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1話 ある日突然、人の寿命が見えるようになった

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 ある日突然、人の寿命が見えるようになった。視界に入ってくる人全員の頭上に、数字が表示されるようになったのである。

 最初は状況を飲み込めず、自分の頭がおかしくなってしまったのかと思った。でも人の頭上に数字が表示されること以外、変わったことは何もなかった。

 ーーおそらく自分は正常で、小説や漫画でよく見るような何らかの「特殊能力」を手に入れただけである。

 しばらく落ち着いて頭の中を整理してみて、私はそう結論付けた。そんな中二病みたいな結論が瞬時に出せる時点で「正常」ではないかもしれないけど。

 私が正常かどうかはおいといて、仮に私が他人には見えない何かが見えるようになったとすると、次の問題は私に見えるようになったものが何なのかということだった。

 私に見えている数字は多くの場合二桁で、今まで目撃したことがあるのは0から97まで。

 最初はエロ漫画のように、その人の経験人数が見えるようになったのかと思った。

 でもすぐにそれは違うことに気がついた。理由は、ベビーカーに乗っている赤ちゃんの頭上に「97」の数字が表示されていたから。さすがに経験人数97人の0歳児などいるはずがない。

 となるとこの数字は何なのか。しばらくいろんな人の数字を見て分析した結果、私は人々の頭上に表示されている数字がその人の残りの寿命である可能性が高いと結論付けた。

 理由は簡単。個人差はあるけど基本的に若ければ若いほど頭上の数字は大きい数字で、年齢が上がれば上がるほど頭上の数字が小さくなっていく傾向にあったから。

 自分の仮説が正しいかどうかは正直分からないけど……、でもなんとなく間違いなさそうな気がする。うん、きっとそう。

 本当に正しいかどうかを検証したいのであればホスピスにでも行って、そこにいる患者さんの数字を確認すれば良いとは思うけど、さすがにそんなことはしたくないから現段階で「私の説は正しい」と自ら太鼓判を押しておこうと思う。

 どちらにしても私にしか見えない数字な訳だからその数字が何なのかを完全に立証することは不可能だしね。第三者による検証が一切できない訳だから。

 そう考えると結局、私の説が正しいかどうかなんてどうでも良いことなんだけど、でも残念ながらそれがどうでも良くない状況なんだよね。
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