三分で読める一話完結型ショートホラー小説

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桜の木

あぁ、信夫さん、私はあなたの事を心から愛しています。
信夫さんの手によってこの地に植えられて25年、私ももう信夫さんの身長を遥かに超え、今年には花も咲かせます。
私が恋に落ちたきっかけは信夫さんの一言でした。
お店に並ぶ私を見て、こういったのです。
「お、この苗木かわいいな、どれ、俺の手で育ててやるか」
なんて男らしい人なんでしょうか、女心を一瞬で射抜かれ、私はすぐさま恋に落ちてしまいました。
それからというもの私と信夫さんはいつも一緒に生活してきました。
信夫さんはどうやら足が悪いらしく、外に出ることは滅多にありません、仕事もWebデザイナーをしていて、家から出ることはありません。
私はそんな信夫さんをいつも窓から見ていました。
しかし、そんな信夫さんも外に出たくなる時はあるのでしょう。
庭に出て伸びをし、私に腰をかけて読書をする時があります。
信夫さんの背中の温もりを幹を通して感じ、信夫さんと一緒に本を読む。
この一時がとても幸せでした、私は木です、人とは違い信夫さんと話すことも交わることもできません。
この背中の感覚、それだけが私が信夫さんを感じれる唯一の感触でした。
それで満足できいれば、幸福でした。
信夫さんと交わりたい、そんな欲望が最近湧いてきます。
愛する人と交わりたい、この欲望は罪なのでしょうか?
私が人間に生まれなかった、それだけの理由で愛する人と交わることが許されないとでも言うのですか?
そんなこと、あってはなりません。
私と信夫さんは愛し合うべきなのです。
信夫さんは読書を終えるとすぐに部屋に戻ってしまいます、しかし今年の私は花を咲かせられます、きっといつもよりも一緒にいてくれるはず。
そこで私の想いを実現するのです。

「おお、ついに桜が咲いた、これまで育てた甲斐があった、綺麗なものだ」
あぁ、信夫さんが私を褒めてくれている。
「どれ、花見でもしようかな」
ふふふ、思った通りだ、私は信夫さんのことならなんだって知っている。
信夫さんは足が悪いため今まで花見をしたことがない、人混みの多いところを歩くのが困難なためだ。
私を買った理由も、いつか花見をする日が来ることを願ってのことだろう。
「よいしょ、あぁ、夢が叶った...、綺麗だなぁ」
信夫さんは涙を含んだ目で私を見る、私が見てきた中でも、とびきり幸せそうな顔をして。
しばらくお酒と団子を嗜んだ後、信夫さんは私に体をあずけて眠ってしまった。
なんて可愛い寝顔、食べちゃいたいくらい。
いつまでもこの寝顔を見ていたかったが、チャンスは今しかない。
メキメキメキ
信夫さん、やっとひとつになれるのね。
メキメキメキメキ
私は信夫さんを体で包み込み、体の一部にする。
グシャ!!
圧に耐えきれず信夫さんは私の中で破裂した。
あぁ、信夫さん、あったかい...。やっと交わることが出来た。
愛する人とは結ばれるべきだ、私はそう思う。

今日、私は信夫さんとひとつになることが出来た、このまま信夫さんと成長していこう。
いつか私は、愛の象徴と人々に言われるような、大きく美しい桜の木になるでしょう。
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