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始まりの時
しおりを挟む緑豊かなゲデル王国の一画にある『火龍のダンジョン』にはマーブという恐ろしい男がいる。
それを知らない者はこの国には居ない。
マーブは『火龍のダンジョン』の一階層に建てた二階建の家に両親と住んでいる。
このダンジョンは最下層の九十九階に火龍が居る上級者向けのダンジョンだ。
一階層は魔物が出現しない事から小さな集落が形成され、何とか生活出来る環境がある。
人口は百人程しか居ないが、冒険者や観光客が絶えず訪れる為に祭りの様な活気がある集落である。
一般的にダンジョンはボスの特徴を色濃く受ける。
このダンジョンも例外なく火龍の影響を受け、今にも噴火しそうな活火山の様な造りをしている。
至る所で温泉が噴き出し、それが観光の目玉の役割を果たしている。
平均気温は三十度で少し暑いが、我慢出来ないほどでは無い。
そんな環境の中でマーブの家はダンジョン産アイテム買取と販売を行う一般的な道具屋を営んで生計を立てていた。
マーブは幼い頃から父の隣で店番をしていたお陰でアイテムはそこらの冒険者よりも詳しい。
そして今日、成人となる一八歳の誕生日に完全に店を任される事になった。
マーブは臆病な性格をしており、本来なら冒険者相手に買取交渉など出来る人間では無い。
そんなマーブがどうして荒くれ者が多い冒険者相手に商売が出来ているかというと、単にスキルによるものだった。
マーブのスキルは自爆。
感情の昂りが一定ラインを超えると九割の生命エネルギーを使用して防御力無視の大爆発を起こすスキルだ。
過去にマーブはこのスキルを発動させた事がある。
マーブが産まれた場所は王都から馬車で二日程移動した先にある村だ。
そこでマーブは二歳の時に癇癪を起こし、自爆スキルで全てを跡形も無く吹き飛ばしたのだ。
本人は覚えていないが、この時に実の両親を含む五百名の命を犠牲にした。
当時、王都の調査機関は爆心地で瀕死のマーブを見つけ、惨事の原因をマーブの自爆スキルだと特定していた。
報告書を読んだゲデル王は様々な分野の権威を集め、マーブを殺処分するか、兵器として僻地で軟禁するか議論をしたが中々結論にまで至らなかった。
そんな中、人権学者の夫婦が立ち上がり、王に話しかけた。
「マーブは兵器としてでは無く、人間として生きる権利があります。惨事の責任については本人が成人したら働かせて賠償金を分割で支払わせます。成人するまで私達夫婦が責任を持ってマーブを育てますのでご検討をお願いします。」
ゲデル王は長い髭を弄りながら考えた。
概ね問題は無いが自爆スキルの危険性は対策されねばならないと。
「そこまで言うなら構わないが、再び自爆スキルが発動したらどうするつもりだ。」
「私達は『火龍のダンジョン』に住居を構えます。あそこであれば自爆スキルが発動しても外には影響が無いはずです。そこで一つだけお願いがございます。最低限の生活が送れるように協力者を募集して頂きたいのです。」
武官達はマーブを他国牽制用の兵器として使用するつもりだった為に反対の声を上げた。
一方で文官達はリスクが大き過ぎると殺処分の声を上げた。
この場で夫婦の意見に賛同している者はゲデル王ただ一人。
全員が固唾を呑む中、ゲデル王はゆっくりと口を開いた。
「ゲデル王の名において命ずる。至急マーブの協力者を募集せよ。そして、全国民にマーブの存在を公開し、決して刺激しない様に通達せよ。」
こうして夫婦はマーブの親となり現在に至る。
この夫婦の女の名前はケアルという。
ケアルはマーブという名が危険な存在だと誰もが知っているが、マーブの顔を知っている者は少ないという事実を危険と感じていた。
その対策としてケアルはマーブに過剰なマークを付ける事にした。
まず、店内の至る所にマーブは自爆スキル持ちという貼り紙が貼った。
更に念の為にと上着の正面と背中側の両方に自爆スキルと刺繍を入れ、必ずそれを着用させていた。
その甲斐あってマーブに絡む冒険者は今まで一人も現れてなかった。
夫婦の男の名をバレルという。
バレルはマーブの十八歳の誕生日に二つの贈り物をした。
一つは何も刺繍されていない青いセーター。
もう一つは店内の張り紙を全て外す事だ。
この事によってマーブを危険視しない者が現れるかも知れないが、それでもバレルはマーブに普通の人生を送って欲しかったのだ。
もし無責任と批難された場合、夫婦が責任を持って育てる期間は成人するまでとゲデル王に言ってあると説明しようと考えている。
協力者達には事前にマーブのマークを成人したら外すと言っておいたが、誰一人去る者は居なかった。
こうして沢山の人々の思いを乗せて、マーブが店主になって初のオープンを迎えた。
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