時を超えて愛を誓う

沙夜

文字の大きさ
4 / 26
第一章:始まりの街と二人の師

第四話:国立図書館

しおりを挟む
翌朝、私はいつもより少し早く目を覚ました。 今日から、私の本当の「調査」が始まる。逸る心を抑えながら店の開店準備を手伝っていると、ミーアさんに呼び止められた。

「ソラ、図書館へ行くのなら、これを」

そう言って手渡されたのは、少しつばの広い、落ち着いた色合いの帽子だった。

「あなたの耳は…ここではとても珍しいから。隠しておいた方が、きっと面倒なことに巻き込まれないわ」

ミーアさんは私の人間の耳をじっと見つめながら、心配そうに言った。 この世界で、私のような耳を持つ人間に会ったことは一度もない。獣人の特徴を持たない私は、明らかに異質な存在だ。 その優しさが、胸に温かく染みた。

「ありがとうございます。気をつけます」

「それと、これもね」

ミーアさんは悪戯っぽく笑い、もう一つ、しっぽのついたベルトのようなものを取り出した。 器用な彼女が、余った布で作ってくれたらしい。

「スカートも、後ろが少し長くなっているものを選んでおいたわ。これなら不自然じゃないでしょう?」

言われてみれば、今日ミーアさんが用意してくれたスカートは、後ろの丈が少しだけ長くなっている。 獣人の尻尾の膨らみを考慮した、この世界ならではのデザインなのだ。

帽子を深く被り、不慣れな尻尾の感触に戸惑いながらも鏡の前に立つ。 そこにいたのは、どこにでもいそうな、街の娘だった。

「……ありがとうございます、ミーアさん」

「いいのよ。さあ、行ってらっしゃい」

ミーアさんの温かい声援を背に、私は清楽亭を後にした。

国立図書館は、王都の中央広場に面して荘厳に建っていた。 石造りの重厚な建物は、私が知っているどんな図書館よりも大きく、歴史の重みを感じさせる。 息を呑みながら重い扉を開けると、古い紙とインクの匂いがふわりと鼻をかすめた。

静寂に満ちた空間。天井まで届く本棚が、迷路のようにどこまでも続いている。 受付で簡単な手続きを済ませ、私は目的の場所へと足を踏み入れた。

「……すごい」

魔法に関する書物が収められている区画は、図書館の約半分を占めていた。 『基礎魔法理論』『属性魔法の歴史』『魔力循環の考察』…。 背表紙に並ぶタイトルを見ただけで、心臓が高鳴るのが分かった。

物理学の棚、化学の棚、生物学の棚。元の世界で私が夢中になった知識の体系が、ここには別の形で存在しているのだ。

手当たり次第に分厚い本を数冊抜き出し、窓際の席に陣取る。 一冊目の、埃をかぶった本のページを、私は期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと開いた。

果てしない知識の海を前に、私は武者震いにも似た興奮を覚えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

処理中です...