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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
編入
しおりを挟むこの日、魔法庁附属魔法学校・紺碧校の本科では、珍しい編入生の知らせに騒めいていた。
「峯月累です。宜しくお願いします」
そう言って頭を下げたのは、黒髪黒目が珍しい、真新しい制服を着た少年だった。
身長は標準よりやや高い程度、体格は細くも太くもない、至って平均的なタイプだ。
落ち着いた態度で教室内を見渡す姿に、生徒たちは値踏みするような視線を向けている。
「こんな時期に編入……?」
「え、でも結構いい感じじゃん……」
「……最近ドロップアウトが多かったから、席は空いてるしねー……」
「本科の3年に編入とか……あと数ヶ月で入団試験だよ? 相当優秀じゃないと無理じゃない?」
「んー、ただのボンボンが、金だけ積んでコネのある場所に来たとか」
「ありえるー……」
ヒソヒソと囁かれる言葉たち。
悪意はないのだが、物珍しさのせいでひたすらに無遠慮だ。
ここ、魔法学校は、基礎科を1年・本科を3年とした、全寮制の4年課程だ。
10歳前後で行われる適性検査で、魔力の才能が認められた者だけが基礎科に入学し、1年間の基礎修練を積む。そして本科への進級試験に合格して、ようやく魔法を扱えるようになる仕組みだ。
本科への進級率は、40%程度。
難関をくぐり抜けた本科生だけが、実地訓練や模擬訓練などの訓練課程をこなし、ようやく3年生最後の月に、魔法師団への入団試験を受ける事が出来るのだ。
誰もが希望の師団に入る為に、この試験を非常に重視していることは、言うまでもない。
というのに、この編入生は、入団試験を数ヶ月後に控えたこの時期に、3年に編入してきたのだ。編入自体が珍しく、全寮制で話題の少ないこの学校では、興味を引かれない生徒なんていないだろう。
「強いのかな……?」
「やだなぁ、ライバルが増えるのは……」
本科の3年生にとっては、大事な入団試験で、自分のライバルになるのかどうかが非常に気になるところだ。
編入生とどう接するのが得策か、値踏みするような視線を向ける者もいる。
居心地が悪いだろうその空気を、彼は全く気にもとめず、突き刺さる視線の中で悠然と立っていた。
背筋を伸ばしたその姿からは、彼がどんな使い手なのか、全く読めない。
「鷺ノ宮くん」
「はい」
男性教師の呼び掛けで席を立ったのは、この紺碧校で生徒会長の座についている、クラスでも一目置かれている美少女だ。
教師の意図に気付き、教卓の横に立っている編入生に向かって微笑みかけた。
「私は鷺ノ宮ユーリカ、この紺碧校の生徒会長をしています。何かあったら頼ってくださいね。隣の者は冬馬ハルト。同じく副会長ですので、よしなに」
「宜しくお願いします」
「——じゃあ峯月君は、そこの空いている席に座ってください」
教師に向かって小さく返事をした彼が、指示された席へと歩いていく。
席は後ろ寄りの中央で、最近空いた席だ。
滑らかな動作で椅子を引き、席に着く。
——そして、ふいに横を向いた。
「こんにちわ、宜しく」
「……っあ、宜しく、お願いします……」
突然、柔らかい笑顔で話しかけられた隣の席のニイナ・ファレルは、焦って裏返った声を、笑顔で誤魔化した。
珍しい編入生を、あまりに不躾に眺めていたかもしれない。
どこか雰囲気のある彼にまっすぐ見つめられて、気恥ずかしさにそわそわしてしまう。
「まだココのこと、良く分かってないんだ。何かあったら教えてもらっていい?」
「あ、うん。もちろん! 私はニイナ・ファレル。ニイナでいいよ」
「ニイナね。俺のことも累でいいよ」
にっこりと笑った累に、付き合いやすい人で良かった、と内心、胸を撫で下ろしたニイナ。
あまり成績の良くない彼女は、そのふんわりした見かけと相まって侮られることが多い。
だから、累の友好的な態度に一気に好感を覚えた。
と同時に、おさまりの悪い綿毛のようなボブヘアが気になりだす。
前もって知っていたら、ちゃんと編み込んで来たのに、なんて思いながら毛先を弄る。
くりくりの瞳と相まって幼く見えてしまうのが、最近の悩みなのだ。
「——さて。じゃあいつも通り、模擬訓練の説明を始めますよ」
教室内は、累とニイナのやりとりを、それとなく意識していたようだ。
普段と違う、若干うわついた雰囲気のまま、授業に突入した。
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