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2章 リリスと闇の侯爵家
55 いつの間にか
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目を覚ますと日付が変わっていた。
朝の柔らかな陽光が窓から部屋を照らしている。
リリスは直前の記憶を振り返る。
森の中でグレイに連れていかれそうになって、エメラルドが来てくれた所までは覚えているが、その後どうしてしまったのだろう。
記憶がおぼろげで、あまり思い出すことが出来ない。
見知った天井とよく知った毛布の柔らかさで、ここが自分の部屋であると知り、心を落ち着かせてくれた。
カラス達がリリスの部屋まで運んでくれたのだろうか。
あとでお礼を言おうとリリスが思った所で、ベットの上に黒い影が三つあることに気づいた。
それぞれ別々の場所に黒い卵のようにまぁるくなった物から寝息が聞こえてきた。
「鳥の姿で寝るのね…」
このまま動いてしまっては、起こしてしまう。
リリスは起き上がろうと思ったが、悪い気がして動くことができなかった。
ここで寝ているということは、リリスを心配してずっと傍にいてくれたのだと思う。
そう思うと、無理に起こす気が起きなかった。
「ありがとう…」
しばらく優しい重みに耐えることをリリスは決めた。
ほんのりとつたわってくる体温が心地いい。
ぼんやりと天井を見つめ思考にふけることにした。
あの狼の魔族グレイに、私は何をされたのだろう。
森の中で二回目の口付けで抗い難い眠気とだるさに襲われた気がする。
魔力を奪われたというやつなのかなとリリスは思った。
思い起こすように、指先で自分の唇をなぞった。
あぁ、そうだ何度もこの唇を奪われた。
思えば、ここにきた瞬間からあの狼に唇を奪われている。
口付けの味なんて知らなかったはずなのに。
そう思うとなんだか大切な何かを失ってしまったような気がした。
初めての口付けは心に決めた人としたかったなと心がぎゅっと締め付けられる。
そう思った時に何故がメルヒの事が頭に浮んだ。
リリスは顔がほんのり熱を持った。
「…やだ、私ったら」
手を胸の中心にあてて、少し跳ねた心を落ちつかせる。
メルヒはリリスにとって頼りになる大人で恩人だ。
リリスの知らない世界を見せてくれる。
魔術書修復の先生だ。
メルヒが仕事をしている姿はとても印象的で、その指先が本を直している作業は魔法のように見える。
その光景がリリスは好きだった。
だから、これは憧れ。
好きとかそういうのではないと、リリスは心に言い聞かせた。
これが憧れならば、恋ってどんなもののことを言うのかしら。
そう思ったところで、リリスは花嫁の印がある胸の辺りを触る。
恋も知らないのに、花嫁の印を刻まれたその場所。
思考に水をさされた気がした。
こんな浮かれたことよりも、グレイが言っていたことを考えなくてはいけない。
グレイがそばにいる時の痛みは、今はもうなかった。
目が合った瞬間から熱を持った刻印は何事も無かったかのように、今は静かだ。
グレイのそばにいなければ、何も起こらない。
きっとそういう物なのだとリリスは胸をさすった。
早くこの刻印が消えてしまえばいいのに。
あの狼の魔族グレイには、今後も注意しなくてはとリリスは思った。
そうだ、グレイはリリスに重要なことを言っていた。
『たまたま歩いていた街で、黒い髪に赤い瞳を持つ令嬢が誘拐されたと騒ぎになっていた。報奨金までついていたぞ』と。
今まではオプスキュリテ家の者がリリスのを探していることすら、この耳に届くことは無かった。
それが遂に近くまで捜索の手が伸びたということだろうか。
そう考えると不安になった。
街といい森といい、あんまり外に出ない方がいいのかもしれない。
部屋をノックする音が響く。
「カァ…」
「カァ…朝」
「…主様」
音でカラス達の目が覚めた。
のろのろとカラス達が動き出す。
「はいっても、大丈夫?」
「「「どうぞ」」」
カラス達が返事をしてしまった。
どうしよう、寝てた方がいいかしら。
メルヒの顔を見るのが、今は何だか恥ずかしかった。
ドアが静かに開き、そこからメルヒが顔を出した。
朝の柔らかな陽光が窓から部屋を照らしている。
リリスは直前の記憶を振り返る。
森の中でグレイに連れていかれそうになって、エメラルドが来てくれた所までは覚えているが、その後どうしてしまったのだろう。
記憶がおぼろげで、あまり思い出すことが出来ない。
見知った天井とよく知った毛布の柔らかさで、ここが自分の部屋であると知り、心を落ち着かせてくれた。
カラス達がリリスの部屋まで運んでくれたのだろうか。
あとでお礼を言おうとリリスが思った所で、ベットの上に黒い影が三つあることに気づいた。
それぞれ別々の場所に黒い卵のようにまぁるくなった物から寝息が聞こえてきた。
「鳥の姿で寝るのね…」
このまま動いてしまっては、起こしてしまう。
リリスは起き上がろうと思ったが、悪い気がして動くことができなかった。
ここで寝ているということは、リリスを心配してずっと傍にいてくれたのだと思う。
そう思うと、無理に起こす気が起きなかった。
「ありがとう…」
しばらく優しい重みに耐えることをリリスは決めた。
ほんのりとつたわってくる体温が心地いい。
ぼんやりと天井を見つめ思考にふけることにした。
あの狼の魔族グレイに、私は何をされたのだろう。
森の中で二回目の口付けで抗い難い眠気とだるさに襲われた気がする。
魔力を奪われたというやつなのかなとリリスは思った。
思い起こすように、指先で自分の唇をなぞった。
あぁ、そうだ何度もこの唇を奪われた。
思えば、ここにきた瞬間からあの狼に唇を奪われている。
口付けの味なんて知らなかったはずなのに。
そう思うとなんだか大切な何かを失ってしまったような気がした。
初めての口付けは心に決めた人としたかったなと心がぎゅっと締め付けられる。
そう思った時に何故がメルヒの事が頭に浮んだ。
リリスは顔がほんのり熱を持った。
「…やだ、私ったら」
手を胸の中心にあてて、少し跳ねた心を落ちつかせる。
メルヒはリリスにとって頼りになる大人で恩人だ。
リリスの知らない世界を見せてくれる。
魔術書修復の先生だ。
メルヒが仕事をしている姿はとても印象的で、その指先が本を直している作業は魔法のように見える。
その光景がリリスは好きだった。
だから、これは憧れ。
好きとかそういうのではないと、リリスは心に言い聞かせた。
これが憧れならば、恋ってどんなもののことを言うのかしら。
そう思ったところで、リリスは花嫁の印がある胸の辺りを触る。
恋も知らないのに、花嫁の印を刻まれたその場所。
思考に水をさされた気がした。
こんな浮かれたことよりも、グレイが言っていたことを考えなくてはいけない。
グレイがそばにいる時の痛みは、今はもうなかった。
目が合った瞬間から熱を持った刻印は何事も無かったかのように、今は静かだ。
グレイのそばにいなければ、何も起こらない。
きっとそういう物なのだとリリスは胸をさすった。
早くこの刻印が消えてしまえばいいのに。
あの狼の魔族グレイには、今後も注意しなくてはとリリスは思った。
そうだ、グレイはリリスに重要なことを言っていた。
『たまたま歩いていた街で、黒い髪に赤い瞳を持つ令嬢が誘拐されたと騒ぎになっていた。報奨金までついていたぞ』と。
今まではオプスキュリテ家の者がリリスのを探していることすら、この耳に届くことは無かった。
それが遂に近くまで捜索の手が伸びたということだろうか。
そう考えると不安になった。
街といい森といい、あんまり外に出ない方がいいのかもしれない。
部屋をノックする音が響く。
「カァ…」
「カァ…朝」
「…主様」
音でカラス達の目が覚めた。
のろのろとカラス達が動き出す。
「はいっても、大丈夫?」
「「「どうぞ」」」
カラス達が返事をしてしまった。
どうしよう、寝てた方がいいかしら。
メルヒの顔を見るのが、今は何だか恥ずかしかった。
ドアが静かに開き、そこからメルヒが顔を出した。
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