オレとチーレムが迷宮で

天界

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18,奴隷商館

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 今日は午前中はフリー。
 午後から3回目の生活魔法講習だ。

 昨日リス子先生とも話したように荷物持ちの件について行動しておく事にした。
 つまりはポーターを雇いに……では当然なく、奴隷を見に行く。

 そう、見に行くだけ。

 それなりには欲しいが、どうしても欲しいというほどでもない。
 そんな微妙な位置にある荷物持ちなので一先ず見に行くだけという考えだ。
 まぁもちろん掘り出し物だったり、期間限定だったりしたら買っちゃうかもしれないが。だって日本人だし。

 お金にもそれなりに余裕がある。
 まだ四角金貨――100万ジェニー硬貨が20枚以上あるのだ。つまり2000万ジェニー。
 一般奴隷でも平均100万ジェニー。戦闘奴隷なら400万ジェニーくらいが相場だ。
 1人2人なら衝動買いできるくらいお金はあるのだ。

 もちろん荷物持ちとして連れて行く以上はある程度の防具は必要だ。その分も考えると大体1人50万~の追加費用がかかる。
 その上ポーターと違って奴隷は日々の衣食住が必要だ。まぁこの辺は物扱いということで最低限以下でもいいらしいが、オレは生憎と現代日本に生まれ育った普通の高校生なのでそれも難しい。

 まぁそれでも迷宮探索数回でポーターに払う金額よりは回収できるはずだ。
 そのためには荷物をたっぷり持てるやつがいい。
 そうなるとマッチョか、スキル持ちだろう。
 この世界にはマッチョな女性も多くいる。探索者ギルドや冒険者ギルドで実際に遭遇しているしな。
 スキルを取得するより、自身の筋肉を鍛えた方が遥かに早いらしいのだ。

 それにリス子先生と一緒に行動するのだし、この場合は女性の方がいいのだろうか。
 いやでも基本的に性奴隷も兼ねているという話も聞いている。……男性の方がいいのだろう?
 いやまてもしかしたらソッチ系だと勘違いされないか!?

「なんてこった……これほどまでに難しい問題だったのか……」

 思わず呟いてしまうくらい真剣に思い悩んでしまった。






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 まぁ結局のところ今日は見るだけ。そう、見るだけなのだから関係ない。
 というわけでやってきました奴隷商。

 扱っている商品の金額が金額なので構える店舗も中央に近く、外観も美しい。まるでどこぞのホテルのようだ。
 ランガストにある奴隷商は基本的にこういった美しい外観の店舗ばかりらしく、その中でも後ろ足銀牛亭に近い場所を選んだがそれでもそこそこ歩いた。
 他の奴隷商に行くなら街中を定期巡回している辻馬車でも拾った方がいいかもしれない。

 今回は様子見ということもあり、ランガスト伯爵の紹介状は使わない方がいいだろう。
 というかギルドではそれなりに効果を示した紹介状だが、奴隷商にまで効果があるのか疑問だ。

「いらっしゃいませ。恐れ入りますが、お客様は当館は初めてのお客様ですね。
 どういった奴隷をお求めでしょうか?」

 奴隷商の内部に入るとその中はまさにホテルのロビーだった。
 もしかして本当にホテルを買い取って使っているのかもしれない。
 ロビーの従業員全員が頭を下げている中でオレに話しかけてきたのは、これぞ執事という見た目の30代くらいの男性だ。
 オレの顔を見て初めての客だと迷いなく断言したということは訪れる客を全員記憶しているのか?

「荷物持ちが出来るやつを探している。戦闘は出来なくても構わん」
「畏まりました。それではご案内させていただきます」

 ちなみに今のオレは防具の服に途中で買ってきた地味だが質のいいマントを羽織っている。
 このマントだけで実は10万ジェニーもしているし、防具の服は見る人が見ればその素晴らしさを理解する事ができる、らしい。マントを購入した店の目つきの鋭い店員談。
 これくらいの準備をしてこなければ恐らく門前払いされていただろう。
 そう思わせるだけの高級感溢れる内装と、雰囲気を持ち合わせているのだ。この奴隷商館は。

 案内された部屋はあまりそういった知識の無いオレでも高いということだけはわかる美しい調度品で飾られ、だがシックにまとめられているために圧迫感は感じない。
 それどころか落ち着いた雰囲気に満ちているような気さえするほどだ。

「今準備をしております。少々お待ちください」
「あぁ」

 音も立てずに目の前の黒曜石のテーブルに置かれた紅茶からは芳醇な香りが漂ってくる。
 紅茶にも詳しくはないが、これも相当な高級品なのだろう。でも正直飲む気はしない。
 なので腕を組んで待つ。
 防音もしっかりしているらしく、外から音が入ってくることもない静かな空間が少しの間続いた。






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「お待たせ致しました。準備が整いました」

 そういって頭を下げた執事の青年。
 彼の背後で扉が開き、数人の女性・・が入ってきた。
 皆それぞれ横から見れば丸見えとなるような貫頭衣を着ている。
 オレの要望である荷物持ちが出来そうな筋骨逞しいマッチョな女性が先頭から4人。
 それ以外は見た感じではとてもじゃないが荷物持ちなどは出来そうに無い女性ばかりだ。
 年齢も10代前半から30代後半まで様々だ。

「それではご説明させていただきます」
「あぁ」

 どうやら執事の男性がそのまま彼女達の説明もするらしい。
 説明が始まるとまず着ている貫頭衣を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる1番最初に入ってきたマッチョな女性。
 この時点で驚いたが表情には決して出さない。
 上から下へと1度だけ視線を動かし、執事の青年の話に耳を傾ける。
 アレだ。筋肉がすごいとなんか萌えない。

 執事の青年の説明によると、マッチョな女性4人は戦闘奴隷だそうだ。
 腕もかなり立つらしく、うち2人は探索者ギルドでDランク。2人は冒険者ギルドで貢献度5だったらしい。
 4人共処女ではないらしいが、「その分満足していただけるでしょう」だそうな。

 5人目以降も前の女性の説明が終われば貫頭衣を脱ぎ、説明が始まる。
 マッチョな女性達よりはいいとは思うがなんかこう、反応できない。
 執事の青年がまさに商品として説明をしているのもあるだろう。場の雰囲気も完全にソレなので美しくも淫靡な肉体を見てもピクリとも反応しない。
 それに彼女達はこうして見られることに慣れているのか恥じらいの反応はほとんどなく、まっすぐにオレに視線を向けてくる。
 買われればオレが主となるのだ。見極めたいのだろう。どんな事をすれば喜び、どんなことをすれば怒りを買ってしまうのか。
 物扱いとなる奴隷の生殺与奪の権利は購入した主にある。それなりに高い買い物であっても衝動的に殺してしまう主もそれなりにいるだろう。
 そうでなくても、性癖は人それぞれ。オレに加虐趣味はないがそんなこと彼女達にはわからない。そういった点も見極め、もし買われてもよりよい生活を送れるように必死なのだ。

「続きまして、種族は獣人、銀狐族。名をココネーリイ。年齢は19。
 彼女も戦闘奴隷となります。使用武器は片手剣と盾。所持スキルにも剣:中級と盾術:中級を所持しております。
 身体面では少々劣りますが、探索者ギルドにてBランクの腕を持っておりました。
 非処女にございますが、そちらの腕の方は些か不足しております」

 7番目に紹介された女性は頭に狐の耳があり、狐の尻尾を持つ獣人だった。
 マッチョな女性達と比べると大人と子供といっていいほどに肉体面での違いがあるが、彼女達よりも腕は上らしい。
 まぁ荷物持ちの予定だし、別に処女非処女は関係ない。

 顔つきは少しきつめだが、美がつくかは好みによるといったところだろう。まぁオレとしては十分綺麗だとは思う。好みかどうか聞かれると答えはノーだが。

「それでは最後に。
 申し訳ありません。少々お待ちください」

 狐耳の子の説明が終わっても最後の少女は貫頭衣を脱がなかった。
 まぁ他の女性達が平然と脱いでいたので気にしていなかったが普通は嫌がるもんだ。
 それにこの子だけずっと下を向いて震えている。もしかして数合わせか?

「早く脱ぎなさい。お客様がお待ちです」
「ひッ!」

 執事の青年がどこかから取り出した小さな鞭が彼女のすぐ脇を通過し、小さな音が鳴る。
 当たってはいないが、恐怖を与えるには十分だろう。空気を裂く音は本物だ。

 震えていた少女はその音にさらに体の震えを大きくしながらも貫頭衣を脱ぐ。
 他の女性達は一切隠す事はなかったが、少女だけは胸と股間を必死に隠して体を震わせながら下を向いたままだ。
 なんだか可哀想だが、これも奴隷の宿命というやつだろう。同情はしてもそれだけだ。

「お待たせ致しました。説明を続けさせていただきます。
 種族は人族。名はナナネ。年齢はわかっていません。
 彼女は一般奴隷でございます。戦闘経験も不明ですが」
「ぁッ! ……ぇ?」
「このように珍しい黒目をしております」

 ずっと下を向いていたのでわからなかったが、驚いた。
 彼女は西洋人のような顔つきばかりのこの街では初めて出会った東洋人顔だ。
 髪は薄い茶色だが、説明の通りに目は黒い。まるで日本人みたいだな。

 そして執事の青年に顔を無理やり上げさせられて、初めてオレの顔を見た彼女は怯えていたのも忘れてとても驚いていた。

「ご覧の通り彼女はこの地方ではとても珍しい見た目をしております。
 失礼ながらお客様もこの地方では珍しいお方。条件には合いませんでしたがご覧頂くだけでもと差し出がましい真似を致しました」
「いや、構わない」
「それともう1つ彼女について説明しなければいけないことがあります」
「続けろ」
「ありがとうございます。
 彼女に不明な点が多いのには理由がございます。
 彼女は言葉が分からないのです。ですので指示を出す時には少々苦労するかもしれません。
 私どもでも教育は施していますが、言葉が通じないために少々難儀しております。
 それでもなんとか名前だけは判明したのですが」
「確かめてもいいか?」
「もちろんでございます」

 オレの顔を見た時の彼女の反応。そして執事の青年の説明。
 もしかしたらと気づいた事がある。

『君、名前は?』
「ぁ、あ、グッ!」
「おい、大丈夫か?」

 オレの言葉は特に意識していない場合この世界の言葉になっている。
 逆を言えば意識して日本語を話そうと思えば話せる。今まで意味がなかったのでやらなかったが、試してみる価値はあると思ったのだ。

 オレの日本語を聞いた瞬間の彼女の反応は劇的だった。
 だが少女が言葉を発しようとした瞬間、彼女は喉を押さえて蹲ってしまった。

「申し訳ございません、お客様。
 当館の奴隷には私語を禁止しています。特にお披露目の場であるこのような場では一定声量を超える声を出せないように首輪に制限をかけているのです」

 なるほど、そういうことか。
 彼女達全員に首輪は嵌められている。もちろん喉を押さえて蹲っているこの少女にも。
 これが漫画や小説で有名な隷属の首輪ってやつだろう。声を制限できるとかオレの知っている首輪よりも高性能なようだが。

「制限を外せるか?」
「もちろん可能にございます。……これで問題ございません」

 蹲っていた少女の首輪に触れ、少しの時間で設定の変更は終わったようだ。結構簡単みたいだな。もしくはこの執事の青年がすごいのか。
 まぁどちらでもいい。
 ちなみにオレがこっちの世界の言葉以外で喋っても執事の青年からは特に驚きの反応はなかった。
 むしろ計画通り、といったところだろうか。

『首輪の声の制限は外させた。これで喋れるはずだ。
 まず最初の質問だ。君は日本人か?』

 さて、どういう答えが返ってくるかな?
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