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竹田詩乃、母の日のプレゼントを選ぶ。

7 福寿の部屋でのキス

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奈々美さんは福寿の部屋に案内してくれた。その部屋はリビングの落ち着いた壁紙とは違って、水色で子供部屋のような感じだ。私はソファーを見つけてそこに座ってスマホのゲームを起動させた。体力ゲージはもちろん溢れている。
「福寿は奈々美さんを大事にしなよ」
「母さんが何かした?」
「あんなに良い母親滅多に居ないよ」
それだけ言うと、私はゲームのを操作している。ただの単純作業だ。だいたいのところで使えるキャラで私は周回している。なので、パーティーを変更をすることなんて滅多にない。福寿の部屋は私の部屋と違って、壁紙以外は落ち着いた感じ。本当に昔の子ども部屋というかそんな感じだ。パソコンはあるけれどテレビはない。そういうところも現代だった。

「もうそろそろ寝る準備しませんか?」
「もうそんな時間?」
「まぁ、結構遅い時間ですね」
時計は0時を過ぎていた。私は夜行性なのでそこまで眠気は感じないが、夜ふかしは美容には悪い。なので、促されるままにソファーで寝ようとした。
「ベッドがあるんですから使って下さい」
「福寿はどうするのよ」
「僕は敷布団を使います」
タンスを開いて畳んだ布団を見せてくる。私はベッドで寝ても良いのか。ならばお言葉に甘えることにしよう。私はペンダントを外して、ベッドの棚に置く。この布団カバーも青色だった。
「この部屋は青ばかりだけど福寿って青色が好きなの?」
「好きってわけじゃないんですけど、無難な選択肢じゃないですか」
「でも、ここまで揃えるとこだわりあるのかなって思っちゃう」
私はペンダントの青いプラスティックの石を見る。私の服装にはなじまない色。でもこの部屋には馴染んでいる。

「はぁ、まさか福寿のベッドで寝るとはねぇ……」
私は布団に入り、枕に頭を乗せて下で寝ている福寿を見る。電気を消してもしばらくはぼんやりと光るタイプのようだ。
「僕も母さんが詩乃さんを泊まらせるとは思いませんでした。だって、僕達の付き合いが嘘って知ってるのに」
「まぁ、良いけど明日はバイトだから早く寝るんだよ」
福寿は夜遅いというのにまだイベントの周回をしている。私は今日はとりあえず疲れてしまった。私の生きてきた人生ってなんだろうとか、奈々美さんの偉大さとか考えるkとおは多い。
「私はもう寝るよ」
「僕はポイント稼いでから寝ます」
私は横でゲームをしている福寿をずっと見ていた。なんか、こいつの部屋に居るってことが信じられない。そいつのスマホにはこの前のアニメショップで引いたストラップが付けられている。私がダブったからあげたものだ。私はもったいなくて開けてなかった。福寿は私に上位賞のフィギュアをくれたけど、それも箱で飾っている。箱で飾るとフィギュアを傷める可能性があると、教えた方が良いだろうか。

しばらくすると福寿はゲームを辞めてあの分厚い眼鏡を外し枕に頭を乗せる。その様子を眺めていた。今まで付き合った彼氏と比べるとやっぱり地味な奴だ。気を使うことだって下手だし、それに私以上のオタクで気持ち悪い人なのかも。でも、なんでここまで心が動くのだろう。
福寿が眠りについてからしばらくしても私は寝れなかった。だって、急にお泊りになるなんて思わなかったし、それにこんな私でも緊張していた。私は福寿が起きないようにそっとベッドから出る。そして福寿が寝ている布団のところに行く。パジャマで寝息を立てる福寿はいつもと同じで無防備だ。私も奈々美さんのパジャマを貸してもらったけど、今日の私はバイトのときとは違ってすっぴん風メイクではない。本当にすっぴんだった。福寿は気にしていなかったようだけど。
福寿の寝顔を見ていると、私と違ってこんな幸せな家庭で産まれ育ってきたことただ羨ましくも思った。環境の違いのあるからだろう。私はやっぱり福寿が好きだ。好きだからと言って寝込みを襲うなんて卑怯者だと思うし、私がされたら怒ると思う。でも私はバレないように福寿に近付き布団をめくって福寿にキスをしていた。こんなことをする自分に気付かないで欲しい。これはペンダントの示した選択肢ではない。寝る前にペンダントは外しているし、ベッドに入る前だって、福寿にキスをするという選択肢は出なかった。二度目のキスは私の選んだ意志だ。ずっと福寿の元に居られるなら幸せなのに、どうせ壊してしまうのは私なのだろうと思っていた。
いつもそうだ。うまくいっていると思ってもいつもどこかで私は間違える。だからマザーにも選んでもらえない。マザーに選ばれなかったから福寿に会えた。奈々美さんと知り合うこともできた。マザーに選ばれないことで人生は遠回りしている。だって学ぶ必要のない大学院での学習もしている。六月になったら、マザーは私の将来を決めるしかない。そこで私達は離れることになる。それまでぐらいは。
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