たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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022◇冶金の丘(5)

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 俺が事情を説明すると、別なひょろりとした男性が出て来て、対応してくれる事になった。

 爺さんと猫耳ちゃんは、一緒に遊んでる。
 どうでもいいけど、この本部。人が少ない。

 この二人(猫耳ちゃんは除外)しか居ないのか?

「さっそく拝見します。金の地金じがねというのは?」

 男性に促されて、俺は『旅人のマントル』のフードから黄金ウ○コを取り出した。

「これは……」

 カタチがカタチだけに、男性は絶句してしまった。

「お、なんでえ、まるでク○だな!」
 爺さんがそう言うと、お孫さんも続いて、
「あーっ、ウ○コ! ウ○コ! ウ○コ!」

 猫耳ちゃん、美人な子供なのに……。

 でも「ク○」は下品だから「ウ○コ」って言えって、某名作スポーツ・アニメの主人公・日○君もセカンドシーズンで相棒のチームメイトに言ってたぞ。あとその先輩の○川君も「ク○野郎」と「う○こ野郎」の二択で後者を選択してたし。

 だとすると、やはり猫耳ちゃんの方が上品……か?

「お静かに。ご隠居も姫も言葉遣いが酷過ぎます」
 男性が爺さんと孫娘をたしなめた。

 やっぱり両方NGかー……って、姫? 猫耳ちゃんが?

「まず、お訊ねしますが――なぜそんな形に?」

 男性が言うと、おじいさんとそのお孫さんに割り込まれた。

「決まってら、ク○だからよ!」
「ウ○コ! ウ○コ! ウ○コ!」

 修正出来てない。

 真実から遠からず……というか、そのまま真実なんだけどさ。
 俺様の『黄金ウ○コ』なんだけど……。

「実は火事で金貨が溶けて地中に染み込んでしまい、掘り出したらこのようなカタチだったんです」

 俺は、この時のために用意しておいた作り話をする。

「はあ、なるほど。たまにそのような話を聞くことがあります」
 男性の疑念は、払拭されたようだ。

 大坂夏の陣で城が燃え落ちた後で、焼け跡から溶けた金銀を掘り出した――という話を思い出して、こんな話にしたのだ。

 あれ?

「…………」

 ミーヨの様子がちょっとおかしい。どうしたんだろう?

 なにか青ざめて、黙り込んでる。

「では、失礼して」

 男性は黄金ウ○コを持ち上げて、傍にあった秤に乗せた。
 机の上には、秤の他に、沈めて体積を調べる水槽や、黒い『試金石』があった。
 男性が計った重さを、手元の小さな黒板みたいなものにチョークで走り書きしている。

 突然、横から爺さんががしっとソレを掴むと、
「ばーろー、しちめんどくさいことやってねーで、金なんざ噛めば分かるんだよ! ……(がぶっ)」
 噛みついた。

「「あっ!」」

 出所を知ってる俺とミーヨは、思わず小さく叫んでしまった。

 そして、いたたまれなくなって目を逸らす。
 ホントに噛みつきやがったよ、この爺い。俺様の黄金ウ○コに……。

「うん、間違いねー、ホンモノの金だ。かなりの純度だな。9がいくつ並ぶことやら、すげーな、このク○!」
「……ご隠居。お戯れが過ぎます」
 男性がひきつった顔で注意する。

「ご隠居って? 組合の長じゃないの? つまり部外者ってこと?」
「ああ、私が組合長だ」

「あの二人は?」
「――ご指摘の通り、部外者だ」

 ちょっと頭痛を堪えるような仕草で男性が言った。

 追い出せよ。

      ◇

 追い出してもらった。
 静かだ。

「元々は『太陽金貨ソル』14枚分だと言ったね?」
「そうです」

「残念ながら、元の値と同じとはいかない。金貨と金とは別のものだからね」
「……ええ」
 しょうがなく頷く。

 まあ、そうなるだろうなぁ、俺が知らずに『錬成』したんだから自業自得だけど……。

 でもたしか……日本で「貨幣」を鋳つぶしたりすると、なんかの罪になるはずだ。でも、目の前の人からは何も言われない。まあ、先刻さっきの作り話を信じて、故意じゃなくて過失と思ってくれてるのかもしれないけど。

「では、およそ六割分といっところで――『太陽金貨ソル』8枚にあたる『明星金貨フォスファ』32枚でどうだろう?」
 組合長は、さらっと告げた。

「……減るなぁ」

 口に出しちまったよ。

「こんなものさ」

 なんの慰めもなかった。

      ◇

 話のついでに、気になっていたことも訊いてみた。

「『鉱物』?」

 組合長が、聞きなれない言葉を聞いたというような顔で考え込んだ。

 この『丘』は巨大な金属精錬施設のはずなのに、鉱石の類がいっさい運びこまれてないので、気になっていたのだ。

「中に金属とかが入ってる石とか岩なんですけど……それが一杯あるのが『鉱山』って事になるんですが……ご存知じゃないっスか?」

 いろいろめんどくさい定義があった気がするけど……覚えてない。
 まあ、ざっくりした感じでいいよね。

「君が言うのは『枯木こぼく』の事かな? ……それとも『月の欠片』のことかな? 大陸の北にある?」

 なんか、えらい名前が出てきた。

 『月の欠片』ってたぶん、ガチな意味での、かつてこの惑星ほしにあった衛星つきの断片とか破片の事だよな。空に見えてる『みなみのわっか』の一部か? そんで『枯木』って樹木の化石かなんか?

「自然の山の中にはないんスか? 火山の近くとかに」

 ただし、『ケモノ』とか『空からの恐怖』とかが出るとこには、行きたくないな。

「『火山』? 聞かんなぁ――ああ、しかし昔はあったかもしれんな」

 ミーヨも知らなかったんだよな、「火山」。無いのかな?

「昔はあった、と言うと?」
「むかーし、昔……さ。お伽噺みたいなものだ。大昔にあったという超古代文明のことは聞いたことがあるかな?」

 ああ、知らないことばっかりだ。

「この『冶金の丘』がそうだとか」

 あと『永遠の道』もそうらしいけど。

「もう、いつの時代から『丘』があるのか、我々は知らない。しかし、遺されたあまりにも高度な遺物を見るに、ひょっとしたら、その文明は何千年あるいは何万年も続いていたのかもしれない。そして、その長い時間の中で、金属の元になるような石や岩は採り尽くされて、無くなってしまっているのではないだろうか――推論だがね」

 鉱物は掘りつくされて、もう存在しない?

 どこかの鉱山でなら、『体内錬成』で取り込まれる金属元素も、罪悪感なしで手に入れられると思ってたのに――

 『錬金術』を封じられたら、俺はどうやってお金を稼げばいいの?

 …………はーあ。

      ◇

 結局、提示された金額で売り渡すことになり、買い取りの証明書を作る段になって、ミーヨの意外な正体が判明した。

 署名を求められて、ミーヨがサインしたのだけれども――

   ミーヨ・デ・オ・デコ

 そこには、この世界の文字でそう署名されていた。

「デ? ……ぼそぼそ(ご隠居よりも上位か?)」

 記された名前を見て、組合長が驚いていた。

(で? って何?)

 俺はミーヨに訊いた。

(貴族号だよ。下からダ・ヂ・ヅ・デ・ド)

 ミーヨが俺の耳元で囁く。
 いい声だ……じゃなくて「貴族号」だとう?

 しかも、母音の並びがまるっきり日本語の「あいうえお」だ。

 そんで、下から?
 とすると、順序は逆で「デ」って、上から2番目になるんじゃね?

 でもって「ご隠居よりも上位か?」とか言ってるし、あの爺さんも貴族だったのか――ということは猫耳ちゃんもホントに貴族のお姫様か。あれで?

 二人して、ク○だの、ウ○コだの連呼してたよ?

 ま、そっちは置いとくとして、

「そして……オ・デコ家のご令嬢……? そんな、まさか」

 なんかめっちゃ驚かれてるよ。

 オ・デコ家?
 だから、ミーヨの髪型が「おでこ全開三つ編み」だったのか……? 違うだろうけど。

 単なる「幼馴染の村娘」だと思っていたミーヨは……実は高位の「貴族令嬢」だったのか?

 うそん。

      ◆

 月に表と裏があるように、人にもそれがあるしい。
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