グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

3 着替え

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  コツンコツンと靴の音を響かせながら、少女を両腕で抱え、艶やかに輝く大理石の廊下を歩く。
  ここは僕が住んでいる修復工房であり屋敷だ。
  それなりの広さと部屋数がある。
  作業部屋、客間、私室は完全に分断した造りになっていて、屋敷としては繋がっているがそれぞれ厳重な扉で仕切られている。
  地下には修復作業を待っている本を保管している書庫も存在している。
  今はカラスたちが用意してくれた暖炉の炊いてある、客間に向かっているところだ。
  僕の目の前をサファイア、ルビー、エメラルドが先導して案内してくれる。

「もう少し、頑張ってくださいませ
 主様!」

「この子は軽いから、このくらい平気だよ」

  少し歩いたところで焦げ茶色の装飾のこった扉の前に着いた。
 ここが客間だ。

「こちらの部屋をご用意しました」

  そう言うとサファイアは扉を開けるために、人の姿に変化した。
  カラスたちはそれぞれ人の姿を取れる。
 どんな姿であれ、瞳の色は変わらないけれど。
  今ところ給仕姿の幼い少女であることがが多い。
  サファイアに扉を開けてもらう。
  扉を開け終わるとまたカラスの姿に戻った。
  やっぱり本来の姿が落ち着くようだ。
  室内はとでも温かく、暖炉が焚かれていた。
  これなら体も温まるだろう。
  客室のソファーに少女を寝かせた。
  服も髪も雪が溶けたために濡れていた。

「このままじゃ、風邪をひかせてしまうよね。
 着替えさせないと…」

  そっと長い黒髪のひと束を手のひらに滑らせる。
  じっとりと水気のある感覚が手に残った。
  心なしか心臓がドキドキ痛い。
  これは目に毒かな、男だしね。

「サファイア、ルビー、エメラルドこちらへ」

  扉の横で控えていた三つ子のカラスを呼ぶことにした。
  羽音と共に三つの賑やかな声が近づく。

「「「お呼びでしょうか?」」」

  カラスの姿で顔を傾ける。
  こちらをみつめる瞳はどこか楽しそうにしている。
  使い魔とはこちらが動揺したり傷ついたりすると分かるようだから、何かを感じ取ったのかもしれない。

「えっと、僕は男なので服が濡れた彼女を着替えさせることができない。」

「「「そのようですね。先程から困っている様子でしたから」」」

「本の魔法のおかげで悪くなることはないけど、濡れたままは体に良くないからね。
 3人ともよろしく頼むよ。
 彼女が驚くといけないから人の姿で頼むよ」

「「「かしこまりました」」」

  そう返事をすると三つ子のカラスはみるみる人の姿へ変化した。
  いつもの幼い娘の姿になった。
  3人とも漆黒のワンピースに白いエプロンをつけた給仕の姿だ。
  サファイアは黒く長い髪をそのままおろした姿。
  ルビーは長いツインテールで毛先はくるくる巻いてある。
  エメラルドは左右で長いみつあみをしている。

「あとのことはボクたちにおまかせください」

「お召し換えとお客様用の寝室にお連れいたしますわ」

「…エメも看病」

 あとは三子たちにまかせれば大丈夫そうだ。

「よろしく、頼んだよ。
 もう夜も深いから僕は寝るね。
 おやすみ、愛しいカラスたち」

「「「おやすみなさい、主様」」」
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