ラビリンス・シード

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018 プレイヤーキラー

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『兄様、『FP1』ですわ』
『了解、迂回しよう』
『『はい、兄上(兄様)』』

 狩りからの帰り、パーティボイスチャットでアキがすでに何度目になるかわからない報告をしてくれる。それにボクはこれまでと同じ返答を返す。
『FP1』は予め決めていた符合で、上限いっぱいである6人で組まれたパーティが1つ、という意味だ。

 森フィールドにボク達以外のパーティがいることは別段問題はない。
 だが今日は狩りを始める前にセーフティエリアで別のパーティに遭遇し、尚且つ『認識阻害』の追加効果を持った装備を持っていることを知られてしまった。
 まぁ『認識阻害』だとあちらのパーティも確信はしていないようだったが、例え違う効果でも似たようなものであれば掲示板でも登場が期待されている追加効果であり、喉から手が出るほど欲しい人は多い。
 目的の狩場までMOBを無視して移動できるというのは時間的な面からも消耗などの面からも非常に効率的だ。それにその他にも様々な利点があるのは言うまでもない。

 なのであの時点でボク達は確信していた。
『認識阻害』の追加効果が付いた装備を求めてボク達に接触してくるプレイヤーが急増するだろう、と。
 友好的かそうでないかは問わず。

 だからボク達は他のパーティとなるべく接触しないようにと対策を考えておいたのだ。
 アキの【初級探索術】も鍛えることが出来るし、面倒事も避けられるし、実に一石二鳥というわけだ。

 まぁそれでもどうしても避けられない状況というのは発生してしまうものだ。
『認識阻害』はプレイヤーに対しては影が薄くなる効果であり、完全に姿を隠せるものじゃない。
 街中でなら影が薄くなってボク達をボク達と認識できなくなれば十分だ。

 だがこんな狩場で、しかもボク達を探しているプレイヤー達は『認識阻害』の効果をちゃんと理解している。
 つまりは影の薄い相手でも注意深く探せば見つけられるのだ。ボク達をボク達とは認識する必要はなく、『認識阻害』の追加効果を発生させている装備を持っているプレイヤーならボク達じゃなくてもいいんだから。

 だから――

「ナツ! デコシー!」
「! おう!」

 風切り音とアキの警告はほぼ同時だったろう。
 だがそれに反応したナツのスピードは圧倒的だったと言うほかない。
 アキの短い警告を瞬時に理解し、疑問を挟むことなくすぐさま実行するその速さは双子故のものもあったのかもしれない。

 結果として、ボク達に向かって飛来した3本の矢はナツの展開した『デコイシールド』に吸い込まれて届くことはなかった。

『よくも兄様を! 12時方向『P3』! 7時方向『P3』!』
『万死に値する! 兄上、『プランMG』の許可を!』
『オッケー、思い知らせてあげようか』
『『はい、兄上(兄様)!』』

 敵は現在アキが見ている方向に3人、左斜め後ろに3人の6人のフルパーティのようだ。
 相手の姿はもう見えている。
 なぜならプレイヤーに対してプレイヤーがセーフティエリア以外で攻撃した場合は、見える範囲の体の枠がピンクになる。
 なので森という隠れるところが多いフィールドでもどこにいるのかがわかりやすくなる。

 奇襲は双子コンビによってあっさりと防がれた。
 しかもナツの使った『デコイシールド』は【初級中盾術】がLv30にならないと使用できない『アーツ』だ。
 つまりは相手側からみたら『スキル』Lv30を超える防御系『スキル』を有している相手となる。
 当然一系統だけをひたすら上げているなどといったピーキーな育成をしている人は少ない。
 生産プレイヤーならいるかもしれないが、事戦闘をメインとするプレイヤーでそれはほぼありえないといっていい。
 つまりは他の『スキル』も最低でも同等とはいかないまでも近いLvであるということ。
 『スキル』Lvはそのまま戦闘力に直結する。
 現状で森フィールドをメイン狩場としているプレイヤーが少数しか存在しないということは全体的な『スキル』Lvは一部のトップレベルでも20代前半。平均でいえば10代前半といったところだろう。
 掲示板でも統計が出ていたくらいだ。
 それを踏まえてもボク達の今の『スキル』は突出している。
 相手も最低でもLv30の『スキル』所持者という情報は得た。

 つまりは喧嘩を売る相手を間違えた、と相手は理解したのだ。

 だがもう遅い。
 ボク達に喧嘩を売った以上、買い戻す事なんて出来ない。
 これはこれからもやってくるだろう、殺してでも奪い取る派。つまりはPK――プレイヤーキラーを牽制するためにも妥協できない1戦でもあるのだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ナツからの『プランMG』の提案に了承を返した瞬間にはボク達とのLv差に気づいて動揺しているPK達を完膚なきまでに叩き潰すための布石を放つ。

 ピンクの枠が丸見えの真正面のPK達を囲むように1つ、2つ、3つ。
 さらに左斜め後ろの3人も囲むように3つ放つ。

 ボクが投擲をし始めたことでPK達も覚悟を決めたのかじりじりと距離を縮め始めている。
 ボク達は3人。相手は6人。
 この時点ですでに単純な戦力差は倍だ。
 数の暴力とは多少のLv差など容易に覆してしまう可能性を秘めている。
 故に彼らも2,3人は殺される事を織り込み済みで戦うことを選択したのだろう。それだけ『認識阻害』の追加効果を持った装備というのは魅力的なのだ。

 だが無意味だ。

 PK達を囲む最後の布石をボクが放てば『陣』は完成。もうおまえ達は逃げられない。

「な、なんだと!?」
「やべぇ! 嘘だろ!? 深度6!? どうなってやがる!?」

 設置型消耗系アイテム――『陣:拡大足止』は発動までに決まった形の配置を完成させなければいけない。
 だが、基本的に単体にしか効果がない消耗系アイテムでは珍しく、例外的に広範囲に効果を及ぼすことができるアイテムなのだ。

 そして状態異常にはそれぞれ深度と呼ばれるランクが存在する。
 総合品質と追加効果、『スキル』などの影響を受けて変動するが、掲示板の情報では現在の最大深度は毒で深度2が最高だ。
 数字が大きくなればなるほど状態異常としての効果が高まり、解除が難しくなる。

 故に深度6という状態異常は現状ではボク達以外は自然に解除されるまでは絶対に解除できない状態異常ということになるのだ。

「まて! これは単なるあしどぐっ! くそこ」

 深度6という絶対解除不可能な状態異常に混乱するPK達だったが、1人冷静に的外れな事を喚こうとしたプレイヤーにボクが放った消耗系アイテムが見事命中する。
 次の瞬間には待ってましたとばかりに首から上が砕け散り、何か悪態を吐こうとしていたようだけど最後まで言葉は繋がらなかった。
 首から上が砕け散った一瞬後に残った体も同様に砕け散ったことでPK達は一瞬静まり返り、さらに声を張り上げようとした瞬間――

「『黙れ!』」

 ナツの【中級挑発術】の『アーツ』――『フィアータウント』が炸裂して残った5人のPK達の視線が全てナツへと向かう。
 そしてまたボクの放ったアイテムが当たったPKの首から上が砕け散り、数が減る。

「くそ! どうなってやがる! なんで一撃で!?」
「卑怯だぞ! このチート野郎がッ!」

 『フィアータウント』の効果はそれほど長くは続かないのですぐにPK達は喚き始めるけれど、生憎ボクは不正なんて一切していないよ。
 全てはシステムに則った正常なゲームプレイの結果さ。

 ……まぁPKの言葉になんて応える必要性もないから言わないけど。

 ちなみにボク達の『スキル』Lvがいくら平均を大きく上回っていて、さらに装備もとんでもない性能のものを所持しているからってそれだけでプレイヤーを一撃で殺すというのは無理だ。

 確かに『スキル』Lvによる補正は強さに直結する。
 装備の性能も同様に与えるダメージ量に大きな大きな影響を与える。
 だがそれでもプレイヤーが与えるダメージ量というのは、プレイヤーとMOBでは意外なまでに大きい。
 これは『ラビリンス・シード』のPvP――プレイヤーバーサスプレイヤーに於けるダメージ計算式の問題であり、PvPが一撃で決まってしまっては面白さに欠ける、という運営の方向性によるものだ。
 まぁそれでもバックスタブのダメージ補正率が非常に高いのは相手に見つからないで攻撃するという方法の難易度が非常に高いためだ。
 それだって一撃でプレイヤーを倒すことは普通はできない。

 ではなぜボク達は一撃でPKを倒せているか。
 それは偏にボクが放っているアイテムにある。

 その名も『呪石:防御』。
『呪石:足止』や『呪石:痺』同様にデバフ――物理防御力ダウンを相手に与える消耗系アイテムであり、総合品質によってその効果のほど、つまりは深度が決まる。

 当然ながらボクの作った『呪石:防御』は総合品質がAである。
 与える深度は安定の6。

 PKも当然店売りの防具などとっくに卒業してプレイヤーメイドの防具を装備している。
 それはひと目見ただけで十分にわかる。明らかに店売りのしょぼい『グラフィックシード』を使用したものではないからだ。
 だが、それでも現状のトップレベルプレイヤーメイド防具で全身を固めていてもボクの『呪石:防御』を受けて、深度6の物理防御力ダウンを食らってしまえば裸同然になってしまうのだ。

 PvPは装備や『スキル』の補正による攻撃力防御力も当然織り込み済みの計算式となるので、防御力がまったくない状態というのは基本的に考慮されていない。
 高深度の物理防御ダウンなどのデバフを如何に対策しておくかも非常に重要なのだ。

 結果として、『陣:拡大足止』で足を釘付けにされ回避が難しくなった状態で、ナツの『フィアータウント』で視線を固定される。
 さらにボクの深度6の物理防御ダウンにより裸同然の防御力となり、アキの最大火力である『円月蹴り』によるバックスタブをクリティカル発生率が非常に高くなる急所である首に決められる。

 これだけやって即死しないプレイヤーは現状ではいないだろう。
 PK達もボクの予想通りなようで、1人また1人と首から上を砕かれて数を減らしていく。

 プレイヤーはプレイヤーに殺されると『魔法の鞄』からアイテムをドロップしてしまう。

 さらにプレイヤーを攻撃したプレイヤーである体の枠がピンクとなっている通称ピンクプレイヤーがその状態でプレイヤーを殺した場合、体の枠がピンクから赤になる。
 通称レッドプレイヤーと呼ばれるその状態でプレイヤーに殺されるとドロップするアイテムが総合品質の高い物や現在装備している物になりやすくなる。
 PK達が砕け散った後には装備が残っているのも多い。
 1つだけだったり、2つあったりとその辺は運になるが、ピンクやレッドの状態ではドロップする個数も上がる。
 それだけハイリスクなPKだが、今回ボク達を狙ったように掲示板でも登場が期待されている装備を得られればまさに一攫千金。ハイリスクに見合ったハイリターンなのだ。

 まぁ、今回のように圧倒的な戦力差、戦略差によって何も出来ずに一撃で殺されて装備をドロップして泣きを見る目になるし、PKは当然プレイヤーに嫌われる。

 ピンクなら1時間程度で自動的に直るが、レッドは数回殺されるか大金を払って贖罪するまで直らない。
 ピンクもレッドもNPCから通報されて兵士に追い掛け回されるし、NPC店舗は当然利用できない。それどころか街や村に入ることすら難しいだろう。
 ピンクやレッドを攻撃しても攻撃した側はピンクにはならないし、殺してもレッドにならない。
 当然PKの装備やアイテムを狙うPKKもいるだろうし、はっきりいってPKはそういうプレイを楽しんでいなければ割に合わないとボクは思うけどね。

「くそ! くそ! このチー」

 最後の1人も結局言葉を終わらせることなく砕け散っていった。
 残ったのは大した性能はなさそうな装備とアイテムのみ。やっぱりボク達にPKは合わないな。

「兄様に牙を向くなんて野良犬以下なやつらでしたわね」
「アキ、野良犬が可哀想だろ」
「それもそうですわね。せいぜい生ごみかしら」
「生ごみが可哀想だろ。せいぜい腐った生ごみだ」
「その通りですわね!」
「あぁ! だが、あと100回は殺さないとだめだな、兄上に矢を射ったのだから」
「もちろんですわ! 見つけ次第『プランMG』ですわ!」
「あぁ! 『プランMG』だ!」

 ドロップした装備の性能を流し見している間に双子コンビが白熱している。
 訂正しなきゃいけないかもね。
 ボク達、じゃなくて、ボクにはPKは合わないね!

 ちなみに『プランMG』のMGは、みなごろし・・・・・のMGだったりするのは内緒である。

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