甘夢の旅人

霧氷

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女の園

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「こっちよっ!」


「いえ、こっちですっ!」


「だったら、これよっ!」


「それなら、この色をっ!」


「・・・・・・。」



採寸を終えたユメは、壁際の椅子に腰かけ、ウィングとソニアの言い合いを見ていた。


二人は、今、ユメの服の色を選んでくれているのだ。


ユメは、構造が分からないので、『お任せする』と言ったら、始まった言い合いである。


「ウィングさん、ユメには、チェリーピンクが似合いますっ!」


「いいえ、ユメに一番似合うのは、ミモザよっ!」


「ユメは、可愛い顔しているし、ピンク系統が似合うんですっ!」


「あら、ユメは笑った顔が眩しいわ。イエロー系統の方が、引き立つわっ!」


「・・・・・・。」



褒められているので、嫌な気はしないが、流石に恥ずかしくなった。



「あの、二人とも・・・。」


「ユメお姉ちゃんは、明るいから、マンダリンオレンジが良いわっ!」


「っ!?」


ユメが止めよと口を開くと、甲高い声に遮られた。


入口の方を向くと、メリーとその後ろにヘレーネが立っていた。


「メリーとヘレーネじゃないかい。」


「あんた達、逃げたんじゃなかったの?」


「ユメお姉ちゃんの洋服作るなら、私達も手伝う。ねっ、ヘレーネ。」


「うん。」


逃げたことを指摘されても、二人は下がらなかった。


ユメと色見本を視界に捉えた二人の目を見れば、ウィングとソニアは真意を悟った。


「あんた達、ユメは着せ替え人形じゃないのよ?」


片眼鏡を上げ、二人に言う。


「知ってるよ。でも、東洋人なら、私達と似合う色が違うと思うの。」


「それは、一理あるけど・・・。」


「だから、お手伝いさせて下さい。」


「・・・ユメ、どうする?」


「えぇっ!?」


急に話を振られ、驚くユメ。


「驚く必要ないでしょ。ユメの服の話なんだから。」


「う、うん・・・私は、来たばかりで、この辺の気候に詳しくないから、色々な人の意見を聞きたい、かな・・・?」


断れば子ども達が可哀想なので、ユメは遠回しに了承した。


「まぁ、ユメが良いならいいわ。」


「あんた達、こっちに来なさい。」


「えぇ。」


「はい。」


メリーとヘレーネは、小走りに店の中を走り、備え付けの台の上に乗って、テーブルの上の色見本を見る。


「今、ソニアのピンク系、私のイエロー系、そして、今、メリーのオレンジ系が追加されたわ。」


三人の意見は、見事にバラバラだ。


「ヘレーネは、どう思う?」


ユメがヘレーネに話を振った。


このままでは、メリーを入れて三つ巴の言い合いが始まりそうだったからだ。


「ユメお姉ちゃん、お空みたいに優しいから、シアンが良いと思う。」


「えぇ・・・?」


ここで、まさかのブルー系を勧められる。


ユメも選択肢を増やされるとは思っていなかったので、返答が出来なかった。


「何よ、皆、バラバラじゃない。」


ソニアはため息交じりに肩を落とした。


「それが、ユメの側面ね。」


「側面?」


ウィングの言葉に、皆、首を傾げる。


「私達が選んだ色は、ユメを見た印象で選んだってこと。色は、それぞれユメの側面を表しているってことね。」


「・・・私の、側面・・・?」


「えぇ。可愛い、明るい、優しい、笑顔の眩しい。これら全ては、『ユメ』という人間の中にある側面ってことよ。」


「・・・じゃぁ、結局どうすれば良いの?」


「ユメ、最後はあんたの意見だよ。」


「えっ?」


ウィングはユメに問う。


「着るのはあんたあだからね。嫌いな色を着ても、仕方ないだろう。どれか好きな色を選びな。」


「私は、皆が選んでくれた色は、好きな色だから、どれかを選ぶって言うのは、難しいです・・・。」


これは、本当である。


ユメは、暗い色が苦手だが、皆が選んだ色は、皆、淡い色で、ユメは嫌いでは無かった。


「困ったわねぇ・・・。」


「仕方ない。一着ずつ、作るしか無いわね。」


「・・・えぇっ!!?」


「はぁっ!?」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


ウィングの言葉に、皆、開いた口が塞がらない。


「うるさいねぇ。どうせ着替え何だし、数着無きゃ困るだろう。一着作るのも二着作るのも変わらないよ。」


「・・・ありがとうございますっ!」


ウィングがそう言うと、ユメだけじゃく、ソニア達の顔にも笑みが零れる。


「そうそう。ユメ、昔、聞いたことだが、東洋人ってのは、『4』ってのは、縁起が悪いって使わないんだろう?」


「は、はいっ!そうです。」


確かに『4』という数字は、嫌いだ。


ウィングの言う通り、縁起が悪いのが大きい。


「どうして、『4』が、ダメなの?」


ヘレーネが尋ねる。


「えっと、東洋では、『4』は『し』とも読むの。『し』は『死』に直結しやすい音だから、演技が悪いんだ。」


「へぇ~。」


「東洋の人って、スゴイね。」


「うん。音だけで、『よくないこと、良いこと』を分けるんだから。」


少々違う解釈をしれたが、概ね合っているので、良しとした。



「ユメ、色を選んでおくれ。お前が選んで、五着になる。」


「ユメお姉ちゃん、選んで。」


「う、うん・・・。」


ヘレーネから色見本を渡され、端から端まで、パソコンのカーソルの様に、ユメの目が動く。


「えっと・・・これかな・・・。」


ユメが指した色を見ると、


「ミルキーホワイトじゃない。これが、良いの?」


「はい。何だか、美味しそうな色なので、目が行って・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


色が美味しそうと言うユメ。


ソニアもメリーもヘレーネも、顔を見合わせる。


「この色なら、私達の選んだ色に合わせられるわ。」


「本当ですか?」


「あぁ、後は任せておきな。」


胸を叩いてウィングは、胸を張って言ったのだった。









こちらは、ウィングの店の横の路地である。


「女子って、何で服とかになると、目の色が変わるんだろうな?」


「さぁ?そういう生き物だって、父ちゃんは言ってたけど・・・。」


カレブとオリヴァーは樽の上で、話をしていた。


「女性、美しいもの、好きだから。」


「っ!?」


「フリューさんつ!」


二人の後ろからお盆を持ったフリューが立っていた。


「お茶、持ってきた。」


「ありがとうっ!」


「フリューさん、ありがとう!」


二人は、カップを受け取った。


「フリューさんは、手伝わないの?」


「あそこ、女性の場。いる場所、ない。」


「だよなぁ・・・。」


「女子だけで、盛り上がってズリィよなぁ。」


「まぁ、こっちはこっちで盛り上がろうぜ。」


「賛成、賛成っ!フリューさんもこっちで遊ぼうっ!」


「・・・いいよ。」


「じゃぁ、オリヴァー、引っかかってるフォッシュ兄ちゃん、迎えに行こうぜ?」


「無理言うなよ。俺達の力じゃ、ウィングさんの針は、抜けねぇって。」


「あぁ、そっか・・・。」


「フリューさんは?抜ける?」


「無理・・・抜く前、手の皮、剥がれる・・・。」


フリューのトーンが、下がるのが分かった。


「・・・止める。」


「うん・・・。」


フリューの様子を見て、二人は救助を断念した。


「じゃぁ、フォッシュ兄ちゃんには、まだ、あのままでいてもうしか無いか。」


「だな。」


「・・・・・・。」


皆、吊るされたフォッシュを哀れに思いつつ、壁の向こうの女子達の賑わいに耳を傾けていることしか出来なかったのだった。




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