堕罪

井津 馨

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堕罪-後編ー

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 起きた時、部屋には電話が鳴り響いていた。
 煩いと思いながら受話器を手にする。

 「ハルさんでしょうか?旦那様の博さんが――」

 信じられなかった。
 何度も名を聞いたが、間違いではなかった。
 どうして?という疑問で暫くは何も考えられなかった。

 昨日午後十一時頃に寝た後、博さんは女性と旅立ってしまった。
 死亡推定時刻は午前三時五十六分だった。
 女性と博さんは黒いネクタイで手首を結んだ状態だったという。
 その黒いネクタイは、博さんが自分で買ったと片手に嬉しそうにはしゃいでいたものであった。
 本当は、相手の女性から貰ったものだったのだろうか。
 問い詰めたいのに相手が居ないとは、どれ程辛い事か。
 近くには小瓶が転がっていたそうで、死因は薬の大量摂取であった。

 突然の事に涙は止まらず、胸が張り裂けそうな思いだった。

 



 その後、博さんの物を整理していると鍵の付いた棚から博さんの日記が出てきた。
 私の事や仕事の事を綴っていて、思わず頬が緩む。
 あの人は決して弱さを見せない人であった。力強く、頼りになる男性、私の理想そのものだった。
 もしかしたらここで気持ちを発散していたのだろうか。
 
 しかし、最後のページに進むほど、苦しみもがく心が記されていた。

 ” 四月六日 心が落ち着かない。どうしたものか。”
 ” 四月十三日 趣味をしても何をしても忘れられない。”
 ” 四月十九日 ハルさんとの子が欲しい。でも今の僕では良い父親にはなれない。”
 ” 四月二十四日 会う約束をしてしまった。もうやめなければいけないのに。”
 ” 四月二十八日 これは愛だと気付いてしまった。いつの間にこんなにも貪汚になってしまったのか。”
 ” 五月二日 愛という感情はどうして冷めてくれないのですか。心ごと洗ってしまいたい。”

 日記はここまでで終わっていたが、端に小さく ” 好きになってしまいました。申し訳ございません。” と書かれてあった。

 


 「どうして…」
 ハルの目から涙が絶えず零れて、博の事を忘れようと考えた。
 荷物をまとめて、長く住んだ家を後にする。


 博の綴った日記を連れて。
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