邪神様に恋をして

そらまめ

文字の大きさ
上 下
230 / 230
未踏の大地へ(青年編)

fine

しおりを挟む
 今夜の月は赤い。
 その月明かりが湖畔を薄く朱に染める。
 星々の輝きもあって、とても綺麗で美しい幻想的な世界……

「どうしたの、ユータ」

 頭の上に降りたクロノアが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

 そんなクロノアに一言、別にと告げる。
 彼女にはそれだけで充分だと知っているから。
 そして彼女は頭の上から肩へと移動すると、その小さな顔を俺の頬にもたれ掛け短く返した。

「そっか」
「ああ」
「随分と賑やかになったしね」
「ほんと。あっという間だ」
「嬉しい? 大家族憧れてたでしょ、ユータ」
「ああ。でも不安にもなる」

 年末年始やお盆に一族総出で集まった感がある。
 まぁ、そんな経験はないけど。
 そんな大家族を俺は……

「なんとかなるよ」
「なればいいな」
「ねえ、ユータはなんて願われて神になったの」


『絶望、憎悪や悲しみ。そんな終わりではなく、優しく穏やかな終わり。
 世界が終わる時、希望を抱いて新しく生まれ変われる世界を。
 穏やかな陽だまりのように、そんな優しい輝きに包まれながら』


 願われたのは、そんな優しい願い。
 ただ普通に、ただ穏やかに、己の生に満足し寿命を迎えるように、と。


「そっか。ユータらしいね」
「かな?」
「うん。だって、私の知ってるユータは常にそんな事を願ってたし、そうなるように行動してたから」
「前世でも、って事か」

 うん、と短く答えるとクロノアは姿を大きく変えて膝の上に座ると、背中を俺に預けた。

「なあ、なんで神様にはならなかったんだ」
「アンジュ達と一緒だよ。私はフーの側に居たいだけだからさ。ほんと危なっかしいし」
「そっか。ん、危なっかしい?」
「危なっかしいよ。目を離すと勝手に死ぬからさ。ほんと、目が離せないよ」

 そ、そうだったのか。勝手に死ぬのは確かに危ないよな。

「いつもいつもそう。理想を追い求めて、好き勝手に周りを振りまわすくせに、肝心なところで皆の命を大事にして勝手に一人死地に赴く。誰もが諦めるところを絶対に諦めないからさ。ほんと、たちが悪いよね」

 両の拳を握り、それを緩めると大きく息を吐いて、また背中を預けた。

「でもそこが良いんだろ、ノアはさ」
「まぁね。けどさ、毎回置いてかれる身にもなってよ。っていうか、ユータも私と一緒だからね。他人事じゃないんだよ、私たちはいつも置いてかれてんの。まったく、他人事じゃないんだから」
「まあ俺、記憶ないし」
「だろうね。覚えてたら出逢った瞬間にお尻叩いてると思うよ」
「覚えててもしねぇよ」
「どうだか。フーに怒れるのはあんただけだったし。それに怒ってお尻を叩くのは恒例行事だったじゃん。今のユータが優しすぎるの、ふん」

 優しすぎる、かあ。
 あんまりそんな自覚はないなけどな。

「で、これからどうするの」
「ん、変わらず、このままだよ」
「神になったのに」
「ああ、神になってもな。変わらずこのまま」
「そっか、らしいね」
「だろ」
「だね」

 神様になっても、ならなくても変わらない。
 俺は俺なのだから。
 だからきっとこの先も今までと同じように続いていくのだろう。
 毎日が新鮮で、騒がしくて賑やかな日々を、これからもずっと。

 だからもう、俺の物語はここで一旦お終いにしよう。
 だって、この先……




「か、かけら、話があるの」
「あっ、エレッち。そっかぁ、じゃ、私は」
「いや、いいの、そのままで」
「で、話って」
「あの、あの、か、欠片、私と恋をしなさい!」
「え、恋」
「そう、恋をしなさい、なの。というか、あれなのだけれど。……私は悠太が好きなの、恋をしたの。だからあなた言ったじゃない。好きな人を見つけろって、絶対に大丈夫だって、だから、だから」


 そっか、そう言ったよな。
 うん、わかった。
 エレシュキガル、俺とたくさんの恋をしよう。
 君のこれからの日々が明るく照らされるように
 これからも、この先もずっと
 変わらずに君と、皆と……

 たくさんの色褪せない、素敵な恋をしよう

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

bones
2022.09.17 bones

なろうの方でこちらの作品を読ませていただいてたのですが、久々に見てみると削除されていたので焦りました。探してみるとアルファポリスで連載されているのを見つけることができたので今後はこちらで読んでいこうと思います。今後も頑張ってください。

そらまめ
2022.09.17 そらまめ

bones様、邪神様に恋をしてを見つけて頂き本当にありがとうございます。
また、お手数をお掛けし誠に申し訳ありませんでした。

なろうの方は誤字などの修正をするのが手間だったのと、二つの投稿サイトに投稿するのは駄目なのかと思い削除しました。
あちらの方がたくさん読まれていたので、少しもったいないと思っていますけど、こちらは縦書きで読めるので……

でも、今後も頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

時代小説の愉しみ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

冒険2日目で最強ギルドの仲間入り

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,613pt お気に入り:238

王妃は離婚の道を選ぶ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,791pt お気に入り:28

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。