上 下
100 / 106

走馬灯

しおりを挟む
突然だが、私は崖から落ちている。
近所にある観光スポットで海を見ていた私は、崖の端に寄りすぎ、足場が崩れ落下した。
人間死ぬ瞬間は時間がスローモーションに見えると言うが、実際にこうやって色々と考えていられているあたり、どうやら本当のようだ。
私が落ちるであろう岩肌を見て、あぁ、私は死ぬのだなと実感する、それと同時に、様々な思い出が脳裏によぎる。
まだ私が子供だった頃、一人で勝手に家を出て、随分親を困らせたものだ。
警察に見つかり家に連れ戻された時、親は泣いて喜んでいた、親から私はどれほど愛されているのか、それを痛いほど痛感した。
時は経ち私が高校生の頃、初めて親友と呼べる人ができた。いつまでも教室に残ってくだらない話で爆笑し、時にはお互いの悩みをぶつけ合い、涙を流したがら抱き合った。
その子とは今でもよく会って遊んでいる、そういえば最近は遊べてないな、元気にしてるのかな?あの子。
高校を卒業し大学生になった頃、初めて彼氏が出来た。
人の気持ちを考えられる優しい人で、私が人間関係などで落ち込んでいる時に、よく励ましてくれたものだ。
来年結婚する予定だったのにな...、ごめんね秋斗君...。
思い返してみれば、私の人生は様々な人のおかげで彩に溢れていた。
辛いこともあったが、その分幸せなことも沢山あった。
まだやりたいことも沢山あるが、これ以上生きることを神は許してくれなかった。

岩肌が目の前まで迫る、私は瞳を閉じ、静かにその時を待つ。

グシャッ!

頭から岩にぶつかり、ひとつの命がこの世から消え去った。
しおりを挟む

処理中です...