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012,撫でリスト

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「あっれー……洗濯物がない」

 時間があるので洗濯をしようと思ったのだが、洗面所の籠に適当に突っ込んでいたはずの衣服がない。
 籠の前で首を傾げていると、漬け置きしているタライをずっと見ていたルトがいつの間にか後ろにいた。
 そして、洗濯機を指差してから自分自身を指差し、最後にクローゼットの方向を指差した。

 え、もしかしてルトが洗濯してくれてた?
 洗濯機には乾燥機もついてるし、洗面所のドアを閉めれば音も振動もほとんど漏れない。
 ルトがいつの間にか洗濯していても、気づくことはないだろう。
 ……そうかぁ。洗濯して畳んでクローゼットに戻してくれてたのか。
 道理でクローゼットに替えがいっぱいあったわけだ。
 実際は替えではなく、洗濯したものをルトが戻してくれていたから、いっぱいあると勘違いしていた、と。
 もう、ルトなしでは生きていけない気がするよ……。

「ありがとう、ルト。助かるよ」

 素直にお礼をいうと、硬い骨の手で頭を撫でられた。
 力加減は完璧で、なかなか気持ちいい。
 ルトは撫でるのうまいよな。きっと生前は、さぞや高名な撫でリストだったのだろう。
 なんだよ、撫でリストって。

 時間もまだあるので、庭で遊んでいるディエゴを読んで簡単な合図を決める。
 ディエゴの手は枝なので、細かい動きなんかは難しい。
 それでも使役する前から持っている棒なんかは、掴める程度には器用だ。
 可動範囲もそれなりにあるようで、人間のような動きは無理だとしても、簡単なものならできる。

 一先ず、必要なのは魔力量をオレに教えるための合図だろう。
 ディエゴたちの魔法攻撃はかなり有用だ。
 だがその反面、魔力の残量に気を配らねばならい
 ディエゴがある程度その辺をコントロールしてくれているので、すぐにガス欠になることはない。
 だが、今日の階段戦のような緊急事態の場合はそうも言ってられない。
 ルトたちが如何に有能でも、足場も悪く、その上いつもの数倍の数で押されてはさすがに分が悪い。
 今回はディエゴたちに魔力を節約せず、全開で攻撃してもらったから被害もなく殲滅できた。
 しかしその結果、魔力は枯渇寸前にまでなってしまった。
 もっと数が多かったら、もっと敵が強かったら、かなり危ないことになっていただろう。
 速やかに状況を判断して、撤退することだってときには必要だ。

 そのためにも、ディエゴたちの魔力量は素早く把握できなければいけない。

「じゃあ、縦半円の下を魔力量零パーセントとして、上が百パーセントね」

 複雑な合図は、戦闘中だと混乱を来たすだけなので、わかりやすさと簡単さを重視してみた。
 もっと意思疎通を簡単に取れれば楽なのだが、仕方がない。

 合図も決めたので、そろそろ夕飯の準備でもしよう。
 今日は肉以外の食材を購入して、ちょっと贅沢しちゃおっかな。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 野菜がたっぷり入ったラーメンを食し、お風呂にも入ったのであとは寝るだけだが、その前に今後の計画をたてるとしよう。
 ちなみに、ラーメンはちょっとお高めのやつだ。
 野菜はまだ余っているので、冷蔵庫に入れて明日使ってしまおう。

 さて、今後の計画だが、ルトの防具はだいたい揃った。
 しかし、いつまでも武器が大きな骨っていうのは、どうだろうか?
 ルトは防具のほうを優先していたが、それも頭以外は揃っている。
 本格的な鎧なんかは、ちょっと値段的な問題で手が出せないので仕方ないが、武器なら骨よりはマシなのがいくらかある。
 なので、ルトの武器を購入しようと思う。

 大きな骨は、分類上は打撃武器だろうか。
 打撃武器だったら、棍棒とかバットとか色んなものが通販アプリでは販売されている。
 ルトを呼んで、その辺を見せているとどうやら気に入ったものがあったらしく、頻りに指を差してきた。

「おお? トンファーかな、これは。しかも、魔法が使える? 別売りのカートリッジが必要なのか」

 ルトが選んだものはトンファーのようだが、少々変わったギミックが搭載されているようだ。
 握りの部分にギミック作動用のトリガーがついており、カートリッジを消費して魔法が発動する。
 ただ、カートリッジは一発魔法を撃つごとに入れ替えなければいけない消耗品で、お試しに数本ついてるだけ。
 魔法自体も種類があるわけではなく、雷魔法のスタンのみのようだ。
 スタンは、接触している相手に強力な電気ショックを与える魔法だ。
 このトンファーの場合、握り以外の部分がスタン発動場所になるらしく、相性は良さそうだ。
 トンファー自体も、ルトが選んだだけあって大型の魔物の骨から削り出した逸品で、耐久力も相当高いものらしい。
 ……やっぱり、骨なのね。

 とにかく、ルトも気に入ったようなので、このトンファー――魔式トンファー雷を購入するのを目標とすることにした。
 ちなみに、お値段は67,000円。
 まったくもって足りません。
 カートリッジでさえ、十二個入りで5,000円という高値だ。

 だが、明日からは四階層だし、今日の結果からいっても目標金額はすぐに達成できるだろう。
 ルトの装備が整ったら、次はポチやディエゴをなんとかしたいが、問題は合う装備があるのか、だ。
 眠くなるまで探してみるとしよう。
 特にディエゴたちの魔法を強化できるような装備があれば、さらに迷宮探索が捗るからね。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 昨日はちょっと夜更かししてしまって、ルトに揺り起こされて目覚めた。
 朝の諸々を済ませつつ、昨日の夜更かしの結果を検討する。

 結果からいえば、ディエゴたちの魔法を強化できそうなものはあった。
 ディエゴたちは、使役する前から棒をもっていたが、あれはどうやら魔法を強化できる代物であり、分類上は杖。
 通販アプリでも、杖は各種取り揃えられており、魔法を強化する装備ならそれ以外にも結構あった。
 ただ、基本的には人間用のものばかりなので、ディエゴたちが装備するのは少々難しい。
 切り株にローブとか帽子とか装備できなくはなくても、効果がきちんと発揮されるのかかなり疑問だったし。
 そこで、現状でも棒を杖として使っているわけだし、杖を購入することにした。
 もちろん、オレが選ぶよりディエゴ自身に選んでもらったほうが良さそうなのは変わらない。
 でも、どの杖も魔式トンファー雷よりも高いのだ。
 軽く十万円超えなのは、やはり魔法という強力なSkillを強化できるからだろう。
 どう考えても今すぐは買えないし、まずは魔式トンファー雷だ。
 そのあとにディエゴたちの杖を買おう。
 なので、選んでもらうのは今日の探索が終わってからでも遅くはない。

 それに、魔式トンファー雷のカートリッジ式とはいえ、魔法が使える武器があったのだ。
 ほかにもあるだろうと、検索してみると、予想通りかなりたくさんの魔法の武器があった。
 ただ、大体は魔式トンファー雷のような何かしら物理的に消費して使うタイプのようで、自身の魔力を消費して魔法を使うタイプは極端に少なかった。
 しかも、ひとつ百万円以上はするという、とても悲しい結果だった。

 でも、これから迷宮探索を重ねていけば、いつかは買えるだろう。
 そうなれば、魔石をタブレットに押し付ける作業をしているだけなんてもう言わせない!
 いや、そんなこと誰もいってないけど。

 あとは、玄関ドアとお風呂の問題。
 現状では、みんな玄関ドアを通って迷宮探索へ出掛けている。
 だが、どうやら別に玄関ドアだけが移動方法ではないらしい。

 それなりにはするが、庭に大きなドアを設置できるのだ。
 庭に設置すると玄関ドアが機能しなくなるらしいが、その程度は問題ではないだろう。
 庭から移動できるのは、今後体格の大きな下僕を使役した場合や、今以上に汚れて帰ってきたときなんかにとても便利だ。
 現状でも、みんながドアを通過するのに結構かかってるしな。
 庭なら汚れとかあんまり気にしないでいいし。

 そして、屋外シャワー室なるものが売っているのも発見した。
 庭から入っても、洗浄のために結局お風呂場まで移動するなら玄関ドアを使ったほうがいいが、庭にもシャワー室がおけるなら話は違う。
 さらにオレも気兼ねなく、いつもでお風呂に入れる。
 いいことづくめじゃない!?

 ただ、やはりこちらもいいお値段。
 さすがに魔法が使えるようになる杖ほどじゃないけど、それでも魔式トンファー雷よりは高い。

 だが、こうして色々と欲しいものが明確になってくると、やる気もだいぶ違ってくるというもの。
 迷宮を駆除して得られる報酬は、地球に戻ってからじゃないと意味ないからね。

 さあ、そうと決まれば今日も迷宮探索がんばりますか!

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