私のDear Lover~ずっと会いたかった光~

空海エアン

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第4話(2) 『デートのお誘い』~誤魔化せない想い~

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 周りからの楽しげな視線に耐えつつ、頷いて立ち上がる。
 2人でエントランスを抜ける様子も見慣れて来たのか、わざわざガン見する職員もいなくなってきた。

「いつも騒がしくさせてるみたいでごめん」
「いえ!全然大丈夫です」

 ライラは出動状況により時間が押すことも多く、センリが来る以前からいつも別で走ってくるためカフェまでは1人で向かうことも多かった。なので、今は必然的にセンリと2人きりで向かうことが多い。
 道行く人々には未だに見られるしこれからもそうなのだろうと諦めている。

「メイルは今日は来れそう?」
「はい、少し遅れるけど行けそうって連絡が来てました」

 メイルとはライラのファミリーネームである。
 てっきり他の人も名前で呼ぶものと思っていたら、名前で呼ばれるのはルナのみとなっていることに最近気付いた。
 深く考えると沼にハマりそうなので気付かないフリをしている。

「ブロッカーは現場に拘束されがちだから大変だな」
「本当に。でもライラは市民の安全を見届けてから帰りたいっていつも言ってるので天職なんです」
「へえ、良い心掛け」

 2級までのブロッカーとセンスは汚染生物を討伐後も、現場の処理が終わるまで周囲の安全のために残されることが多い。
 防御に長けたブロッカーがいれば、万が一汚染区域から汚染生物が飛び出すことがあっても時間を稼ぎやすいのだ。

「アタッカーも次から次に現場が変わって大変ですよね?」
「慣れるとそうでもないよ。内容的に性に合ってそうな奴がほとんどだし」

 センリが冗談めかして言うので笑ってしまう。血の気が多いのはアタッカーだと言われるだけあって、確かにアレクシオのアタッカーにも血気盛んな者が多い。
 その点で言えばセンリは戦闘時も冷静なイメージだが、フィジカルが他とは桁違いなのでやはり苦ではなさそうだ。

「センリさんからそう言われると不思議な感じです。いつも冷静そうだし」
「そう?天性のアタッカーって言われてるけどな」

 和やかな気持ちで笑っていると、そんなルナを眺めていたセンリがどこか意地悪そうに笑うのが見えた。

「ところで、またさんが付いてたけど」
「…っ」

 不意打ちで言われ、思わず頬に熱が集中する。
 これまで何度か呼び捨てで呼んでみたが、恥ずかしいのと恐れ多いので未だにさん付けで呼ぶことが多い。
 センリはそれが面白くないらしく、2人になると毎回そう指摘されていた。

「はい、がんばれ」
「う…」

 楽しそうなセンリに、ルナは毎回翻弄されている。
 
「…センリ」
「疑問系じゃなくなったのは進歩だな」
「もう、からかわないでください」
「敬語もなしで」

 容赦のない追い討ちで、ルナは更に赤くなり、心臓はうるさい。
 こんな風に構われていたら、期待してしまうのも仕方がないことだと思う。

「がんばる、から、あんまり見ないでくださ…」
「ん?」

 本当にずるい。なんでそんな風に甘い顔で見つめてくるのか。

「見ないで」
「わかった、ごめん」

 どう考えてもただの部下への接し方ではない。
 果たしてこれに慣れる日が来るのだろうか。

「いらっしゃいませー」

 カランという音と共に扉を開けると、もう慣れたようなカフェの店員に出迎えられる。
 お決まりの奥のテーブル席は確保してくれているようで、毎回落ち着いてランチをすることができていた。

「あ、ライラも今から向かう…って」

 らしいです、と言いかけて頑張って区切った。
 センリは微笑ましそうに笑い「そっか」とメニューを開いた。
 ライラ要望のパスタも含めて注文を済ませる。

「毎回慣れては敬語に戻っての繰り返しでおもしろいな」
「だって…」

 センリは自分がどれほど大物なのかわかってないのだろうか。メディアにまで多く顔を出しておいてそれはないと思うが。

「その、センリって…皆にこうなの?」

 渾身のコミュ力を振り絞って問いかけると、センリは首を傾げて見返してきた。その仕草も様になっていて、ルナはなんとなく苦しくなる。

「皆にこうやって親しくしてるかって?」
「っ」

 てっきり誤魔化されるかと思っていたら、的確な返答をされ息が詰まる。いままで聞きたくても聞けなかったそこに踏み込んでしまった。

「ルナはこうされるの、困る?」

 きゅっと胸が鳴るのを感じた。精一杯横に首を振ると、ふわりと優しげな笑みが返される。

「ならランチ以外も誘って良い?」
「え?」

 心臓が早くて仕方がないが、ルナは一拍遅れて理解した直後に縦に首を振った。

「もちろん…」
「じゃあ今週末の夜、二十時に指定してくれたところに迎えに行く」

 ぱっと言われて更に理解が遅れたが、デートに誘われていることに気付いてまた真っ赤になったであろうほど顔が熱くなった。

「予定はどう?」
「あ、えっと」

 急いで携帯でスケジュールを確認したが、予定がない日の方が多いので問題はない。

「大丈夫、みたい」
「なら楽しみにしといて。カジュアルな服装で大丈夫だから」

 また小さく何度も頷いてみせる。あっという間に約束ができてしまったことに若干呆然としていると、カランとカフェの扉が開く音がしてライラがやってきた。

「おまたせー!お2人とも遅れてごめんなさい」
「全然だよ。お疲れ様」
「お疲れ」
「パスタ頼んであるからね」
「助かる~!」

 明るいライラの声で我に帰り、そして改めて約束のことを想って胸が苦しくなる。
 ライラはルナの隣に座り、気楽な雑談をはじめてくれた。ライラがいるときは職場と同じように接しているためルナもだんだん冷静になる。
 冷静になっても約束が楽しみで仕方がないことにはかわりなかったが。

「わー、きたきた!美味しそー!」

 料理が来て喜ぶライラの横で、ルナとセンリは手を合わせる。

「…よし」

 センリも同じように手を合わせるのだと知ってライラははじめは笑っていたが、慣れてくるとまた物珍しそうに眺めてから食べ始めるようになった。
 ライラ曰く、ルナやセンリが手を合わせ終わるのを見てからじゃないとすっきりしないのだとか。
 一度ライラもやっていたことがあるが「違和感がすごい」と諦めていた。

「あ、そういえばさっきの現場でドルキアネテスのセンスさんを見ましたよ」
「へえ、誰だった?」

 ライラはうーんと思い出すように首を捻る。一級ならすぐに名前が出てきそうなので、二級か三級だろうか。

「1級だったんですけど、センスって見かけることが少なくて」
「1級のセンスなら男が2人に女が1人だな」
「女性でした」

 ライラはあまり積極的にメディアを利用することがないので思い出せなかったようだ。

「それならレティシィア・ペールカーチだ」
「あ、そうだ!レティシィアさん!禁止区域に配置されてたから横顔しか見てないけど」

 ルナはレティシィア・ペールカーチについて思い出してみる。一級センスで黒髪黒目で細身の美女であり、ファッションモデルとしても有名だったはず。

「禁止区域向きの戦闘士だから余計に見かけたことがないかもな」
「禁止区域向き…」

 初めて聞いたが、そんな傾向もあるのだろうか。

「俺達が勝手に言っていただけで、公式にそういう区別があるわけじゃないんだ」

 ルナの疑問を察したセンリが説明してくれる。
 ライラはなんとなく聞いたことがあったのか訳知り顔だ。

「禁止区域は視界が悪いし独自の地形が形成されているから、地形取りと索敵、指揮能力に長けたセンスはだいたい禁止区域に配置されるようになってる」
「そうだったんですね」

 等級とカテゴリ以外に戦闘士達の配置事情まで気にしたことがなかったので、勉強になる。
 ルナは初級止まりで事務職員なので、現場の事情に触れる機会が少ないのだ。

「クレースさんも禁止区域への配置が多い戦闘士だよ」
「えっ」

 驚いてから、失礼だっただろうかと慌てた。
 センリとライラは笑っているが、ルナはいけないと口を押さえて見せる。

「意外だよね」
「普段がああだからな」
「でも確かに…戦闘の様子を見たことない人が多いのって、禁止区域によく入るからですよね」

 改めて考えると納得だ。禁止区域は1級と1級監督下の2級のみ入れる。なので、そこへの出動が多いということは、1級や認められた2級しか戦う姿を見ることがないということ。

「センリさんはいつでもどこでも戦ってるイメージだから有名って感じですよねえ」
「ギリギリを攻めるマスコミが撮影できる範囲にいると、どうしても目立つな」

 センリが汚染区域を舞う姿は良くメディアに取り上げられている。センリも禁止区域に配置されることは多いのだろうが、その能力の高さで禁止区域外周の駆除も任されることが多いと聞く。
 殲滅スピードが戦闘士界トップクラスなのだ。
 
「センリさんに憧れて戦闘士を目指す人も多いって聞きますけど、納得です」
「はは、ありがとう」

 嬉しそうな視線が絡み、思わず照れそうになる。いくらでも言われたことのある賛辞だろうに、そんな嬉しそうな顔をしないでほしい。

「ふふ」
「ライラ?」

 横からニヤニヤするライラを横目に咎めると、わざとらしく残ったパスタをかきこみはじめる。

「あー美味しかった」
「そんなにかきこんだら詰まっちゃうでしょ」
「だいじょぶだいじょぶ」

 センリは先に食べ終えて会計を終わらせている。
 あれ以来は奢りではなく、まとめて支払うセンリにあとから送金するようにしていた。

「ありがとうございます。送金完了してます」
「同じく!」
「早いな」

 話しているとあっという間に終わってしまう昼休憩を惜しみつつ、会社へ戻る。
 敵対すると気迫のあるライラがいると不躾な視線を送られることが少ないので、帰りはより快適だ。

「ライラさん…今日も素敵」

 ライラのファンからの視線はどうしようもないが。

「よし、午後も仕事するか」
「「はーい」」

 日常にセンリがいることが少しだけ当たり前になりつつある、そんな1日だった。
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