守りの短剣を貰って、ユータがなんか羨ましそうにしてたから、そこで賢い私はひらめいたの。なら、私がユータにお守りを作ってあげようと。そして、それはユータの想いに応える形で勝手に発動する宝具にしたわけ。ああぁ、自分の才能がこれほど恐ろしいなんて思わなかったよ、天才過ぎるのも困りものだよ」
はあぁあ、なにそれ。そんな反則級の宝具なんて簡単に作れるものじゃないでしょうが。それにだよ、私に内緒でそんなデタラメな物を悠太くんに与えないでよ。益々、歯止めが効かなくなるじゃない!
「ん? あれ、クロ。まさか、あなたの大事にしてたブレスレットを触媒にしたの」
「うん、さすがにあのクラスじゃないと無理だったからね。それにもう、私には必要のない物だったし、ユータの為になるならその方がいいでしょ」
あきれた、本気であきれた。
あれほど大事にしてた宝具をあっさり作り変えるなんて……
「あれは原初の宝具だろう。ノアよ、少し勿体ない気もするが仕方がないか。あのデタラメな効果を発揮するにはな」
「そうよ、エレっち。どんなにいい宝具でも使わなかったら宝の持ち腐れでしょ。ちゃんと有効活用しないとね」
なぜか二人は満面の笑みでハイタッチを交わしていた。
しかも、いつの間にこんなに仲が良くなっていたんだろう。
「ふん、まあいいよ。わたしは悠太くんを褒めてくるから二人は付いてこないでよ」
わたしはクロを雑に手で払い、悠太くんのところへ向かった。
背後からクロとエレシュキガルが私を罵倒する声が聞こえるような気もするけど、今は悠太くんを褒めるのと、なぜ神威解放する事が出来たのかを確かめないと。
悠太くんの神威解放。
あの姿をまた目にできるのは嬉しいけれど、そこはかとなく不安になってくる。
悠太くん、消えたりしないよね……
◇
お、驚いた、なんだあの不思議な加速は。
というか、時が止まってたよな……
ネックレスの百合を様式化したトップを手に取り、まじまじと眺めてみた。
まさか、このネックレスの効果なのか。ま、まさかなぁ、こんな小さな物にそんな効果はないよな。
そんな事を何度も自問自答しながら答えの出ない迷路に嵌まっていた。
それになんかマルデルが隠し事をしているような気もするし。いや、マルデルだけじゃない。ノアもエレシュキガルも何かを隠しているような気がする。
まぁいい、今は釣りに集中しないとな。
そう、俺は大物を釣ろうと小舟に乗って釣りの最中なのだ。
だが、一向に当たりがこない……
そんな訳で、またついネックレスを手に取り思考に耽る。
百合の細工が見事過ぎて、ついつい見入ってしまう。とにかく細部まで手の込んだ細工が施してあって、美しいとしかいいようがない。さすがはクロノア作だ。
このネックレスはクロノアから御守りだと貰った。あまりに嬉しすぎて誰にも見せてはいない。それほど大事な物だし、大切な俺の宝物だ。
今朝もマルデルが見せてと言ってきたが断ったほどだ。
俺がマルデルに断るほどなのだから、どんなに大切にしてるのか分かってくれるだろう。本当に、本当に大事な宝物なのだ。
『ユータ、これがユータを守ってくれるよ。これでレイ達とお揃いだね』
まるで実の母のように母性たっぷりにクロノアは微笑んで、俺にプレゼントしてくれた。それは子供達や、マルデルが短剣の御守りを貰った時と同じように。
俺の少し羨ましいと思った気持ちを察して、クロノアはそうしてくれたのだろう。
だから余計にとても嬉しかったんだ。
「でもなぁ、今朝のあれは、どう考えてもこのネックレスの効果だよな。それに、神威解放とやらをしていたらしいし、謎が深まるばかりだよな。 ……しかし、釣れないなぁ」
「悠太様、聞きましたよ。熱烈なロータさんへの愛の言葉を、うふふ」
どこから飛んで来たのか、ユキナが突然そう言ってふわりと肩に乗った。
「ぁああ、んな事、言ってないだろ。ましてやロータにだぞ、死んでも言えるか!」
「よぉーく胸に手を当てて思い出してください。思い出せないのなら、アンジュ達に証言させても良いのですよ」
ん、あいつら朝から姿を現さなかったくせに陰でそんな事を言っていたのか。
だいたい、あの場で俺をサポートしないと駄目だろ。まったくサボりおってからに。
だが、まずいな。身に覚えがない愛の言葉なんてものを言いふらされたらたまったもんじゃないな。
『ロータは殺されそうになっても決してスカジ様に剣を向けることなどないでしょう。それほど彼女はマルデルやスカジ様達を一番大切に考えています。そんな彼女を脅して追い立てるなんて、あまりにも酷い行いだとは思いませんか。ましてや、幼子のロージーを抱いた彼女に。ロータは僕のかけがえのない大切な友人で、伴侶なんです。そんな彼女の心に消えない傷を付けるような事はやめてください』
「だっあぁっ! な、なんだそのくっさいセリフは!」
いまや名女優と化したアンジュの渾身の演技が炸裂した。
しかも、俺のモノマネしながら。
その寸劇はあろうことか、ウェンリィがスカジ様役に扮し、事細かに再現されていた。
「いかがですか、悠太様。素直にお認めになられていれば、こんな真似をせずに済んだのですけれど。私たちとしても主人の物真似をしなければいけないなんて、とても残念でなりません」
ユキナは絶対に思ってもいない事を平然と言い放った。
このちびっ子ドラゴンは多少見目麗しいからといって、少し調子に乗ってはいないか。おそらく今まで彼女は皆にチヤホヤされてきたのだろう。でなければそんな態度は出来ないはずだ。
「おい、ユキナ。ちょっと人型になりなさい」
彼女は小さく首を傾げた後、素直に人型になった。
そして俺はすかさず彼女を捕まえると、横になるように膝の上に乗せると彼女のお尻を二度叩いた。
「きゃっ! あ、痛いっ、あっ!」
「なにが、きゃっ! だ。ふざけるのも大概にしろ。最近のお前達は弛みすぎだ!」
俺はもう一度彼女のお尻を強く叩いて、彼女を解放した。
うむ、何気に柔らかく良い感触であった。良きかな良きかな。
「だから止めなさいって言ったのに。本当に昔から懲りないんだから」
「だってフレア、私だけ見逃したのよ。少しくらい揶揄っても良いじゃない」
ユキナはお尻を摩りながら、フレアに諭されていた。
そんな二人を無視して、俺はアンジュにノアから貰ったネックレスについて訊ねてみた。
「悠太様、申し訳ありませんが、その事に関しては私からは何も言えません」
「なんでだよ。教えてくれたっていいだろう。ノアといい、最近の君達は秘密主義過ぎるぞ」
「クロノアが贈った物について、私たちがペラペラと話す方が無粋ではありませんか。そんなに知りたいのなら直接クロノアから聞き出してください」
くっ、正論過ぎて反論できない。たまにこんな的を得た正論が飛んでくるから厄介だ。
でもなぁ、あの感じだと教えてくれそうにないんだよな……
「まぁその事はいいとして、神威解放ってなんだ?」
「えっ、さあ、なんのことでしょうね。私たちには分かりかねます」
少し顔を背けて、そんな白々しい嘘をつかれ、皆一同に消えた。
ならばとユキナに、と思い振り向くと彼女も消えていた。
な、なんだよ、そんなに俺に教えたくないのかよ!
ふん、なんだよ。ほんと冷たいな。
まぁいいよ、今は大物を釣り上げることに集中しよう。
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