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愛の重さは十人十色。※胸糞

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 中学一年一学期。
 私は恋をした。
 相手は同じクラスの男の子、ゆうくん。
 あの人はこの世で一番優しい人、私にとって。
 だから、好きだった。

  *  *  *

「すきです!付き合ってください!」

 ゆうくんと席が隣になって、結構仲良くなったとき、私は告白した。
 なのに。

「田島さん。ごめんね」
「……いいよ、どうせ私のことなんか嫌いなんでしょ?」
「そんなことないよ。好きじゃない人と付き合うのは違うと思って」

 ほら、やっぱり優しい。
 その優しさに気がつけるのは私だけ。
 だから。
 これも許される。

「ゆうくんの隣の席になったよね?ゆうくんは私のだから、とったら殺すよ?」

 私はカッターを突きつける。
 相手の怖がる顔。
 ふふ、ああ愉快。

「なんでそんなことした?」
「先生にはわかんないでしょ?私だけを見ててほしいの。他の人のところになんか行かないでほしいの」
「だからってやっていいことと悪いことがあるだろう」

 その瞬間、頭が混乱する。

「ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい、何もできなくてごめんなさい。気持ち悪いですよねすいません。生きててすいません」

 担任の呆然とした顔。
 ああ、人様に迷惑をかけるなんて、私死ねばいいのに。

 
 *  *  *

 三年生になって、私には仲のいい女友達ができた。日向ちゃんっていうんだ。
 大好きだった。
 クラスで浮いてた私に話しかけてきてくれて、仲良くしてくれて、この前ピザも食べに行った。
 それと三年生になって嬉しいことがもう一つ。
 ゆうくんが話しかけてくるようになった。

「昨日のアニメ見た?」
「うん。みたよ。おもしろかった。」
「そっか、日向は?」
「私見てないんだよねー。見るものが山積みで」
「わかる!追ってるアニメ多いとめっちゃ溜まってく!」

 気がつく。私じゃなくて日向ちゃんに話してる。
 ああ、そんなはずない。
 そう言い聞かせて、自分を騙していたけど。
 希望は、ある日突然打ち砕かれる。

「田島さん、好きな人呼び捨てにするのってキモい?」

 ゆうくんからの恋愛相談。
 相談されて嬉しかったのと、好きな相手が気になった。

「キモくないよ。好きな人って誰?」
「えー?おしえね!」

 ゆうくんは笑う。
 やっぱり好き。
 聞き続けてたらゆうくんはそのうち答えてくれた。

「日向だよ」って明るい顔で。
 それでもあきらめられなくて、好かれたくて、自分をよく見せるためにはなった一言。
「協力するよ。聞きたいことあったら言って!」

 ゆうくんは私に相談してくるようになった。
 つらかった。
 だから言いふらした。クラス中に。
 翌日、ゆうくんは私に問い詰めてきた。
 嘘をつく私。

「田島さん、なんでバラしたの?」
「え?バラしてないよ私。」
「わかってるから嘘つかなくていいよ。怒ってない。なんでバラしたか知りたいだけ」
「本当に何も知らない。」
「証拠揃ってるよ。クラスの女子が田島さんから聞いたって言ってたよ。」
「え?私にそんなこと言える友達がいるわけ無いじゃん」
「別に怒ってないから嘘つかなくていいよ。どうしてバラしたのか知りたいだけ」

 私は適当に理由をつけた。
 日向ちゃんにも、ゆうくんが日向ちゃんのことが好きっていう情報が渡った。
 日向ちゃんは、私がゆうくんの事好きなのを知っていた。

「私はゆうくんのこと好きにならないし、諦めてもらうよ」

 その言葉を聞いて、ホッとした。
 それからは、必死にアタックするゆうくんと、諦めてもらおうとする日向ちゃんで、私が介入して関係を壊させる必要もなかった。
 勝手に壊れる。そう思うと心が楽だった。
 だから私は、ゆうくんの相談にも乗ったし、日向ちゃんの相談にも乗った。
 なのにある日突然。

「私、ゆうくんのこと好きかもしれない。」
「え?なんでよ。うそ。どうして」

 私が混乱していると、日向ちゃんはまずいと思ったらしく

「冗談だよ!ただ、ゆうくんの好きな人変わったの?まだ私?それが知りたくて」
「しらない。聞いてみる。」

 どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。

「付き合った。」

 その言葉を聞いた。ゆうくんの口から。
 どうして。
 二年もの間、ゆうくんだけを見て、ゆうくんだけを思ってきた私よりも、ゆうくんの良さも理解できないで、この前までゆうくんを傷つけようとしてた人を選ぶの?
 なんで。なんで、なんで、なんで。
 そんなの理不尽だよ。

 私は間違っていない。その確信があったから。私はゆうくんに日向ちゃんのぐちを言って、自分が可愛そうな話もした。
 ゆうくんは優しいから、笑って聞いてくれた。
 なのに、それなのに。

「距離を取ろう。彼女の悪口を言われてると気分悪いし。最近嫌味ばっかり言ってくるし。カッターの話も聞いたよ。一旦距離を取るべきだと思う。」
「なんで。なんで。どうして。私はただあなたと話しているだけで良かったのに。なんでよ。」

 私はその場から逃げ出した。
 その後はバカでも予想がつく。
 ゆうくんからは冷たくされて、日向ちゃんとの間には壁を感じるようになった。
 私の情報はすぐにクラス中に広まった。
 学級委員の日向ちゃんと、たくさん友だちがいるゆうくん。
 広まるのは当たり前だった。
 
「どうして。私は二人の相談に乗ってあげた。協力してあげた。私の気持ちを殺して捧げてきた。なのになんで。」

 そう口にする毎日。
 クラスメイトから、主に男子から冷たくされる。
 女子は冷たくはしてこないが、壁を感じる。
 どうして私が、どうして。
 もう。いいや。

「さよならゆうくん。日向ちゃん」

 私はまず日向ちゃんを刺した。
 日向ちゃんは何も言わず崩れ落ちた。
 ゆうくんは力が強いから、後ろから狙った。

「う。おまえ。」
「お前じゃないよ?あなたと同じ、ゆうって名前があるよ?」
「知るかクソ野郎。日向と連絡がつかない。日向のことも、刺したのか?」
「ふふふ。私が壊してやった。」
「お…まえ。………地獄……に………落ちろ」

 ゆうくんは倒れた。
 ふふふ。楽しい。あの女は彼氏と一緒にしんでない、どっかの道で一人で死んだ。
 なのに私は、ゆうくんと一緒に死ねる。
 私があの女から奪ったんだ!
 ゆうくんは私の!誰にも譲らない!一緒に死ぬのは私。あの女じゃない!
 ふふふ。ふふ。ふふふ。
 はは、はははははははははははははははははは。
 ぎゃはははははははああああああああああああああああああ!!!!!!!!
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