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004◇異世界の麦畑(4)
しおりを挟む「でね、話は戻るけど――その『光る女の人』が、手に持った大鎌で、ムギを薙ぎ払い始めたの」
いきなり凄い方向転換だ。
「き、急に話戻すなよ」
「そして、ザッザッザッ……っていうムギを鎌で刈る音が、わたしたちの方に近づいてきて……」
「怖っ」
ホラーやん。
「ぐわっと大きな赤い口を開けて『見たなぁああああ』」
「きゃ――――っ!!」
「……とは言われなかったんだけど」
「おどかすな――っ!」
「あは……あははは……は」
笑ってるんじゃない。
小刻みに震えて、恐怖に怯えてる。
何か、強烈なことを思い出してるんだろうな。
抱きしめてやりたいけど……まだ起き上がれない。
「……ジンくん、生きててよかった」
言って、俺の上に倒れこんでくる。
「怖いんだったら、無理に話さなくてもいいんだぞ」
背中に手を回して、抱きしめる。
「で……ジンくん真っ二つにされたの……頭から」
ミーヨが、気丈に話を続ける。
「縦に?」
脳天唐竹割りってこと?
てっきり、胴体ヨコに斬られたと思ってたのに、想定外だ。
「ううん、ジンくんが寝てるとこを横薙ぎにされたから……うぉえっ」
――言ったら、「魚の二枚おろし」みたいに真っ二つ……か?
そら、エズくわな。予想の斜め上すぎるわ。
俺、そんな死に方したのか?
「暗かった、から、はっきりは……見えなかっ、たんだけど……うぐっ」
言葉が、切れ切れになる。辛そうだ。
「うん、もう……いいから」
「でね、その『光る女の人』が、『なぜ、こんなところに人間が寝てる?』って……凄い怖い声だった」
ミーヨの事を人間と呼んでる時点で、ソイツが普通の人間じゃないの確定だな。
「ごめんね、ジンくん。わた、わたし怖くて……ただ見てるだけだった」
「気にすんな」
背中をさすってやる。
ミーヨの息に、酸っぱい匂いが混じってる。
無理はさせたくない。
「その人も、自分がやっちゃいけないことやったって分かったらしくて。『悪い悪い。あたしじゃ何も出来ないから、じじい呼ぶから待ってな』って言って、空を指さすみたいに手を上げたら、光の線みたいなの出て……そしたら、すぐに空から光の柱が降りてきて、今度は光るお爺ちゃんが現れたの」
ああ、さっき言ってた「お爺ちゃん」って、ここで出てくるわけか。
「そして、なんか二人で話してたんだけど、『こうなっては、蘇生はムリじゃ』ってお爺ちゃんが言ったから。そこでハッとなって『ジンくんを返して!』って、やっと声が出て……」
ミーヨは辛そうだ。
「無理しなくていいぞ」
「そしたら『時□は戻せんが、時◇は超えられるによって、3△ンほど戻って、この子を■ピ■してくる』って言って、パッ、と消えたの」
「え? なんだって?」
意味不明な部分があったぞ。
「そしてね。すぐにまた現れて、『コ■■出来た。今から■ース■する』って、そしたら大きな、白い光の繭みたいなものが現れて……しばらくして、それがおさまったあとに、ジンくんが元通りになって、そこにいたの」
やっぱり、言葉の一部が理解出来ない。なんだろう?
「でね、『肉体は転写したが、魂の転写はどうじゃろう。魂のつながりが不完全になるかもしれん。記憶が混乱するかもしれんのう』ってお爺ちゃんが」
――実際、その通りになってますけど?
俺が『前世の記憶』蘇ってたのって、修復ミスなの?
「それで、ジンくんが生き返って、息してるの確認して。わたし、お爺ちゃんに『全能神様、ありがとうございます』って言ったら、お爺ちゃんは『わしゃ……全能神じゃあないわい』って言ったあとで……」
ミーヨは、熱に浮かされたように、しゃべり続ける。
ところで……全能神?
ミーヨは、その爺さんのことを、『神様』だと思ったわけか?
死んだ人間を「生き返らせる」んだから、神様レベルの「何者か」なんだろうけれども……。
「なんかニヨニヨ笑いながら『それにしても眼福。眼福』って。なんだろう? って思ったらわたし裸んぼのまんまで――ジンくん、ごめんね。そのお爺ちゃんにおっぱい見られちゃった」
なんだと、エロじじいめ!
例え、神様だろうと許せん!
「そしたら『光る女の人』が『心配すんな、そいつ不能だから、襲ったりしないよ』って」
「不能?」
全能神なのに? 性的にですか? ずいぶん露骨な。
「お爺ちゃんも『そうじゃ、わしは賢者じゃから、おなごを襲ったりはせん。ともかく、わしの連れ合いがすまなんだ』って」
――神様じゃなくて、賢者……夫妻なのか?
なんか、いまいち、しっくりこないけど……本当なの?
「……」
急に、ミーヨがかくんと項垂れて、黙り込んだ。
力が抜けて、全身の重みが、俺に圧し掛かってきた。
「ん? ミーヨ?」
☆☆
『――眠ってもらった』
それは「声」じゃなかった。
なにか高い圧力で、脳に直接「思念」を送り付けられている感じ。
振り向くと、キツい目をした美形の女性が、空中に浮かんでいた。
半透明で、何かキラキラした星を身にまとってるようにも見える。
魂とか幽体を、「星 体」って言うけれども……ダジャレ?
『あたしが先刻この娘が話していた『死神』さ。君のとってのな』
これが、ミーヨの言っていた『光る女の人』だろう。
ただし、今は、じんわりとしか光ってない。暗いところだと、眩しいくらいに光って見えるのかもしれないけれども。
「…………」
言いたいこと、聞きたいことはあるのに……声が出せない。
なんとなく、「存在」としての「格の違い」を感じてしまっていた。
『去り際にな。この娘が、あたしに頼んだんだ。もうジンくんが傷ついたり、痛みを感じたりしないようにして――ってな』
ミーヨが?
と思ったら、ミーヨが謎の力でふわりと浮いて、俺の隣りに大事そうに座らされた。
体育座りだったので、パンツが――それはいいか。
そして、『光る女の人』が、地面に横になったままの俺の真上に、す――っとやって来た。
『……』
じろり、と見られる。
『この娘の望み。叶えてやろうと思う。服を脱げ』
……ハア?
『というか、あたしが脱がす!』
「ひゃううっ!」
見えない何かに、一瞬で服を脱がされて、股間をガン見される。
なんなん、その謎パワー? 魔法か?
『ふむ……ふむふむ。ほぉおおお?』
いやぁ、そんなにじっくり見ないで!
――とか、ふざけてる場合じゃなかった。
ソイツは、ろくでもない事を言い出した。
『これから、君の睾丸をひとつ摘出し、替わりにコレを体内に埋め込む』
そう言って、『光る女の人』が「金色の玉」を、俺に見せた。
えー、○玉抜いて、金○入れるの?
てか、犬や猫にICタグ入れるんじゃあるまいし、体内埋込とか、やめて。
『では、いくぞ!』
「ぐっ……はぁぁぁああ……あ?」
痛く――はなかった。
しかし、股間にすんごい違和感が。
『ふむ、よし。それが入っていれば、この娘の願いは叶う。では、加護を与える』
光が、俺を覆っていく。
『★不可侵の被膜ッ☆』
ソイツが言うと、七色のキラキラした星が、いっぱい舞い飛んだ。
これが『魔法』か?
すんごい綺麗な発動エフェクトだ。ゲームみたい。
「…………」
なにか、ぬるりとした、名状しがたい油のようなもの(笑)に、全身を包まれた感覚があった。
ナニコレ?
俺の困惑をよそに、
『ふふふふ。……それと、君にはちょっと『実験』に付き合って貰うぞ』
そいつは言って、満足気にニヤリと笑った。
『実験』? なんの実験体にされたの?
『いわゆる『ぎぶそんのぎたー』というやつだ』
チュー○デイか! 相棒はキャ○ルか! お兄さんはいい人か!
「……それなら、ギブ・アンド・テイク、でしょう?」
『そうともいう』
なんなんだかなー。
なんで、そんな事知ってんだろ?
『君はいずれ、もう一人の自分と出会うであろう。キリよく100話くらいに』
なんの予言? なんの話?
「あのー、女神様?」
『あ、あたしは女神なんかじゃないんだからネ!』
申し訳ないけど、そこでツンデレみたいなこと言われてもな。
「じゃあ、あなた何者なんですか? ミーヨの話だと『賢者』の奥さんとか言ってたらしいけど、さっきの金色の玉はなんなんスか? 『賢者の石』とかなんスか?」
何故かは判らないけれど、もう、怖くはなかった。
威圧されてるような感じも、もう無い。
この際だから、色々と聞き出そう。
あと、先刻受けたセク○ラの仕返しに胸元をガン見してやる。
ミーヨのおっばいのカタキだ――違うか。
でも、さすがに女神様。
全体に均整がとれすぎてて、まるでエロスがない。逆な意味で残念だ。
『……賢者? うん、そうしよう。アレは『賢者の玉』だ』
今ここで、かるいノリで名前を付けたっぽいぞ。
『君は錬金術ってヤツが使えるようになってるはずだ』
「イヤ、絶対ウソでしょう?」
誰が信じるか、そんなん。
『試してみればよい。口に出さずとも、頭の中だけでよい――唱えよ。『錬成』と』
「いや、やめときます。疲れてるし――というか、俺を殺したっていうのはアナタですよね? 今回の件に関して責任ある説明と誠意ある謝罪を……」
てか、どうせならカッコいい『魔眼』が欲しいよ。
『魔眼? じゃあ――コレもやろう』
いま、俺の頭の中を読んだのか?
――って、俺の目の中に、指を突っ込みやがった!
「……ううっ」
右目を、ぐりぐりとかき回されてる。
痛みがまったくないかわりに、ものすごく気持ち悪い。
『魔眼『光眼』を授けよう。暗いとこで光って便利だぞ。君が失った睾丸のかわりだ』
しょーもないダジャレをぶちこんでくるな!
『あと、この大鎌もくれてやろう』
どっかから黒い大鎌出しやがった。
「俺を殺した凶器だろ、それ?」
思わず突っ込んだ。
『バカな事を。君はいま現在、死んではいないだろう?』
突っ込み返された。
確かに生きてはいるけれども――そんな言い方ってないんじゃない?
『……あとは何が欲しい? 金か? ほら』
やたらと重たい、小さな「革袋」を押し付けられた。
「この責任を……」
『いや、謝罪と賠償は行ったろう。君も男なら、もう言うな。まー、とにかく、スマンッ! あと、なんかあったら『伝説のデカい樹』を目指すがいい! 大概の願いは叶うだろう。じゃ、バイバイキ―――ン! ★飛行ッ☆』
キラキラした星を纏った光の玉が、どびゅ――ん、と飛び去っていった。
上へ、蒼穹目指して。
ミーヨが言ってた『みなみのわっか』の方に消えた。
「…………逃げられた」
にしても、「バイバイキーン」て。
何故ゆえに「それ」を知ってる?
そして、『伝説のデカい樹』ってなんだ? 軌道エレベータかなんかか?
◆
名が体を表すとは限らないけれど、体で名を獲ることはある。
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