元召喚勇者は無双したい ~女神に自重を強制されているんだが~

遊暮

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11話 修羅場なんだが

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「アキトさん! まったくあなたは――」

「本当に申し訳ございませんでした」

 先手必勝。
 言い終わるより先に、俺は額を地面に擦り付けて怒れる女神に許しを請う。
 プライド? 何それおいしいの?

「……」

 アイネは腕を組みながら、黙ってしまった。
 目を見れば怒っていることは伝わるが、どこか葛藤のようなものが見え隠れしている気がする。
 俺が顔を僅かに上げてアイネの様子を伺っていると、こちらに近付いてくる複数の足音を感じた。

「あの……アイネ様。一体どうなったのか説明してはいただけないでしょうか……?」

 黙っていたアイネに代表して話しかけたのは、桃色のツインテールといかにもファンタジー感溢れる髪型をしたこの国の王女様だ。
 その後ろには送り返された柿渕を除いた召喚者四人と、赤いマントを羽織った王様の姿も見える。
 だが、王様を守るようにして剣に手を掛けている騎士達が気になる。何かを警戒しているように見えるが……。

「アキトさん、私も何が起こっていたのか把握しきれてませんので、説明をしてください」

 そこでアイネから声がかかったことにより思考が中断される。
 説明、かぁ……。

「しなきゃだめ?」

「はい」

 ここで下手に誤魔化すと、後々面倒なことになるのは目に見えている。ここは簡潔に答えた方がいいだろう。

「オレ、カキブチタオシタ。……イエーイ」

「そういうのはいらないです」

 いつになくアイネが冷たいんだが。なぜだ。

「ルナを召喚して、魔王を討伐して、柿渕のやつを頭を少しいじって元の世界に帰しました」

 仕方なく素直に答える。
 ルナという言葉にアイネの眉がピクリと反応し、魔王を討伐のくだりで王様の顔が面白いことになり、柿渕が帰ったと聞いた召喚者四人は目から光が消えた。

「…………アキトさん」

「はい」

「……『自重』してくださいよぉ……」

「……ほんとスマン」

 涙目になったアイネに、俺はひたすら謝るしかなかったのだった――





 それから十分ほどアイネを宥め、ようやく落ち着いてきたところで王様が口を開いた。

「オホン! ……それでアキト殿、そちらの女性は? 見たところ魔族のように見えるのだが」

 俺はその言葉をを聞いて、ようやく騎士達が何を警戒しているのか理解した。

「ああ、大丈夫だぞ。こいつ――ルナは確かに魔族だが、俺と契約しているし無闇に人を襲ったりはしないから」

 その言葉に、王様が手で合図をすると騎士達は剣に掛けていた手を離した。その額には汗がびっしょりと浮かんでいる。心なしか顔も青い。
 まあさっきの柿渕との戦いを見ていたのだから仕方がないだろう。力量差は嫌でも分かるだろうからな。

 そこで、俺の服の裾が引っ張られるのを感じた。
 見ると、今までずっと黙っていたルナが何かを言いたそうに俺を見ている。

「ルナ、どうした?」

「……それがのう、言いにくいんじゃが……妾はもう魔族ではなくなったのじゃ」

 魔族じゃなくなったってどういうことだ?
 確か彼女は――

「お前って確か吸血鬼族じゃなかったか? 違うなら何になったんだよ?」

「……邪神じゃ」

「……」

 ダメだこの子。ただでさえこの見た目に加えて、のじゃとか語尾に付けて痛い子全開だったのに、ここにきて自分を神だとか抜かしやがった。しかも邪神。

「痛いわー。俺から見ても痛いわー」

「お主のちゅうにびょうとやらと一緒にするでないわ!」

 失礼な。

「じゃあどうやって……? ってまさか!」

 邪神に心当たりは一つしかない。

「そうじゃ、お主があの世界を去る前に倒した邪神を喰らったのじゃよ」

「マジか……」

 あれ食ったのかよ。どう見ても食欲がそそられる見た目じゃ無かったよな。
 というか、言われて見れば彼女から感じられる力が以前とは比べものにならないくらい大きくなっていることに気付く。それこそ、女神であるアイネと同等くらいの力を。

「ということで、これからはずっとお主と一緒にいることに決めたからよろしくなのじゃ!」

 何が、ということで、だ。
 俺に抱きつく形で飛びついてきたルナにツッコもうとして、俺は硬直した。
 ルナが顔を埋めた場所から伝わる湿気と熱。これって――

「彼女が泣くのも無理はありません。向こうの世界では千年も経っていましたから」

「は?」

 復活していたアイネの言葉に俺は戸惑う。

「千年って……、一年しか経ってない筈だろ?」

「世界毎に時間の進みが違うのです。だから彼女は、あなたが呼び出してくれるまでの千年もの間、ずっと待ち続けていたんですよ……私も」

 千年。神になった彼女は老いることなく、かつての知り合い達が死んでいくのをずっと見届けてきたのか。全ては、俺に再び会うために。
 俺はとめどなく胸に溢れる気持ちを堪えて、優しくルナの頭を撫でた。

 ……だが、その感動も長くは続かなかった。

「あの、私も――」

 恥ずかしそうに俺に寄ってきて、頭を差し出そうとしたアイネ。

「こっちに来るでないわ!」

 を俺に抱きついたまま睨み、牽制し始めたのはルナ。

「わ、私だって……」

「そもそもの原因は! 女神であるそなたが送還に力を貸したせいではないか!」

 ……確かに。

「はうっ……! で、でも――」

「それに、女神であるそなたが恋人でもない男に、頭とはいえ無闇に体を触らせるのはよくないと思うのじゃが?」

 確かにな。

「それを言ったらあなただって――」

「妾とアキトは恋人どころか結婚を誓い合った仲じゃが?」

 ……確かにしましたね。邪神を倒す前に。

「あうぅ……」

 KO!
 頭の中でゴングが鳴り響いた気がした。
 地面に崩れ落ちたアイネ。俺は声を掛けようとするが、口が動くだけで声が出せなかった。
 ルナの仕業か。容赦ねえな。

「あの、そろそろその辺で……」

 やり取りを見られていたことに気が付いて、俺達三人の顔が真っ赤に染まったのはそれから数分後のことだった。
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