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転生先はハードな乙女ゲー

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「アスタロテ様?お加減でも悪いのですか?」

「い、いえ平気です。それより、この服…少し胸元が空きすぎじゃありませかしら?」

侯爵令嬢のアスタロテはいつもの彼女らしくなく、ドレスの胸元を抑えてもじもじした。

「いえいえ、とてもお似合いです、むしろいつもより控えめですよ?」

「そ、そうですか、ありがとう…」

朝食を運んできたメイドは、アスタロテにお礼を言われてビックリした顔をしたが、慌てて戻っていった。

(…うう、一番露出度の低い服にしたはずなのに胸元丸見えじゃない!こんなの着ていくなんて恥ずかしい…)

アスタロテは胸に大きく切り込みが入ったドレスを手で抑えた。

(ハードな乙女ゲー舐めてたわ!)

アスタロテ…この世界、大人向け乙女ゲーの悪役令嬢に転生した私はがっくり肩を落とした。
転生したのはほんの一週間前の事、見覚えのない、時代がかった豪華な部屋で目を覚ました私は覗き込んだ鏡を見て驚愕してしまった。

「こ、これが噂の悪役令嬢への転生…」

大きな鏡に映っていたのは、最近ハマっていた大人向け乙女ゲーの中の悪役令嬢、アスタロテだった。
その後の一週間というもの、部屋に引きこもった私は、この先のプランを死ぬ気で練った。

「…ね、ねえ、今日は本当に5月の1日で合ってるわよね?」

私は急に不安になって、側にいるメイドに聞いた。

「その通りでございます、お嬢様」

「そ、そう、よね…」

(だめだめ!ここで挫けてちゃ必死で考えたプランが無駄になっちゃう!しっかりするのよ、アスタロテ!)

頬を叩いて気合を入れ直すと、執事が来客の知らせを持ってきた。

「トリスタン様のお見えです」

私はぐっと顎を上げて悪役令嬢令嬢らしくツンとすまして言った。

「ここへお通しして頂戴」

☆☆☆

「さて、アスタロテ様、本気でやるのか?」

「様は余計よ、あなたは私の恋人なんだから。しっかりしてくださらないと」

向かいに座ったトリスタンの腕を扇で叩く。

「分かったよ…、しかし上手くいくのかね、俺が王太子に殺されて終わりの気がするんだがな。まぁ俺には選択肢はないけどさ」

馬車の中でトリスタンがだらしなく姿勢を崩して頭を掻いた。

「大丈夫ですわ、今日王太子様は新しい恋人を連れてきて私との婚約を解消されます。ですから私が恋人を連れて行っても何の問題もないでしょう」

きっぱりとアスタロテが答えた。

「本当かねぇ…まあ、それでアスタロテ様も同じく新しい恋人連れて婚約解消に同意、しばらくは王宮に近づかない、それで良いんだな?」

「ええ、三ヶ月は私の恋人のふりをしてくだされば後は自由になさって。報酬もきちんとお支払いしますわ」

トリスタンは貧乏貴族の出で、家の膨大な借金を返すため、ゲームの中ではアスタロテの下僕のごとく働いていた。
転生したアスタロテが信頼できそうな人物は誰かと散々考えた結果、やはりこの男以外いなかったのだ。
少なくともどのルートでも直接アスタロテを害した事は無かったはず…あんまり酷い命令を悪役のアスタロテが下した時は主人公側に付いたりしたこともあったが、どのルートでも酷い目にあったアスタロテには同情をよせてくれていたし…、何より金のためなら多少の不安はあっても何でもやってくれる。

(下手に好意を持たれるより、お金だけの関係のほうが裏切られる心配はないわ)

アスタロテはそっと向かいにいるトリスタンを見た。

(それに思っていたより顔も良いし…、ってダメダメ意識しちゃ!変になっちゃう)

アスタロテは顔が赤くなるのを感じた。
いつもより窮屈な格好が気になるのか襟元を緩めているトリスタンは確かになかなかの美形だ。
明るい茶色の髪を長めに伸ばし、若葉のような生き生きとした目をして、一度は騎士を目指していたらしく体格も男らしい。
いつものはだらしなく無精髭なんか生やしているのを綺麗に剃らせて格好もちゃんとさせたらアスタロテの思っていた以上の男前になった。

「ふーん、なんだいハニー、俺に見惚れたかい?」

「か、からかわないでくださいまし!そんなんじゃありませんわ!」

アスタロテに見られた事に気づいたトリスタンがアスタロテにウインクした。
そんな事にもアスタロテはドキドキしてしまう。

(し、仕方ないわ、こんなに男性と接近したことなんてなかったし…それに…)

アスタロテはギュッと手を握りしめた。

(この世界に来てから体がおかしいんだものー!!)

好みの異性が近くに居るとドキドキする上に、体が熱くなり、腰の奥からキュンとした痺れが伝わってくる。
この計画を思いついて自室にトリスタンを呼び寄せて計画を詰めていく段階で、部屋の中に異性と二人きりという状況下にアスタロテの体は大変なことになったが、なんとか平気な顔をして切り抜けた。

(あ、あの時よりドキドキして…体が熱い。それにお体の奥の方が……。もう、これじゃ私が変態みたいじゃない!これがこの世界の普通なの?!)

体の熱をなんとか頭を降って追いやると、

「と、とにかく!今日は浮気者の王太子様を逆にフってやってポカーンとさせてやるんですから!ざまあみさらせですわ!」

オホホホ!と悪役令嬢らしく高笑いしてみせた。




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