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2章 リリスと闇の侯爵家
75 はじめての製本制作その五
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「できました!」
全ての作業を終えて、ついにリリスが作った本が完成した。
臙脂色の洋製本だ。
表紙には黄金色の型押しが輝いている。
薔薇の模様が蔦のように這わせて縁が彩られていた。
リリスは素敵にできたと、にんまり微笑みを浮かべる。
そっとページをめくり、パラパラと中身の確認をした。
何も書かれていない白いページが幾重にも続いていく。
白いページもきれいだと思った。
これからここに魔術式を書き込んでいくので、この本は魔術書グリモワールになる。
自分で苦労して作ったものなので、この本にはより愛着が沸いていた。
「本のできはどうですか?」
リリスはメルヒにも完成した本を見てもらおうと本を渡した。
きれいな本の形になったと思うけど…。
メルヒに見てもらうのだと思うと緊張してしまう。
心配な気持ちでメルヒのことを見つめた。
メルヒはリリスから受け取った本を確認していく。
本の開き具合に綴じの部分を白い指が撫でる。
パタリと本を閉じると満足そうに柔らかな微笑みがリリスに向けられた。
眼鏡越しに見える紫色の瞳が細められる。
「ちゃんと本になったねぇ。
よく出来ているよ」
リリスの頭にメルヒの手が降りてきて、優しく撫でられた。
くすぐったい気持ちになる。
「あ、ありがとうございます…」
「はじめて作った本だけど、本当によく出来てると思うよ。
僕のお弟子さんは器用だねぇ」
その言葉にリリスの顔がほころんで花が咲いた笑顔になる。
弟子と呼ばれたのが嬉しい。
なかなか弟子と言われなかったので、どうなんだうとかと不安に思っていたが、ちゃんと弟子と呼んでくれた。
弟子としてもっといろいろ出来るようにならなくちゃと嬉しくなった。
「リリス…。
本は完成したけど、まだ終わりじゃないよ。
次は魔術式をこのインクで書き込もう」
メルヒがインク棚の中からインク壺を取り出して机に置いた。
耳に木とガラスがカランと軽くぶつかる音が残る。
「これ魔術式インクですね…」
よく使う黒色の魔術式インクが置かれている。
インク壺の横には筆も一緒に用意されていた。
「狼避けのための魔術式をすでに用意してあるから、前やったみたいに魔法式を白紙のページに写してねぇ」
そう言いながら、メルヒが紙束を机の上に広げていく。
紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。
紙を一枚手に取って眺めてみる。
魔術式と詠唱、効果が図鑑のように分かりやすくまとめられていた。
「ずいぶん、いろいろ持ってきましたね…」
全ての書くのかと思うと集中力と腕がもつか心配になる。
「今、必要なものはこっちに分けておくよ。
あとは使いたい術式を自分で選んでねぇ」
どうやら全部書くことにはならなかったみたいだ。
好きなように選んでいいようでリリスは安心した。
「獣が嫌がる音がする術式に、助けを呼ぶための術式、攻撃防御の術式だよ。
これを、いれて模写してねぇ。
ひと通り必要そうな術式は持ってきたから選んで、一ページにひとつずつ模写してねぇ
詠唱も魔術式の近くにメモしておくといいよ。
おぼえられないだろうしねぇ。
この本紙に使った紙は特殊な紙だから術式同士が混じり合うことも無いから安心して書くといいよ」
「普通の紙にたくさん書いたらどうなってしまうのですか?」
「何が起こるか分からない。
それが一番目恐ろしいことだよ」
「…爆発するかもしれないし、変なことになったら恐ろしいですもんね」
インク時と一緒で混ざると危ないようだった。
メルヒの説明を受けてリリスはページごとに魔術式を模写していった。
ゆっくり丁寧に本に写していく。
最後の一枚を書き終えると魔術書の完成だ。
これで、リリスの作った本は魔術書になった。
「書き終わりました!
これで、この本は魔術書ですね」
「うん、できたみたいだねえ。
さて、リリスの魔術書が完成したわけだけど…。
使ってみないと本当に作れたか分からないよねぇ?
実際に魔術を使ってみよう。
助けを求める術式をためしに使ってみるといいよ」
「…魔術を使えるのでしょうか」
リリスは自信なく本を抱きしめる。
魔法も魔術も使えるかよく分からない。
日常的に使う魔術道具は使っていたけれど、詠唱の必要がない手をかざしてつけたり消したりする単純なものだった。
「魔術書は誰でも魔法が使えるように人工的に作られたものだ。
いわば魔術道具と一緒だよ。
この国の人間は日常的に魔術を使ってる。
火を起こすのも明かりを灯すのもねぇ。
魔法が使える者も使えない者も、等しく全ての者が平等に魔法を使う。
そう王が願って望んで創った国、それがこの魔法王国ルーナの特徴だよ。
だから、リリスも魔術書は容易に使うことができるよ。
何も心配する必要はない」
リリスの視線に合わせるように、メルヒは屈んで教えてくれる。
「普通に使えるものなんですね…」
「安心して使ってみるといいよ。
これは実験なのだから、リリスが作った魔術書が動くか動かないかのねぇ」
「…はい」
リリスは本の表紙を開いた。
そっとメルヒがリリスから距離をとる。
指先でページをめくり、メルヒに言われた助けを求める術式のページを開く。
詠唱もこのページに載っている。
あとはこの詠唱を口にするだけ。
すーっと息を吸い込んで詩を奏でる。
「我、助けを求める者
汝、道を切り開く者
本から生まれし幻影よ
知らせとなって力となれ」
詠唱を奏でると本が赤く光り輝き、薔薇の花びらが濁流のように溢れ出した。
「きゃ!」
リリスは驚いて小さく悲鳴をあげる。
意思を持った生き物のように動く薔薇の花びらはメルヒの頭上へ留まり、輝いたと思うと形を変えた。
一輪の薔薇となってふわふわと浮遊して、メルヒの手元に収まった。
「リリスらしい魔術だねぇ。
やはり魔術は特徴を現すのかな…。
それとも道具と材料のせい?
何にせよ、この薔薇の花が降ってきたら危険と判断してリリスのもとへ、すぐに駆けつけよう…」
メルヒがリリスの生みだした薔薇の花に顔近づけている。
「…あっ」
なんだか恥ずかしい気持ちになった。
顔が熱を持ちはじめる。
「薔薇の甘い匂いがするねぇ。
リリスの匂いに似ている。
リリスが近くにいるみたいだ」
そんなこと言われるとますます恥ずかしくなってきてしまう。
リリスは見ていられなくて視線を本に戻した。
全ての作業を終えて、ついにリリスが作った本が完成した。
臙脂色の洋製本だ。
表紙には黄金色の型押しが輝いている。
薔薇の模様が蔦のように這わせて縁が彩られていた。
リリスは素敵にできたと、にんまり微笑みを浮かべる。
そっとページをめくり、パラパラと中身の確認をした。
何も書かれていない白いページが幾重にも続いていく。
白いページもきれいだと思った。
これからここに魔術式を書き込んでいくので、この本は魔術書グリモワールになる。
自分で苦労して作ったものなので、この本にはより愛着が沸いていた。
「本のできはどうですか?」
リリスはメルヒにも完成した本を見てもらおうと本を渡した。
きれいな本の形になったと思うけど…。
メルヒに見てもらうのだと思うと緊張してしまう。
心配な気持ちでメルヒのことを見つめた。
メルヒはリリスから受け取った本を確認していく。
本の開き具合に綴じの部分を白い指が撫でる。
パタリと本を閉じると満足そうに柔らかな微笑みがリリスに向けられた。
眼鏡越しに見える紫色の瞳が細められる。
「ちゃんと本になったねぇ。
よく出来ているよ」
リリスの頭にメルヒの手が降りてきて、優しく撫でられた。
くすぐったい気持ちになる。
「あ、ありがとうございます…」
「はじめて作った本だけど、本当によく出来てると思うよ。
僕のお弟子さんは器用だねぇ」
その言葉にリリスの顔がほころんで花が咲いた笑顔になる。
弟子と呼ばれたのが嬉しい。
なかなか弟子と言われなかったので、どうなんだうとかと不安に思っていたが、ちゃんと弟子と呼んでくれた。
弟子としてもっといろいろ出来るようにならなくちゃと嬉しくなった。
「リリス…。
本は完成したけど、まだ終わりじゃないよ。
次は魔術式をこのインクで書き込もう」
メルヒがインク棚の中からインク壺を取り出して机に置いた。
耳に木とガラスがカランと軽くぶつかる音が残る。
「これ魔術式インクですね…」
よく使う黒色の魔術式インクが置かれている。
インク壺の横には筆も一緒に用意されていた。
「狼避けのための魔術式をすでに用意してあるから、前やったみたいに魔法式を白紙のページに写してねぇ」
そう言いながら、メルヒが紙束を机の上に広げていく。
紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。
紙を一枚手に取って眺めてみる。
魔術式と詠唱、効果が図鑑のように分かりやすくまとめられていた。
「ずいぶん、いろいろ持ってきましたね…」
全ての書くのかと思うと集中力と腕がもつか心配になる。
「今、必要なものはこっちに分けておくよ。
あとは使いたい術式を自分で選んでねぇ」
どうやら全部書くことにはならなかったみたいだ。
好きなように選んでいいようでリリスは安心した。
「獣が嫌がる音がする術式に、助けを呼ぶための術式、攻撃防御の術式だよ。
これを、いれて模写してねぇ。
ひと通り必要そうな術式は持ってきたから選んで、一ページにひとつずつ模写してねぇ
詠唱も魔術式の近くにメモしておくといいよ。
おぼえられないだろうしねぇ。
この本紙に使った紙は特殊な紙だから術式同士が混じり合うことも無いから安心して書くといいよ」
「普通の紙にたくさん書いたらどうなってしまうのですか?」
「何が起こるか分からない。
それが一番目恐ろしいことだよ」
「…爆発するかもしれないし、変なことになったら恐ろしいですもんね」
インク時と一緒で混ざると危ないようだった。
メルヒの説明を受けてリリスはページごとに魔術式を模写していった。
ゆっくり丁寧に本に写していく。
最後の一枚を書き終えると魔術書の完成だ。
これで、リリスの作った本は魔術書になった。
「書き終わりました!
これで、この本は魔術書ですね」
「うん、できたみたいだねえ。
さて、リリスの魔術書が完成したわけだけど…。
使ってみないと本当に作れたか分からないよねぇ?
実際に魔術を使ってみよう。
助けを求める術式をためしに使ってみるといいよ」
「…魔術を使えるのでしょうか」
リリスは自信なく本を抱きしめる。
魔法も魔術も使えるかよく分からない。
日常的に使う魔術道具は使っていたけれど、詠唱の必要がない手をかざしてつけたり消したりする単純なものだった。
「魔術書は誰でも魔法が使えるように人工的に作られたものだ。
いわば魔術道具と一緒だよ。
この国の人間は日常的に魔術を使ってる。
火を起こすのも明かりを灯すのもねぇ。
魔法が使える者も使えない者も、等しく全ての者が平等に魔法を使う。
そう王が願って望んで創った国、それがこの魔法王国ルーナの特徴だよ。
だから、リリスも魔術書は容易に使うことができるよ。
何も心配する必要はない」
リリスの視線に合わせるように、メルヒは屈んで教えてくれる。
「普通に使えるものなんですね…」
「安心して使ってみるといいよ。
これは実験なのだから、リリスが作った魔術書が動くか動かないかのねぇ」
「…はい」
リリスは本の表紙を開いた。
そっとメルヒがリリスから距離をとる。
指先でページをめくり、メルヒに言われた助けを求める術式のページを開く。
詠唱もこのページに載っている。
あとはこの詠唱を口にするだけ。
すーっと息を吸い込んで詩を奏でる。
「我、助けを求める者
汝、道を切り開く者
本から生まれし幻影よ
知らせとなって力となれ」
詠唱を奏でると本が赤く光り輝き、薔薇の花びらが濁流のように溢れ出した。
「きゃ!」
リリスは驚いて小さく悲鳴をあげる。
意思を持った生き物のように動く薔薇の花びらはメルヒの頭上へ留まり、輝いたと思うと形を変えた。
一輪の薔薇となってふわふわと浮遊して、メルヒの手元に収まった。
「リリスらしい魔術だねぇ。
やはり魔術は特徴を現すのかな…。
それとも道具と材料のせい?
何にせよ、この薔薇の花が降ってきたら危険と判断してリリスのもとへ、すぐに駆けつけよう…」
メルヒがリリスの生みだした薔薇の花に顔近づけている。
「…あっ」
なんだか恥ずかしい気持ちになった。
顔が熱を持ちはじめる。
「薔薇の甘い匂いがするねぇ。
リリスの匂いに似ている。
リリスが近くにいるみたいだ」
そんなこと言われるとますます恥ずかしくなってきてしまう。
リリスは見ていられなくて視線を本に戻した。
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