小さな客人

霧氷

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棘の上の佳人

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我が家の玄関先に佳人が訪れる。


来るのは、不定期。


冬は来ず、桜咲く頃から、黄葉が紅葉する頃まで、時々玄関先に現れる、佳人達。


緑色の棘の上に、いつの間にか現れる。


そして、いつの間にか眠り、項垂れ、落ちていく。


蛍やセミよりも儚い。


緑色の棘の上に部分に直接来るものだと思っていた。


しかし、そうではなかった。


棘にコブが出来ると、茶色の茎がメキメキと伸び、先端に紅紫色の蕾が現れる。



晴れると、佳人がプリーツスカートを靡かせるようにして姿を現す。


花弁の内側の先端は薄桜色、中心にあるおしべ、めしべは、薄い女郎花色をしていた。


時には、四、五人、一緒に来るが、一人の時もある。


向日葵のように、太陽を追いかけるわけではなく、一定の方を向いている。


まるで、何かを待っているように。




黒い虫が、佳人の周りを飛び回り、中に入り込もうとするが、何故かすぐに逃げていく。


棘あるのは足元だけだというのに、何故、逃げるのか。


他の花は、抵抗空しく食い荒らされているが、彼女達は無傷だ。



やはり高嶺の花なのか。


それとも、狐に化かされたか。


はたまた、生気を吸われたか。



美しい花には、棘がある。


足元だけではない。


佳人達は、淑やかな美しさの中に、いくつもの毒を仕込んでいるのだ。


「・・・・・・。」


また、虫が佳人の中に入り、フラフラと飛びながら出ていった。


玄関先のここは、現世の衆合地獄。


普通に見ていれば、花と虫の戯れでも、黒い虫の男が、佳人達に遊ばれているように見える。


美しくも残酷の自然の中で。






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