邪神様に恋をして

そらまめ

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未踏の大地へ(青年編)

女神様、いつの間に俺は?!

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 皆は忘れてはいないだろうか。なぜこの地に留まっているのかを。
 そう、ヒルデの為に拠点を快適に過ごせるよう改築するためだということを。ニョルズ様については、まぁあれだ、言葉は悪くなるが、ついでというやつだ。

 デェークさんに依頼したのはいいが、本拠地の屋敷で今は手一杯ということで、しばらくは無理だと言われたのだが、なんとそのデェークさんが大勢の職人を連れて急遽ここまで駆けつけてくれたのだ。

「悠太様、お待たせしました。ちょっくら遅くなりやしたが、腕のいい職人を揃えてきやしたのでパパッと完璧に仕上げてみせますよ」

 それはありがたい。が、職人を揃えたというところが気になる。人員が増えればその分お金も掛かるのではないだろうか。
 俺はこっそりデェークさんに背を向けてマジック袋からお金の入った貯金箱を取り出して数えてみた。
 うむ、一目瞭然だ。ほぼ底が見えている……

「あっ、佐藤くん大丈夫だよ。ロザミアとマチルダの事で迷惑を掛けたからね。私達からの謝罪も兼ねてデェークさんに再依頼したんだよ」

 な、なに、そんな気遣いというか謝罪は要らないんだけど。そもそもお金を出してもらうなんて……

「誤解しないで。あのね、これは街の人から佐藤くんへの報酬として預かってた分を元手に、私達が運用して増やしたものだから」

 はい? 街の人からの報酬なんて身に覚えがないんですけど……

「悠太様、日頃のお手伝いの事ですよ。私が皆から断りきれずに預かったのですが、絶対に悠太様は受け取りにならないと思って凛子様に相談し預けたのです」

 斜め後ろからそうエルルーンにそう補足され、にこやかに微笑んでいた。
 あれか、彼女が代わりに受け取ったのも俺の監視役リーダーだったからか。

「でもあれだろ。そんな大金になるほどの事はしていないし、そもそもエイルといい、運用ってなんだよ」

 凛子はそう聞かれて少し困った顔をしたように見えた。

「うーん、話していいのかなぁ。後でみんなに怒られるような気もする……」
「いいんじゃないですか、凛。話す機会が訪れたということです」

 ヒルデが俺の隣に来て、そう言って微笑んでいた。

「そうだよね。ヒルデが言うなら間違いないよね。あのね、佐藤くん。運用っていっても佐藤くんの会社、じゃないか、お店を立ち上げたの。私の本とか服とかを製作して卸すお店を佐藤くん名義で。だから、佐藤くんがオーナーで、その報酬なの」

 ん、知らないところで俺が社長になってたということなのか。うーん、なんで?

「まぁ、凛子関連のお店以外もまだあるのですが、それはマルデル様から直に聞いてください。私から言うと怒られそうですので」

 ヒルデは口を軽く隠して小さく笑った。
 そんな彼女の微笑んだ姿に暫し見惚れてしまったが、鋼の意思で素に戻った。と、思う……

「あれだよ、佐藤くん。わらしべ長者的な」
「……なるほど。小さな物からコツコツと、とういうやつか。それは凄いな」

 ということは、俺の知らない隠れ資産がまた増えたということか。
 でもそんなものは要らないけどな。

「なぁ、そんなにあるなら街のみんなの為に使ってくれ。俺個人の為に使うのは止めてくれないか。そしてデェークさん、後で俺が必ず払うので今回はそんな感じで出来ないかな」

 ヒルデや凛子が少し驚いた表情を見せたのに対して、エルルーンだけが満足そうな笑顔をしていた。

「はい、わかりやした」

 デェークさんはエルルーンを一度見て頷いた。
 俺はデェークさんにお礼を言ってから、エルルーンに耳打ちした。

「フォロー、ありがとう」

 その言葉に少し彼女は驚いていたが、皆に気付かれないように自然体にしていた。

 後でマルデルとちゃんと話さないとな。
 俺を驚かせるならお金ではなく、みんなのとびっきりの笑顔を見せてくれ、ってさ。


 ◇


 拠点についてはデェークさんに任せて、俺はあの洞穴に向かうことにした。
 その今回のメンバーはアンジュ達と協議の末、クオンとスクルドは確定していた。そこにロータが絶対に一緒に行くと駄々をこねたので今回は連れて行くことにした。

 そして三人でそれぞれ馬に乗り、ゆっくりと洞穴を目指していた。
 うむ、天気は快晴。心もいつになく晴れ晴れだ。

「あ、ゆうた、おっきなハチさんがくるよ」

 そのクオンの警告に、俺の心は一気に曇り空となった。
 クオンの指差す方に目をやれば、何やら空が一箇所だけ黒くなっていた。

「ゆ、悠太様、お願いします」

 ロータはハチを俺に押し付けるように、あっさりと俺の後方へ馬を下がらせた。

「お、おい、俺の専属護衛が後ろに下がってどうすんだよ!」
「私はクビになりましたので、今は専属護衛ではありません」

 こ、この、お調子者めが、都合良すぎんぞ!

「はぁ、二人でそんなに慌てなくても……」
「だってスクルド、あんなにたくさんのハチが」

 俺は迫りくるハチを指差し、スクルドにアピールした。

「所詮、虫です。それに虫が怖いなら虫が近付く前に駆除すればいいだけではありませんか」

 確かに。そうだ、俺には魔法が!
 手を前に突き出して魔法を、だが、手が震えて魔法が……

「お忘れですか。魔法は願いですよ、悠太様」

 その願いというか、魔法のイメージが出来ない。
 ああぁ、もう……

「仕方ありませんね。ほらユキナ、出番ですよ」

 俺の後ろ、馬の背でドラゴン姿で小さくなって寝ていたユキナがアンジュのその言葉で目を覚ました。

「やです。あんな雑魚の相手など御免です」
「もう、あんたの縄張りでしょ。責任とって、さっさと排除しなさいよ!」
「シェリー、絶対に、い・や・で・す」

 お、おい、なに内輪で揉めてんだよ!
 く、くそっ、あんなハチ如きに……

 あぁああ、やっぱりダメだ!

「はぁぁ、しょうがないですね」

 スクルドは大きくため息をつくと馬を前に出し、槍を手にし握り具合を何度か確かめた後、ハチに向けて槍を投げた。
 投げられた槍はハチの群れに到達すると眩い光と共に爆散し、ハチの群れを一掃した。
 そしてスクルドは何事もなかったように振り向いた。

「さあ、先へ進みましょう」
「あ、うん」

 クールなスクルドの態度と強さに、あらためて実感した。
 やっぱ、ワルキューレハンパないわ。

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